2002年 10月12日の放送

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  世界的な株の下落が続いている。日経平均は10日、一時8200円割れを示現したが、その後買い戻しが入り、なんとか8500円台まで戻して越週した。米国やドイツも株安に見舞われており、上のグラフにあるように、この3ヶ月だけで日米で2割、ドイツに至っては4割も下落している。日本については、持ち合い解消売りに加え、最近では不良債権処理の加速が景気を悪化させるとの懸念から売りが優勢な展開となっている。ドイツは景気悪化が続いている上、ハイテク株の下落が止まらないことや、金融不安などが株価の頭を抑えている。さらにECB(欧州中央銀行)が金融緩和にあまり積極的でない点も嫌気されているようだ。

  しかし何と言っても最大の要因は米国株の下落に歯止めがかかっていないことであろう。この3ヶ月間の下落幅は日本とあまり差異がないが、“世界最大の消費国”である米国経済がもたつくことはアジアにも欧州にも大きな影響を与える。結局鍵は米景気の行方にある、と言えそうだ。

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  しかし米国経済の指標を見ると、株価の下落ほど悪化していないことがわかる。上は99年第一四半期から今年第二四半期までの実質GDP伸び率(前年同期比)推移。昨年第二、第三四半期はマイナスとなったものの、その後は順調に回復基調にあり、今年第二四半期は2.2%の伸びを記録した。また、個人所得の伸びも今年に入り、堅調に推移している。上は実質可処分所得の前年同月比伸び率の3ヶ月間平均を示したもの。昨年第四四半期はプラス1.8%まで落ち込んだが、今年に入り、第一四半期はプラス4.8%、第二四半期はプラス6.1%と大幅に改善している。

  米国では株価に続いて住宅市場がバブルではないかと指摘されているが、一部のエコノミストは個人所得は堅調であり所得対比で見れば住宅価格は正当化できる、と反論している。今月はじめに発表された9月の失業率も5.6%と改善傾向にあり、また自動車販売も堅調に推移している。株価が示すほどマクロ経済指標は悪化していないのである。

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  ではなぜ株価は下落を続けるのか。ひとつは米国の企業経営者が将来に対し、悲観的見方を強めている点が挙げられる。中国やインドの台頭などにより米企業の価格決定力が失われつつあるなか、今やリストラが唯一の収益増加策。多くの経営者は前向きな打開策を模索して苦労している。

  イラク攻撃の影響が読めないことも、不安材料となっている。91年の湾岸戦争時は、先進各国やアラブ諸国の協力を得て、短期に終結させることができた。しかし今回は欧州や中東からの反発も強く、前回とは事情が大きく異なっている。米国とイラクでは戦力に大きな差があるとはいえ、短期間でフセイン政権を打倒し、さらに米国に穏健な政府を擁立することは至難の業に近い。にもかかわらず、米国はとにかくイラク攻撃に着手しようとしており、経済への影響が大いに懸念される状況となっている。

  これら以外にも、港湾ストライキやインサイダー取引に絡む銀行・証券への訴訟問題など懸念材料は多く、株式投資に慎重になっている投資家が増えている。

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  特に深刻な問題が世界的なデフレ現象である。主要先進各国の卸売物価は前年比マイナスが続いており、経済成長著しい中国でさえ、その例外ではない。戦後、各国中央銀行の課題はインフレ抑制にあり、そのためのモニタリング体制が敷かれてきた。しかしデフレに対する有効な手段はどこも持ち合わせいない。過去のように戦争を起こしたり、自国通貨を勝手に大幅安にしたりといったことはできなくなっている。合理的な解決策を見出すことが難しくなっている。

  今やデフレは日本にとどまらず、グローバルな問題になりつつあり、今後はG7各国を中心とした協調体制の枠組みのなかでこの問題に取り組む姿勢を見せることが重要になっている。残念ながら今のところ、日米欧各国とも国内の政治経済問題に注意が払われ、国際協調のもとでデフレに対処するという態度を表明するには至っていない。最近の株価急落はそのような態度を警告しているとも言えそうだ。

  また株価下落が続くと、あらゆる方向に悪影響が現れる。企業は格付け低下に見舞われ、資金調達コストが上昇する。上昇すると株価下落に拍車がかかる。その企業の株に投資している生命保険会社や年金の運用成績が悪化し、今度は金融不安に発展していく。特に米国の経済政策担当者は、真剣に打開策を打ち出す必要に迫られていると言えよう。

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  4日(金)の海外市場は122円台後半で始まり、米雇用統計が良かったことからドル買い優勢となり、123円台前半で越週した。

  7日(月)の東京市場は123円12銭で取引開始。その後は竹中金融・経財相が「大銀行を大きすぎてつぶせないとは考えていない」と発言したことから円安となり、124円近辺までドルは上昇した。海外でも124円台の取引が続いた。

  8日(火)の東京市場は124円37銭でオープン後、同レベルでのもみ合いが続いた。海外も小動きが続き、124円35銭で引けた。

  9日(水)の東京市場は124円台前半で寄り付き後、海外勢のドル売りに一時123円台半ばまで下落。海外では、米株安を受けドル売り優勢となり、123円30銭で引けた。

  10日(木)の東京市場は123円台でのもみ合い。海外では欧州中央銀行が利下げ見送りや、米失業保険申請件数が予想を上回るなどのニュースがあったが、結局123円台での取引が続いた。

  11日(金)の東京市場は、日銀の追加金融緩和期待が高まり、ドルは堅調に推移している。

  引き続きドル堅調の展開となっている。銀行不良債権処理の行方は不透明感を増しており、円を買いにくい地合いが続いている。しかし米国の方も良い材料はなく、しばらくは上記でのレンジが続きそうだ。

  G-SECドル円指数の速報は61.1。引き続き市場ではドル高円安予想が強い。