2003年 3月1日の放送

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  注目されていた日銀総裁人事がついに発表された。結局小泉首相は本命と言われた福井富士通総研理事長を選択、サプライズのない内容となった。福井氏は東大法学部を卒業後、1958年に日銀へ入行、はやくから日銀のプリンスと言われ、94年に日銀副総裁となっている。しかし98年の接待不祥事で当時の松下総裁と共に辞任、その後は民間の立場から積極的に金融政策などについて発言を続けていた。
  日本経済は難局の真っ只中にあるが、政府は福井氏のような金融実務に詳しく、政策運営経験も豊富な人物が最適任と判断したようだ。副総裁は事前の予想と異なり、財務省から武藤前事務次官、学界から岩田教授が選ばれた。岩田東大教授はインフレターゲットに前向きな考えを持つと言われているが、市場の反応は鈍く、為替では円高、株式は売りの強い展開が続いている。小泉首相は年初から「(日銀総裁には)デフレ解決に積極的な人物になってほしい」と述べていたが、市場は新布陣はやや力不足との印象を持ったようだ。
  25日付の英フィナンシャル・タイムズ紙は、この人事について、日本経済の解決にはならず、失望を招くとの社説を掲載している。同紙は、福井氏について候補者のなかで最もパンチに欠ける人物であり、無難な人選は、多くの改革を中途半端にしている小泉首相の姿勢を反映している、と指摘。福井氏を歓迎している人々は、日銀のこれまでの安全策が、景気低迷やデフレ、政府債務の拡大を招いたことを再考すべきだ、と述べている。

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  自明とはいえ、新総裁の最大の課題はデフレ克服である。なかでも深刻なのが株や土地などの資産価格。戦後45年間、土地の値段は上がり続け、ピークの91年には当初の約4200倍に達した(46年9月の指数0.035に対し、91年9月のそれは148.0。資料:日本不動産研究所)。現在は84.3とピークから4割強下がっているものの、依然下げ止まりの気配はない。このような大幅な下落が日本経済に深刻な影響を与えていることは誰もがわかっているが、この10年間結局何の積極的打開策も取られてこなかった。今後も下がり続ければ、日銀へのプレッシャーが一段と高まることは必定。インフレターゲットを否定している福井新総裁が、どのような考えでデフレと向き合うのかが注目される。

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  福井日銀総裁後の最初の日銀政策委員会・金融政策決定会合は4月の7、8日に行なわれるが、岩田次期副総裁は追加的な金融緩和策として、日銀による長期国債の買い入れ上限を撤廃する案を挙げている。財務省も同様の意向を持っていることから、実現の可能性は高いかも知れない。物価下落に歯止めをかけると同時に、国債金利を安定させることが狙い。
  速水総裁が5年前に就任した頃、毎月の長期国債買い入れ額は月4000億円に過ぎなかった。その後量的緩和策に本腰を入れた日銀は、まず2001年8月に月6000億円の国債買い入れ増額に踏み切った。その後も増額を続け、現在では月1兆2000億円となっている。このため、上のグラフにあるように日銀の国債保有額は80兆円を超える規模にまで膨らむ一方、国債金利はこの10年間で大きく低下、ついに1%割れを恒常的に示現する状況となっている。この政策がどこまで景気浮揚に効果があるのかは不明だが、これが福井新総裁の最初の決断を問う議題となるかも知れない。

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  インフレターゲットに消極的な福井新総裁も、銀行への資本注入には前向きと言われる。銀行が貸し渋りに走る根本的原因は自己資本不足にある。今のところ大手各行は自力での増資に全力を挙げているが、今後もデフレに歯止めがかからず、かつ景気の悪化が続けば、福井氏が総裁を務めるこれから5年の間に何度かこの問題に関する検討を迫られることになろう。日本経済は金融・財政面で解決困難な数多くの問題を抱えており、そのどれが表面化しても、日銀は解決策の一翼を担わされることになろう。福井氏の5年間は日本の将来を決める5年間になるかも知れない。

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  21日(金)の海外市場は、118円台の推移。NYスタテン島の石油関連施設爆発事件の報などがあったが大きく動かず、結局118円65銭で引けた。
  24日(月)の東京市場は118円75銭でオープン。福井日銀総裁の報道にドル売り円買いが優勢な展開となった。海外でも新人事を見て円安期待が後退、117円90銭で引けた。
  25日(火)の東京市場は、北朝鮮によるミサイル発射報道で一時ドル買われるも続かず。逆に塩川大臣の「日本の強い経済力からは円高にならざるをえない」との発言に、ドル売り円高が進んだ。海外でも米消費者信頼感指数が約9年ぶりの低水準へ低下、一時117円ちょうどまでドルは低下した。引けは117円35銭。
  26日(水)の東京市場は117円50銭を挟んでの小動き。前日海外市場で当局による円売り介入があったとの噂も市場を動きづらくした。海外では、ドルじり安が続き、117円10銭で引けた。
  27日(木)の東京市場は117円を挟んだ小動き。覆面介入への警戒感からドル売りも限定的となった。海外では、フセイン大統領が兵器破壊に同意したとの噂にドル全面高となり、117円75銭で引けた。
  28日(金)の東京市場は、117円台後半で推移している。
  市場では117円より円高の水準では金融当局が今後も介入を続けるとの憶測が強く、さらなるドル売りは進めにくい状況となっている。しかしながら、イラク情勢が依然として不透明なことや、実需のドル売り円買いが今後もコンスタントに出ることを考えると、116円近辺までドル安円高が進む局面も予想される。イラク開戦後の動きについては、短期的にはドル安に振れても、あまり長続きしないとの指摘も多い。
  G-SECインデックスは50を上回っており、市場参加者はあまり大きな円高を見込んでいない。