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2002年 11月2日の放送
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大揉めとなっていた政府の総合デフレ対策が決定した。上の項目は金融に関係する項目を列挙したもの。銀行資産検査の厳格化は過去何度も提唱され、実施され、そしてまた提唱されてきた。今回の目玉は、資産査定にDCF法(Discount Cash Flow。過去の倒産確率からその企業の危険度を測るのではなく、将来見込まれる営業収入等を見て借入金の返済が可能かどうかを判断するもの)を用いることにあるようだ。これにより銀行は引当金の大幅な積み増しを迫られる可能性が高くなったと言えよう。このため公的資金の注入も、金融危機の到来を待たず迅速かつ機動的にできるよう新法も含めた新制度を検討するという。
産業再生機構の設立を支持する声は多い。不良債権の持ち込み先であるRCCでは企業再生機能が十分でないとの指摘が従来よりあり、それらの意見を取り入れた形となっている。しかしその具体策はこれから揉めそうだ。企業再生の決定権は産業再生機構が握ることになり、まさに「地獄の閻魔大王」(塩川大臣)となる。それだけに与党からの関与もうるさくなることが予想され、どれほどうまく機能するかは未知数だ。
政府の行動に合わせて、日銀が金融緩和に踏み切った。内容は当座預金残高の目標引き上げ・長期国債の買い入れ額増加・手形買入期間延長の3本柱。速水総裁が「皆さん、一段の金融緩和が効くと思いますか」と訴えて、株式買い取り案を発表したのが9月18日。なぜか総裁は再び金融緩和策の拡大に前向きになったようだ。
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今後の前途は多難だ。政府は過剰債務企業が再生できるかどうかの判断基準のひとつとして、再建計画の終了時に負債が年間キャッシュフローの10倍以下になるかどうか、という点を挙げている。しかしその10倍でさえ歴史的に見ると高水準である。
上のグラフは1971年以降、企業債務(短期・長期借入金+社債)が年間キャッシュフロー(経常利益+減価償却費+支払利息・割引料)の何倍で推移してきたかを企業規模別(グラフで大企業とは資本金10億円以上のもの。中堅企業は同1億円以上10億円未満、中小企業は同1000万円以上1億円未満を指す)に見たもの(Data:法人企業統計)。
これを見ると80年代前半の企業の負債倍率は大体4〜5倍で、規模に関係なくどれも安定していたことがわかる。しかし90年代後半にかけて特に中堅・中小企業における負債が大幅に増え、それぞれ8倍前後にまで膨れ上がった。直近(4〜6月期)のデータを見ると、中堅・中小企業の合計債務は297兆円にのぼるが、これに対する年間のキャッシュフロー(直近4四半期の合計)は36兆円しかない。
もし、この債務残高を80年代はじめの水準である5倍程度(36×5=180兆円)に圧縮しようとすると、さらに117兆円負債を削減しなければならない。竹中プランは半歩前進としても、過剰債務の問題はこれからもまだまだ続くと言えそうだ(参考資料:内閣府「年次経済財政報告」、ドイツ銀行レポート「不良債権は本当に抜本的に処理され得るのか」)。
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29日に発表された米消費者信頼感指数が急落した(紺色の折れ線グラフ)。10月の指数は79.4と前月の93.7から急低下し、ほぼ9年ぶりの低水準となった。急落した原因のひとつとして、イラク情勢が挙げられている。米国が攻撃に踏み切った場合の先行きが不透明になっていることが、消費者心理を冷やしているようだ。
オレンジの折れ線グラフは1991年の湾岸戦争前後の時の推移(89年1月〜91年6月まで。湾岸戦争が勃発したのは91年1月)を重ね合わせてみたもの。仮にイラク攻撃が来年1月に行われれると仮定すると、現在は攻撃3ヶ月前ということになるが、90年10月当時(湾岸戦争勃発の3ヶ月前)の消費者信頼感指数も、現在と極めて似た動きをしていたことがわかる。米国によるイラク攻撃実施は来年1月あたりが今のところ最も可能性が高いと言われており、今後年末に向けて消費者信頼感指数は一段と下押し圧力にさらされる可能性がある。
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一方、足元は堅調である。31日に発表された今年第3四半期(7〜9月)の米GDPは、前期に比べ季節調整済み年率でプラス3.1%の成長を示現した。予想より低かったとはいえ、鍵を握る個人消費は同プラス4.2%となり、第2四半期のプラス1.8%から大きく増加した。堅調な住宅価格に支えられ、今のところ落ち込む数字は表れていない。
設備投資は2000年第4四半期から7期連続で前期比マイナスが続いていたが、ようやくプラス(0.6%)に転じた。物価も落ち着いており、GDPデフレーターは前期比年率でプラス1.1%と前期より0.1ポイント低下した。FRBが重視する個人消費支出のデフレーターは同プラス1.9%となり、前期のプラス2.7%から大幅鈍化している。
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25日(金)の海外市場は123円台後半での取引が続いていたが、金融安定化策をめぐり「全銀協が東京時間午後10時に緊急記者会見を開く」と報道されたためドル買い円売りが強まり、124円30銭までドルは上昇して引けた。
28日(月)の東京市場は124円台前半でオープン。黒田財務官の円安容認発言に一時125円台に乗せるなど、ドル堅調地合いが続いた。しかし海外で米系証券などが大口のドル売りを持ち込むとドルは大きく下落、123円55銭での引けとなった。
29日(火)の東京市場は123円47銭で寄り付き後、123円台半ばでの小動きが続いた。海外は米消費者信頼感指数が大幅低下したことを受け、一時122円台前半までドルは急落した。引けは123円20銭。
30日(水)の東京市場は123円ちょうどで取引開始。実需のドル売りに122円半ばまでドルは下落し、その後はもみ合いが続いた。海外では米系投機筋のドル買いに123円ちょうどまで戻して引けた。
31日(木)の東京市場は122円90銭でオープン。本邦輸出企業や米系ファンドによるドル売りに122円30銭までドルは軟化した。海外ではシカゴ購買部協会指数が悪化したことを受け再度ドル売りが強まったものの、その後はドル買戻しが優勢となり、122円台半ばで引けた。
1日(金)の東京市場は122円台半ばでの静かな動きとなっている。
政府のデフレ対策が発表されたこともあり、とりあえず日本の悪材料をベースとしたドル買い円売りは治まっている。むしろこのところは、米景気指標の悪化が再び目立つようになってきており、ドルの一段高は難しそうだ。対ドルでユーロが堅調に推移していることも円売りを進みにくくしよう。GSECインデックスは53.6となり、市場では円安を予想する向きが若干多い。
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