2003年 2月15日の放送

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  毎年2回行われるFRB議長による議会証言が今月11日と12日、行われた。景気については、昨年7月の議会証言以降の推移を述べているが、特に市場の目を引くことはなかった。市場を驚かせた11月の利下げは、景気全体の弱さが一段と広がるのを防ぐための“保険”だったことを改めて強調した。昨夏以降、経済はおおむね上向いたとし、特に生産が拡大したと述べている。企業部門は弱いが、家計が全体の成長を牽引したと言う。生産性の向上も続いており、家計部門の所得増加に寄与したと言う。

  今回の証言で注目されたのは、ブッシュ政権が実現しようとしている大型減税策にかかわる発言。通常、中立的な立場をくずさないグリーンスパン議長だが、めずらしく政府の政策に疑問を呈したため、フィナンシャル・タイムズ紙なども“ホワイトハウス、FEDとの溝を重大視せず”として、わざわざこの問題を取り上げている。どこの国の議員も減税は賛成であり、増税や支出削減には反対である。グリーンスパン議長は米国経済の金利感応度が高いことを深く認識しているため、今後財政規律が緩むと金利が上昇してしまい、ふらついている景気の息の根を結局は止めてしまうことをなによりも恐れているのであろう。

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  議会証言と同時にFRBは2003年の経済見通しを数字で示している。それによると、今年第4四半期のGDP伸び率(前年同期比)の中心予想は、3.25%から3.5%のレンジとなっており、前回(2002年7月)の議会証言時の予想の3.5%〜4.0%レンジより下方修正されている。また、グリーンスパン議長が重視する個人消費支出の価格指数(デフレーター)は、1.25%〜1.50%と予想され、こちらも前回より下方修正されている。

  上のグラフは、過去のGDP前年同期比伸び率と個人消費支出デフレーターの推移を示したものだが、もしGDP伸び率がFRBの予想どおり3%台を維持できれば、91年当時の景気後退時期より比較的浅いものに終わることになる。

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  14日、内閣府は2002年第4四半期(10〜12月期)のGDP1次速報値を発表した。大方の民間予想を裏切り、GDPは季節調整済み前期比でプラス0.5%を示現、4期連続のプラス成長を達成した。0.5%増のうち、0.3%は外需による寄与で、好調な輸出が日本経済を支えた形になっている。個人消費は所得減少の動きが続くなか、よく持ちこたえ、同プラス0.1%を確保した。民間設備投資も堅調で、同プラス1.0%の伸びとなった。ただし設備投資の数字は、3月5日に発表される2002年10〜12月分の 「法人企業統計季報」の内容によっては推計値が下方修正される可能性もあろう。また世界経済の減速が顕著になりつつあり、外需による寄与度も今後は徐々に低下しそうだ。今回発表されたGDPの2次速報値は3月11日に行われる。

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  実質ベースの数字はたしかに良かったが、デフレの象徴的数字であるGDPデフレーターはマイナス幅を拡大している。前年同期比で見ると、7-9月期のマイナス1.9%から10〜12月期はマイナス2.2%となった。このため、GDPの値を名目ベースで見ると全く様相が変わり、上の表のように各項目で前期比マイナスが並ぶ。GDP全体でも伸び率はマイナス0.1%と水面下だ。このように実質と名目で全体象が大きく変わるところに特徴があるのが現在の日本経済であり、その意味でこの表は今の日本の苦悩を良く表していると言えそうだ。

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  7日(金)の海外市場は米雇用統計が予想より良い内容となったため、一時ドル買いが進んだものの、その後は本邦輸出企業によるドル売りなど出て、120円をはさんだ動きが続き、結局120円25銭で引けた。

  10日(月)の東京市場は120円45銭で寄付き後、同レベル前後でのもみ合いが続いた。海外では、次期日銀総裁人事にからみ円安誘導への思惑が高まり、ドル買い円売りが進んだ。引けは121円30銭。

  11日(火)の東京市場は休場。アジア市場では121円台前半の推移が続いた。海外では、イラクが上空査察を受け入れたことでドルの買戻しが進み、一時121円台後半までドルは上伸したが、その後はドル売りが優勢となり、結局121円05銭で引けた。

  12日(水)の東京市場は121円ちょうどでオープン。その後は輸出企業によるドル売りが強まり、120円台後半で推移した。海外では、米国との戦いを呼びかけるビンラディン氏の録音テープが流されたことからドル売りが活発となったものの、その後はオプション絡みのドル買いが入り、結局121円40銭で引けた。

  13日(木)の東京市場は121円35銭でオープン、その後は2月が外債の償還月にあたるということで、本邦機関投資家のドル売り円買いが出たたため、ドルの頭の重い展開が続いた。海外では、121円を挟んだ動きが続いたが、ユーロ買いドル売りの動きを受け、ドルは対円でも値を下げ、結局120円60銭で引けた。

  14日(金)の東京市場は120円50銭を挟んだ動きとなっている。

  引き続き不透明なイラクや北朝鮮情勢をにらみながらの神経質な展開が続いている。世界的に株価は軟調な地合いが続いているが、日本株は相対的に堅調な動きを示していることから、目先は海外投資家からの円買いがドル売り圧力となる可能性はある。しかし覆面介入の実施により、ドルは120円より下の水準では売り込みにくくなっており、しばらくはレンジ相場が続きそうだ。

  G-SECインデックスはほぼ50に近く、市場参加者はあまり大きな動きを見込んでいない。