2002年 5月11日放送

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  米労働省によると、今年第一四半期の非農業部門の労働生産性は、季節調整済み前期比年率で8.6%を記録し、ほぼ20年ぶりの高さとなった。昨年第3四半期もプラス5.5%の上昇へ0.3ポイント上方修正されている。アウトプットである生産指数が前期比年率で6.5%上昇する一方、インプットである労働投入量指数は1.9%低下したことが背景。生産指数の方は昨年第2、第3四半期と連続して前期比マイナスとなっていたが、第4四半期からプラスに転じ、今回は大幅増となった。一方、労働投入量は、昨年第2四半期から4期連続の前期比マイナスとなっており、企業の合理化努力が伺われる数字となっている。時間当たりの実質賃金を見ると、2001年全体ではプラス2.9%だったが、今年の第1四半期は前期比年率でプラス1.2%にとどまっている。

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  このため急低下したのが、単位あたりの労働コスト。上のグラフは2000年第3四半期からの、単位あたり労働コストの前期比年率推移。第1四半期の数字はマイナス5.4%となり、前期のマイナス3.1%からさらに低下した。非農業部門の単位あたり労働コストが2期連続でマイナスとなるのは極めて珍しく、1983年以来19年ぶりの出来事である(当時は第1四半期から3期連続でマイナスとなった)。この例を除くと、2期以上連続してマイナスとなるのは1958年から1965年の時期に戻らねばならない。1960年代前半と言えば、フェデラルファンド金利が現在のように低水準にあった時期である。
 世界的にディスインフレの傾向が強まるなか、物価の上昇圧力は一段と遠のいたとも言える。

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  企業間の国際競争が激しさを増すなか、世界的に物価の下落が進んでいる。特に目立つのが生産者の出荷時点での価格を測定する、生産者物価指数の低下。上の表は主要各国の直近の前年同月比一覧(統計がないため、シンガポールと中国は消費者物価を代用)。 “デフレ先進国”の日本ではすでに消費者物価・卸売物価ともに前年比マイナスが続いているが、生産者物価においては他国も日本と同様の動きを示している。
  イギリスとフランスは7ヶ月連続で前年比マイナスが続いているほか、米国とイタリアは同6ヶ月連続となっている。高い経済成長が続く中国でも、物価の下落に見舞われており、3月はマイナス0.8%と下げ幅を拡大した。

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  もともとインフレが問題になったのは1900年以降の話で、それ以前は物価が数十年にわたり下落を続けることはそう珍しいことではなかった。上のグラフは1800年〜1850年のイギリスとドイツの卸売物価指数の推移(資料:『マクミラン世界歴史統計』)。イギリスは1821年から1825年の物価を、ドイツは1913年の物価をそれぞれ100としてあるが、趨勢として両国の卸売物価は1810年頃をピークとして、その後40年間下落または横ばいを続けたことがわかる。このグラフには示していないが、物価はこの後、1875年にかけて上昇するものの、再度、1900年まで25年間にわたり下落傾向を辿っている。19世紀にとって、物価の下落というものは、そう珍しい現象ではなかったのである。

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  3日(金)のアジア市場は127円台後半で取引されていたものの、その後ドルは徐々に下落。海外では、米失業率が6%と7年半ぶりの高水準に上昇したため、ドル売りが一段と強まり、127円ちょうど近辺での引けとなった。6日(月)は東京・ロンドン市場が休場のため閑散なマーケットとなり、127円台前半での取引が続いた。7日(火)は127円前半で取引開始後、ドル売り優勢の展開に126円76銭まで下落、ユーロドルは0.91後半と年初来高値を更新した。その後は、日経平均が軟調に推移したことなどから、ドルは徐々に買い戻された。海外に入ると、日銀の円売り介入の噂やムーディーズの日本国債格下げ観測から127円台後半へ上伸して引けた。8日(水)は128円台前半でオープン、輸出筋のドル売りにいったんは127円86銭までドルは下落したものの、その後は徐々にドルは値を戻した。特に米シスコシステムズの好調な決算を受け、米株が上伸すると、ドル買いも強まり、結局128円95銭まで買われて引けた。9日(木)の東京市場は、ドル堅調の流れを受け、いったん129円台前半まで上昇したものの、その後は輸出筋を中心としたドル売りが強まり、再び128円台半ばに下落して推移している。
 ドル円は目先レンジ内の動きが続きそうだ。GW明けに126円台を何度か示現したことで、短期的なドルの底値をつけた、との見方もあるが、さりとて130円を超えて再度ドル高が進むとの見方はまだ少数派。日本株が4月以降、予想外(?)に堅調に推移していることで、円買いが進みやすい地合いになっている。パレスチナ情勢は、依然先行き不透明な展開が見込まれ、これもドルの頭を重くしそうだ。一方、125円近辺まで円高が進む場合は、本邦当局の動きが一段と注目されよう。今週126円台を見た段階 では、日銀のレートチェックの噂などが出ており、さらなる円高局面では介入の警戒感が一段と強まろう。
 G-SECドル円指数(9日、速報値)は55.0となっており、ドルの反発継続を見込む市場参加者はまだ多いようだ。