2002年 4月13日放送 マーケット・ナビのポイント

< 1 >

  イスラエルのパレスチナ侵攻問題で揺れる中東情勢だが、ドル買いに結びついていない。市場は、米国の関与が深い中東混乱はドル売り要因と判断し、“有事のドル買い”となっていない。原油価格の上昇は、車社会である米国の経済にも大きな打撃を与える、との見方もドルの頭を重くしているようだ。

  原油(特に中東)に頼っているのは日本も同じであり、その意味では、不安定な中東情勢が円売りにつながってもおかしくはない。にもかかわらずドル売りに傾くのは、ドルの価値が高すぎることに原因があるのかも知れない。

  上のグラフは、主要外国通貨に対する米ドルの加重平均推移(Data:FRB)。現在108近辺で推移しており、86年6月以来の高値をつけている。この15年の動きを見ると、ドルはすでに十分高い水準にあることがわかる。

< 2 >

  また、円も一頃の“トリプル安(株安、債券安、通貨安)懸念”を脱し、とりあえず落ち着いた状態が続いてる。景況感も改善してきている。上のグラフは、内閣府が実施している景気ウォッチャー調査の「景気の先行き判断DI」(2〜3ヶ月先の景気を判断)。景気に関連の深い動きを観察できる立場にある、全国約2000人の人々の協力を得て行っているもの。回答者は旅行代理店、乗用車販売店、職業安定所、スーパー、ホテルなどに勤める人たちである。50を超えれば超えるほど、「今後景気は良くなる」と考える人が多いことを示す。

  2000年からの動きを見ると、2000年前半は50を超えたレベルで推移していたが、その後徐々に低下し、昨年9月には31.1まで落ち込んだ。しかしその後は着実に回復を続け、3月調査で44.8まで回復してきている。このような環境改善が、為替市場でも円を支えていると言えよう。

< 3 >

  上は、内閣府経済社会総合研究所が8日に発表した、機械受注統計(船舶・電力を除く、民需からの受注額)の前年同月比推移。依然マイナスが続いているが、昨年10月にマイナス26.6%まで落ち込んだ以降は、徐々に減少幅が減り始めている。まだ慎重に判断する必要があるが、ようやく底這いからやや反転の兆しが出てきたと言えるかもしれない。

< 4 >

  しかし景気の実態はまだ悪い。東京商工リサーチが12日発表した、倒産企業(負債額1000万円以上)件数は、増加の一途をたどっている。上は各年度別の倒産件数推移。89,90年度は6000〜7000件程度だったが、92年度からは14000件台とほぼ倍増、その後も増加を続け、2001年度は19565件と、20000件近い数字になっている。国内景気の先行きに薄明かりが差してきているとはいえ、現況はまだまだ厳しいと言えそうだ。

< 5 >

  8日(月)は131円66銭でオープン後、中東情勢の不透明感や軟調な米株を材料にドルはじり安の展開。海外では一時131円12銭まで下げたが、テクニカル要因からドル買いが優勢となり、結局131円55銭で引けた。

  9日(火)は131円半ばで始まり、イスラエルの撤退報道などを受け132円近くまでドルは一時上伸。しかしその後はドル売り優勢となり、じり安の展開となった。海外では、独失業率の低下を好感しユーロが対ドルで強含んだため、円も買われ、一時130円76銭までドルは下落した。引けは131円ちょうど。

  10日(水)は130円70銭でオープン後、中東情勢悪化懸念などからドルの頭は重く、130円20銭まで売り込まれた。その後は、塩川財務相が「1ドル=120円台にはならないだろう」と発言したことから、海外市場でドルは反転、130円75銭まで戻して引けた。

  11日(木)は130円後半でオープン後、財務省の溝口国際局長が「円高が進むような地合いではない」と述べたことから、131円半ばまでドルは上昇した。海外では、131円84銭までドル続伸するも、利益確定のドル売りなどに押され、結局131円50銭で引けた。

  12日(金)の東京市場は131円台半ばで始まった後、財務省の溝口国際局長が「長期的には円高の方向に行く状況が出てくることは無い」と述べたことから、ドル買いが強まり、132円台での取引となっている。

  先週は一時130円割れをうかがう動きを見せたが、結局はレンジ(130-135円)の範囲にとどまった。本邦当局サイドから円高を牽制する発言が相次いで出たことで、政府は130円より下の円高を嫌っていることが改めて確認されたと言えよう。しかし不安定な中東情勢はドル売り材料となっていることや、米国の景気は予想されたほど力強いものではない可能性が出てきていることなどを考慮すると、一段のドル高も見込みにくい。もうしばらくレンジ内の取引が続きそうだ。

  G-SECドル円指数(12日、速報値)は43.8(前回確定値比マイナス13.4ポイント)と大きく下落した。再度130円近辺をトライするとの見方が一部に出てきている。