2003年 11月8日の放送

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  ドル円はもみ合いが続いているが、今週はユーロの下落が目立った。対ドルを例に取ると、このところ1ユーロ=1.18ドル前後で推移していたが今週急落、7日の東京市場では1.14ドル台で低迷している。米国には財政赤字と経常収支赤字の双子の赤字問題が大きくのしかかっており、中長期的に一段のドル安は避けられない、との見方は依然根強く残っているものの、一方で地域間の景況感の格差に注目してドルを買う投資家も出てきているようだ。

  実際、今回のドル買いユーロ売りのきっかけとなった材料のひとつに、3日に発表された10月の米製造業景況指数がある。インデックスは57.0となり、2000年1月以来の高い水準になった。ユーロ圏の景気回復が米国ほどパッとしないため、目先はややドルが買われやすい地合いとなっているのかもしれない。

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  では欧州サイドはユーロ圏の景気見通しをどう見ているのであろうか。最近ヨーロピアン・コミッションが経済予測の秋季レポートを出したので、その概略を紹介する。このグラフは今年を含む向こう3年間の景気予測。一言で言うと、報告書は“慎重ながらも楽観的”(Cautiously Optimistic)といった内容で、そうじて景気は上向きになると予測されている。GDP成長率は今年こそ0.4%にとどまるものの、来年は1.8%、再来年は2.3%と徐々に回復するシナリオを立てている。低迷している設備投資も企業者マインドの改善によりマイナスからプラスに転じる見込みだ。経常黒字も増加を続け、2005年にはGDPの1.3%に達すると予測されている。

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  このように楽観的なシナリオの背景にはいくつかの要因があるが、まず第一に株価の回復が大きい。左上のグラフは、ダウの欧州50種株価指数推移。イラク戦争直前の3月には1900レベルまで売り込まれていたが、その後中東情勢不安の後退から急回復し、現在は当時より35%高い水準にある。これが金融機関を中心とする機関投資家のポートフォリオ改善に大きく寄与した。

  第二が海外経済の回復期待だ。ユーロ圏の経済が輸出に頼っている構造は今も昔もあまり変わらない。まず米国だが、直近のGDPが年率7.2%の高成長を遂げたのは記憶に新しいが、ヨーロピアンコミッションは来年3.8%の成長を予想している。アジアへの期待も高い。中国の8%成長を筆頭に、日本を含むアジア全体で5.5%の成長を見込んでいる。

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  楽観的に見えるユーロ経済だが、内需の動向は微妙なようだ。承知のように、欧州の法人部門もITバブルの余波を受け、2000年前後にかなり過大な借入をおこなっており、そのバランスシート調整の進み具合が景気回復の鍵となっている。報告書は法人部門の財務基盤について“少なくとも今年の春よりは改善した”と述べているものの、どの程度、財務基盤が強化されてきたかは推測が難しいとしている。一応、GDP対比でみた非金融セクターの負債残高比率が60%前後で安定してきたこと、株価が上昇したこと、金利が低位安定していること、などにより改善傾向にはあるとしているが・・・。

  家計部門の動向を見ると、思いのほか“住宅バブル”が進んでいるようだ。住宅バブルというと、つい米国を思い浮かべるが、欧州もなかなかのものである。2002年の住宅価格伸び率を見ると、スペインの17.4%を筆頭に、イタリアが10.0%、フィンランドが8.7%といずれも高い。フランスも6.7%上昇している。このため家計も住宅ローンの残高を増やしており、5%前後の債務残高上昇が各国で見られる。報告書は決してこの傾向を歓迎しておらず、むしろ今後の景気動向によっては、消費に急ブレーキがかかる可能性があることを懸念している。おもしろいのはドイツだけが蚊帳の外で、住宅価格なども95年以降まったく上昇していない(95年〜02年の平均は0.0%)ことだ。

  総じてユーロ圏の経済も回復傾向にあると言えそうだが、そのテンポは緩やかで、米国のような力強い成長を示現するにはまだ時間がかかりそうである。

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  31日(金)の海外市場は109円前後で始まったが、米景気回復期待からドル買いが強く、一時110円23銭までドルは上伸した。引けは109円97銭。

  3日(月)の東京市場は休場。海外では発表された米ISM景況指数が高かったことからドル買いが進み、損失覚悟のドル買いも巻き込んで一時111円50銭までドルは急騰した。その後は輸出企業のドル売りなどが入り、110円95銭で引けた。

  4日(火)の東京市場は110円85銭で取引開始後、日経平均が大幅高となったこと(前日比288円高)や、輸出企業がドルを売ったこと等により一時110円ちょうどまでドルは売られた。海外でもドル売りの流れが続き、結局109円55銭で引けた。

  5日(水)の東京市場は109円台後半の推移。海外も週末の米雇用統計を控え、静かな動きとなった。引けは109円85銭。

  6日(木)の東京市場は110円をはさんだもみ合い。海外では、米失業保険申請者が減少したことでドル買いがやや優勢となり、110円20銭で引けた。

  7日(金)の東京市場110円台前半でももみ合いとなっている。

  3日は波乱相場となったが、当面の戻り高値をみて、相場は一段落となっている。中長期的なドル安リスクは依然残っているものの、目先は堅調な米景気に支えられ、ドル下落も一服か。最近軟調に推移しているユーロの動きが波乱材料となりそう。

  G-SECインデックス速報は50ちょうどなり、円高派と円安派が同数、やや方高感をなくしている。しばらくは手がかり材料難となりそうだ。