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2002年 12月14日の放送
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6日にオニール財務長官が辞任を表明、為替市場では大きくドルが売られるなど激震が走った。オニール財務長官交代の予想はかねてよりあったものの、リンゼー大統領補佐官も合わせて辞表を提出したことで、市場は不意を衝かれる格好となった。
ドル高政策を転換するとの憶測も一部にはあるが、海外からの投資なくては経済が立ち行かない国がそのような政策を公に持ち込むことは考えにくく、むしろ議会工作が得意なスノー氏を起用することで、政府としては減税策の実施などをスムーズに行い、1日も早く景気回復に磐石の備えを打ちたいということであろう。オニール氏は市場との意思疎通もまずかったが、議会でも人気はなかったようだ。
ジョン・スノー氏は大手鉄道会社のCEOとして成功を収めた人物だが、財務長官としての能力はまだ未知数。実業界出身のオニール氏でうまく行かなかったのだから、本来であれば、ウォールストリートから後任を抜擢しそうなものだが、ブッシュ大統領はその選択をしていない。果たしてブッシュ大統領の選択は正しかったのか。その答えは、来年の米国経済指標が出すことになる。
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昨年の同時テロ事件以降、国際政治動向に最大限の注意を払っていたブッシュ政権も、将来の再選をにらみ経済にも目を向け始めたわけだが、今後米国経済はどう展開するのか。米連邦準備制度理事会(FRB)は12日、0.5%の大幅利下げを決めた11月6日の連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録を公表した。これを読むと、FRBが今後の経済動向についてどのようなシナリオを描いているかについての概要がわかる。
まずインフレだが、全くリスク要因となっていない。経済が予想より低成長を続け、失業率が上昇している中で、インフレは当面落ち着いた動きが続くと想定している。このことは今後少々景気が上向くことがあっても、容易に引締め転換しないことを意味している。可能性は小さいとしながらも、むしろデフレのリスクについて言及している点が注目される。また他国の経済に全く期待しておらず、輸出促進による景気浮揚シナリオは全く想定されていない。
要するに、欧州も日本も先行き望み薄とみなされている。設備投資は当面大きな反発はないと想定されているが、今後の鍵を握る要因として地政学的リスクの行方と収益見通し動向が挙げられている。このうち後者については、生産性が上昇していることから、予想以上に改善する可能性もあると指摘されている。個人消費については、生産性の上昇による所得増加効果などから底堅いだろうと予想されている。ただし金融面では、利下げにもかかわらず、銀行貸出条件が厳しくなっていることが懸念されている。
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では、その後発表されている経済指標はどうであろうか。上は12日に発表された11月の米小売売上高と過去1年間の推移。夏以降やや売上高は落ち込んだものの、11月は季節調整済みで3025億ドルとなり前月比プラス0.4%となった。自動車は前月比マイナス0.1%となったが、その他の売上はプラス0.5%となり市場の予想を上回っている。家具や建材・園芸品の売上などが堅調で、これらは好調な住宅市場を反映していると言えそうだ。
自動車などの高額な買い物は避け、値段の手頃な物へ消費が移っているとの指摘もあるが全体では増加傾向にあり、今のところFRBの予想通り、個人消費は堅調に推移していると言える。
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一方労働市場はFOMC議事録の指摘どおり、人員余剰が目立つ状況となっている。上のグラフは米失業率と非農業部門雇用者増加数の最近1年間の推移。雇用の増加はこの1年まったく改善の兆しが見えていない。11月の雇用者数は前月比4万人の減少となり、2ヶ月ぶりにマイナスとなっている。
過去20年を振り返っても、これほど雇用増加がもたついた例はなく、企業の先行き見通しは極めて慎重なものになっていることが伺われる。失業率も悪化が続いている。11月は6%ちょうどなり、前月の5.7%から大きく上昇した。失業率は2000年に4%前後にまで低下して以来、完全に底を打った形となっており、当面改善は見込みにくくなっている。それだけに、ブッシュ政権も真剣に取り組まざるをえない課題となっている。
今後米景気が回復に向かうとしても、当面は“JOBLESS RECOVERY”(雇用なき景気回復)となりそうだ。
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6日(金)の海外市場は125円台前半でオープン、その後は雇用統計で米失業率が上昇したことやオニール財務長官の辞任表明によりドル売りが強まり、ロング筋の投げも手伝い、ドルは一時122円台前半まで急落する展開となった。しかしその後は、ドル買戻しが強まり、結局123円55銭で越週した。
9日(月)の東京市場は123円32銭で取引開始、その後は米財務長官の後任人事をめぐり不透明感が出ていることが嫌気され、ドルは弱含みの展開となった。後場にCSXのスノー氏の名が浮上すると、ドル高政策継続に懐疑的な見方が出てドル売りが加速、122円台半ばまで下落した。しかし海外では、本邦機関投資家を中心にドル買い意欲が強く、結局123円台半ばでの引けとなった。
10日(火)の東京市場は123円32銭でオープン後、海外市場の地合いを受け継ぎドルは堅調に推移した。海外では大きな動きはなく、123円80銭で引けた。
11日(水)の東京市場は123円95銭で寄り付いたものの、本邦輸出筋のドル売りやクロス円での円買いにドルは下落、123円台前半まで売られた。海外ではドル買戻しが優勢となり、123円60銭での引けとなった。
12日(木)の東京市場は海外市場での堅調な地合いを受けて、123円台後半まで買われたが、同レベルでは本邦輸出企業からのドル売りオーダーが控えていたことなどからドル売り優勢となり、123円30銭の安値まで売られた。海外では、ユーロが対ドルで堅調に推移したことを受けて、ドルは対円でも売られ、122円台後半で引けた。
13日(金)の東京市場は122円台半ばでオープンしたが、発表された12月の日銀短観において大企業・製造業の業況判断指数が予想より良かったことからドル売り円買いが進み、一時122円台前半まで下落した。その後はドル買戻しが優勢となり122円台半ばでのもみ合いが続いている。
前週まではドル高地合いだったが、オニール財務長官の辞任表明をきっかけにドル売りが強まり、再び従来のレンジに戻ってきた。現状はレンジの下限に近づきつつあるため、目先ドルが反発する可能性もあろうが、ドル・円いずれも材料に欠け、大きな動きは見込みにくい。
GSECインデックスは依然50を上回っており、市場参加者は引き続きドル高円安を期待している。
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