2002年 11月30日の放送

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 26日に発表された米第3四半期のGDP改定値は前期比プラス4.0%(季節調整済み年率換算)となり、当初の発表より0.9ポイント上方修正された。春先以降の株価急落により今後の先行きが懸念されていたが、鍵を握るとされたGDPの70%を占める個人消費は同プラス4.1%を記録、予想以上に健闘している。上のグラフは両者の季節調整済み年率換算の推移。両者とも今年後半にかけて盛り返していることがわかる。一方、民間設備投資は依然低迷しており、2000年第4四半期から8期連続でマイナスとなっている。反面、住宅投資はプラス2.1%と堅調に推移している。

 コンフェレンスポードの調査によると、米国人の家庭がクリスマスプレゼントの購入に予定している出費は昨年より5%多い483ドルだと言う。住宅価格上昇による資産効果もあり、個人消費はもうしばらく堅調な勢いを保つということであろうか。

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 一方、ユーロの景気は今ひとつ盛り上がりに欠けている。上のグラフはGDPと民間消費の季節調整済み年率換算推移。米国のように昨年GDPがマイナス成長に落ち込むことは無かったが、全体に下方トレンドをたどっていることがわかる。GDPは第2四半期にプラス0.7%と若干前期より上昇したものの、まだ予断を許さない状況だ。懸念されるのは民間消費の低迷。昨年までは2%を若干切るレベルで推移していたが、今年に入ってからプラス0.6%(第1四半期)、プラス0.4%(第2四半期)と低迷が顕著になっており、米国との違いが目立つようになってきた。

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 本来であれば、財政政策を出動させることで景気の上昇を図るのが政府の使命だが、ユーロ諸国は「安定・成長協定」により年間の財政赤字をGDPの3%以内に抑えるよう厳しく律しられている。上のグラフはユーロ圏およびフランス(グラフ中央)、ドイツ(同右)の対GDP比財政赤字の推移。ユーロ圏全体では99年以降おおむね安定しており、全体として赤字は抑制された状態にあることがわかる。しかし、景気の落込みによる税収減からフランスやドイツの財政赤字は今後悪化が見込まれている。フランス政府は今年の財政赤字比率が2.8%に上昇するとしているほか、ドイツのそれは欧州委員会が3.8%に達するとの見通しをまとめているという。

 だが、ドイツはユーロ圏GDPの3割、フランスは2割を占める経済大国であり、両国の経済が上向くことなしにユーロ圏全体の本格回復はない。財政赤字の縛りがある中でこの問題をどう解決するかが、政策当局者の最大の課題と言えよう。

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 このため、もっともプレッシャーがかかるのは金融政策である。政策金利である2週間物レポ金利は3.25%に据え置かれており、米国のFF金利より2%も高い水準にある。引き下げ余地は十二分にあり、今後欧州中央銀行(ECB)に対する引き下げ圧力は一段と高まろう。11月6日にFRBが予想以上の引き下げを実施したため、翌7日の理事会でECBも追随するのではないかとの思惑が高まったが、結局見送りとなり、市場を失望させた。FRBは成長重視、ECBはインフレ重視という違いが明白に出た格好となっている。

 では、ECBのドイセンベルグ総裁は今後の景気をどう見ているのか。上は今月メキシコで行った総裁のスピーチ要旨。年初予想していた景気回復が見込み違いに終わった背景として株安やイラク問題を挙げたが、来年については慎重ながらも若干楽観的な見方を披露している。だがフランス、ドイツ、イタリアといった大国の経済を浮揚させるには思い切った利下げ断行が不可避となりつつある。ドイセンベルグ総裁は来年7月に任期途中で降板する予定になっているが、限られた時間のなかでどこまで効果的な金融政策を打ち出せるか、その手腕が問われている。

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 22日(金)の海外市場は122円台後半でオープンしたが、動意に乏しく、122円90銭で越週した。

25日(月)の東京市場は123円10銭で寄付き後、海外勢のユーロ売り円買いの動きにつられドル売り円高が進んだ。速水総裁が、デフレ脱却のための円安誘導に慎重な見方を披露したことも円高材料となった。海外ではユーロ売り円買いの動きが持続、結局122円15銭での引けとなった。

26日(火)の東京市場は122円07銭でオープン、その後は122円を挟んでの小動きとなった。海外では米消費者信頼感指数が予想を下回ったためドル売りが優勢となり、121円台半ばでの引けとなった。

27日(水)の東京市場は121円55銭で取引開始後、S&Pによる一部生保の格下げ報道からドルは買われ、121円台後半へ上昇した。海外では米株が大幅上伸したことからドルは続騰し、122円30銭で引けた。

28日(木)の東京市場は122円37銭でオープン、そのまま小動きに終始した。海外は感謝祭でNY市場が休場のため、同レベルでの静かな動きが続いた。

29日(金)の東京市場は122円台前半での静かな動きとなっている。

 このところ手がかり材料難から動意の乏しい展開が続いている。しかし来週からはECBの理事会(5日)や米ISM景況指数(3日)、米雇用統計(6日)など材料がいろいろ出てくる。米株式市場の動向も引き続き重要だ。日欧に比べると、米国の景気がやや良好であることからドル買いが若干進みそうだ。しかし、イラク問題などの“地政学的リスク”は依然残っており、レンジを超えた大きな動きはまだ見込みにくい。  GSECインデックスは依然高水準を保っており、市場参加者はドル高円安を期待していることがわかる。