2002年 9月14日の放送

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  世界的に債券価格の上昇(=金利の低下)が続いている。上のグラフは日米独の10年物国債の先物価格推移。3月末の価格を100として指数化した。4月以降、どの債券も大きく買われていることがわかる。利回りで見ると、米国債は5.4%から4%へ、ドイツ国債は5.2%から4.5%へそれぞれ大幅低下している。同様に、すでに1.4%という低水準にあった日本国債も利回りが低下、今週は一時1%ちょうどまで下がった。

  債券は昨年の同時テロ事件後、各国中央銀行が積極的に金融緩和に踏み切ったことで、一時投資家が積極的に購入したが、1-3月期の米GDPが予想以上の高成長となったため、昨年末から3月にかけては敬遠されていた。4月以降の債券人気は、世界的な株価下落による“質への逃避”が原因。

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  名目利回りは大きく下がっている債券だが、物価の動向を勘案した実質利回りの方は、最近まで堅調に推移していた。これも債券投資を魅力的にした要因の一つとなった。上のグラフは、各国債券の利回りから消費者物価指数(CPI)の前年比伸び率を引いたもの(日米の8月のCPIは未発表のため、7月の伸び率をそのまま適用。Data:Bloomberg)。わずか1%台そこそこの日本国債も実質では2%を超える水準を維持していた(グラフは8月末現在まで)。

  米国のCPIは、昨年1月時点では3.5%前後もあったが、現在は1.5%程度と半分以下の伸び率である。このため、昨年末以降、実質利回りは大きく上昇した。一方、ドイツの直近のCPIは1.1%であり、こちらも昨年初めの2.5%から大きく低下している。株価の低迷が続くと、期待インフレ率はさらに低下するだろうから、債券人気はしばらく続きそうである。

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  日本の機関投資家にとっても、外債投資は貴重な収益源となっている。上のグラフは、財務省が発表している国内投資家による対外債券投資推移。7月は2兆9000億円以上の買い越しとなり、今年4月以来の買い越し額は全部で7兆円を超える規模である。債券価格が5%上昇すれば、この買い越し分だけでも3500億円のキャピタルゲインを生む計算だ。

  グラフを見ると、テロ事件直後の10月に大きく債券投資を増やしたものの(昨年10月だけで5兆5千億円の買い越し)、その後の金利上昇でいったん投資額を縮小(マイナスは売り越しを示す)したことがわかる。しかし、このところの金利低下で債券投資は大きく息を吹き返した。

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  債券投資が魅力的といっても、実は国債に限られた話。社債市場はまったく別の状況となっている。上のグラフは、銀行間取引金利(LIBOR)に対する社債の格付け別上乗せ金利(クレジットスプレッド)。BBB(トリプルB格債券。一般に、投資適格債券と呼ばれるなかで最低ランクのもの)を例に取ると、クレジットスプレッドはこの2年間で1.8%から3.3%へ倍近い上昇を見せていることがわかる。100億円の社債発行なら、発行企業は金利を1.5億円余計に払わねばいけないことになる。BB格の場合、スプレッドの上昇はBBB以上であり、約3%ポイント(3.8%→6.7%)上昇している。

  投資家にとっても厳しい環境だ。クレジットスプレッドの上昇は、債券価格の下落を意味し、含み損を抱える投資家を増やしてしまう。特に米国の場合、BB格を中心としたハイイールド債の流動化商品が数多く出回っており、株式市場の下落はこのような債券市場へも無視できない影響を与えている。米国の景気回復が遅れれば、今後も国債を中心とした良質の債券と低格付けの債券の差別は広がろう。

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  6日(金)の海外市場は、米雇用統計で失業率が低下したことが好感されドル買いが先行、118円台半ばまで上昇して越週した。

  9日(月)の東京市場は118円48銭でオープン、実需の売りに一時118円台前半まで下落したものの、その後ドルは下げ渋った。海外では対ユーロでドルが上昇したことから、対円でもドルは上昇に転じ、S&Pによる日本の生保の財務格付け引き下げ報道もドルを押し上げた。一時119円台前半までドルは上昇したが、米株下落を受け、引けは118円台後半となった。

  10日(火)の東京市場は119円近い水準で寄付き後、輸出企業のドル売りに118円台前半までドルは軟化。しかしその水準からさらに円を買い進む理由もなく、徐々にドル買いが優勢となった。海外では、米系ファンドによるドル買い欧州通貨売りの動きに、ドルは対円でも上伸、一時120円を突破する展開となった。

  11日(水)は119円78銭でオープン後小動きが続いた。テロ事件1周年を迎え、海外でもロンドン市場午前中は静かな動きが続いたが、後場に入るとテロ事件の黙祷終了後、一気にドル買いの波が押し寄せ、120円台後半までドルは急騰。結局120円台半ばで引けた。

  12日(木)は120円台前半でオープン、9月11日が無事に終わったことから、いったんドル買いが先行したものの、海外に入ると米経常赤字が2期連続で過去最高となったことを受けドル売りが活発化し、結局120円近辺での引けとなった。

  13日(金)の東京市場は、119円台後半の取り引きとなっている。 ドルが比較的堅調に推移しているため、再び日本の悪材料に目が行き始めている。特に今月は決算月ということもあり、金融不安再燃の懸念から円売りが先行しやすくなっている。しかし、米国・欧州ともに通貨が大きく買われる地合いでもなく、しばらくは主要3通貨間の綱引き状態が続きそうだ。

  G-SECドル円指数は43.8となり、若干円高を予測する向きが優勢。米国株式の本格的な反騰が当面見込みにくいこと、輸出企業のドル売りが121円近辺ではかなり出そうなこと、などが背景。