2001年11月10日放送 マーケット・ナビのポイント
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FRBは6日、FOMCを開催、FF金利の50BP引き下げを決めた。2%は実に40年ぶりの低水準。当時(1961年10〜12月)の消費者物価指数は+0.7%で推移していた。今回出されたFEDの声明によると、テロ事件以来不透明感が高まっており、国内外での経済環境悪化懸念が景気の足を引っ張っている、という。景気後退懸念はテロ事件前からあったものの、今年に入っての利下げはこれで10回目となり、この1年間で4.50%も引き下げられたことになる。
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米労働省が7日発表した第3四半期の非農業部門の労働生産性指数(1992年=100)は118.8で、前期比年率2.7%上昇となり、昨年第2四半期(6.3%上昇)以来の高い伸びを記録した。これは生産指数が同▲1.0%となったものの、労働総投入量指数が▲3.6%となったことによるもの。労働総投入量の減少は1991年第1Qの▲4.8%以来最大。生産指数は、1993年第1Qの▲1.3%以来最大となる。
この結果、単位当たり労働コストは前期比1.8%と第2Qの2.6%上昇から下落しており(上のグラフ)、合理化によりコストダウンをはかる企業側の体制作りが進んでいることが示された。
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今年、これだけ大幅な短期金利の引き下げを可能にしているもののひとつが、期待インフレ率の低下である。7月にFRB議長が行った議会証言によれば、PCEデフレーター予想は今年が2〜2.5%、2002年が1.75%〜2.25%となっており、来年以降はやや低下する予想となっている。しかし今後この目標は下方修正される可能性が高い。
上の表の黒いラインは米国CPIコア(左目盛。食料・エネルギー価格除き)指数の前年同月比推移で、1998年11月から2001年9月までの動きを示している。2000年1月に1.9%で底打ちし、今年の6月に2.8%まで上昇した。その後は若干下落したものの、まだ2.6%レベルでの推移が続いている。
青いラインは、米国Economic Cycle Research Instituteが発表している予想インフレ指数。約10ヶ月先行することから、その期間分ずらして重ねてみたもの。予想指数は2000年5月に124.9でピークを打った後は、ほぼ毎月下落しており、今後インフレ率が急落する可能性が高いことを示唆している。FRBも基本的にはインフレの先行きについて楽観的な姿勢をとっており、物価の下落が今後実質金利を一段と押し上げることを懸念しているものと思われる。
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欧州連合(EU)統計局(ユーロスタット)が5日発表した10月のユーロ圏12カ国の消費者物価指数速報値は前年同月比で2.4%の上昇(9月2.5%上昇)に鈍化した。5月の3.4%上昇をピークに5ヶ月連続の低下となった。
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日銀は8日、10月の国内卸売物価を発表したが、前年比▲1.1%と13ヶ月連続の下落となり、前月比でも▲0.4%と3ヶ月連続で低下した。前月比の内訳では、電力・都市ガスが▲3.9%。電気機器が、パソコン用モニターの販売低迷・プリンターの値下げ・DRAM価格の低下などの影響を受け、▲0.5%となった(上のグラフ)。
国内物価の低下は消費者物価レベルでも鮮明になっており、全国消費者物価指数の前年同月比伸び率は、99年9月以降25ヶ月連続でマイナスとなっている(直近は9月の▲0.8%)。
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上の表は各国中央銀行の政策金利を実質ベースで比較したもの。米国はFF金利、ユーロは2週間物レポ金利、日本は無担コール翌日物を採用し、それぞれ直近の消費者物価指数(前年同月比伸び率)を引いた。
<昨年末>
米国 3.10% (=FF金利 6.50% − CPI伸び率 3.40%)
ユーロ 2.15% (=レポ金利 4.75% − CPI伸び率 2.60%)
日本 0.45% (=無担コール金利 0.25% − CPI伸び率 ▲ 0.20%)
<現在>
米国 ▲0.60% (=FF金利 2.00% − CPI伸び率 2.60%)
ユーロ 0.85% (=レポ金利 3.25% − CPI伸び率 2.40%)
日本 0.81% (=無担コール金利 0.01% − CPI伸び率 ▲ 0.80%)
世界の主要経済圏の実質金利差が、これほど大きく変動することは珍しい。米国で3.70%も実質金利が低下した一方、日本では物価下落が進み、逆に実質金利が上昇したことが要因。この結果、現在のアメリカの実質金利はダントツに低い状態になってしまった。
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<銀行株指数>
上のグラフは日経平均株価500のうちの、銀行株価指数推移。同指数は2000年12月1日現在で、大手都市銀行をはじめ32行をカバーしている。国内の景気悪化に伴う物価下落は各産業セクターに打撃を与えているが、不動産担保などを多く保有する銀行にも重石となってのしかかっている。
4月末から5月にかけては、一時1642まで上昇したが、その後は一貫して下げ続けている。4月下旬からの上昇は、NASDAQ上昇に伴う米景気回復期待が台頭したほか、小泉内閣の発足により日本の構造改革が大きく進むとの期待がふくらんだことが要因。4月のG7で、日本経済について、「金融・企業部門の改革を力強く進める必要がある」と指摘されたことや、日銀が3月から実施した量的緩和策を当面継続すべきとの考えが共同声明に盛り込まれたことも好感された。小泉政権の強い構造改革意欲が、海外投資家の日本株買いを促進するとの見方も広がった。
しかし、その後は具体的な構造改革策が遅々として進まぬ一方、国内はデフレ色を強め、物価の下落が一段と鮮明となった。このため、銀行の不良債権問題に再び焦点が当たり始めたことが、5月以降の指数下落の背景のひとつとなっている。今週末にかけて大手銀行株は年初来最安値を更新、不良債権処理額増額の動きが今後も広がり、経営を圧迫していくとの見方が広がっている。
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今週のドル円相場は週末にかけてドルじり安の展開となった。
5日(月)は、121円台後半での動きが続いた後、海外市場に入り、6日のFOMCで50BPの利下げが行われるとの期待が強まり一時122円台まで上昇。しかしNAPMの非製造業調査で予想を上回る悪化が確認されたことで、再度121円台へ反落。6日(火)は、本邦資本筋によるユーロ円の売りにドル円は121円割れまで下落。注目のFOMCは50BP利下げとなり、NY株上昇とともにドル円も上伸したものの、積極的なドル買いに欠け、結局121円台前半での引けとなった。7日(水)は、ユーロ売り円買いの動きにドル円は一時120円台後半まで下落。しかし、米第3四半期非農業部門生産性速報値が事前の予想を上回ったことで、ドル買いが強まり121円近辺まで買われて引けた。8日(木)は、一部邦銀株の急落を嫌気した円売りドル買いに121円38銭まで上昇。しかし、同水準では本邦輸出筋等のドル売りが出て、120円台後半へ下落した。その後海外市場では、ECBが50BPの利下げを実施した後、ファンド等によるユーロ売り円買いのポジション調整の動きが強まり、ドル円も急落。ほぼ1ヶ月ぶりに120円割れを示現した。9日(金)の東京市場では120円前後でのもみ合いが続いている。
ひさしぶりに120円を割ったこともあり、一段の円高を見込む向きも出てきている。特にここ数ヶ月で海外との金利差が大幅に縮小していることが、ドル安円高の見方を強めている。また日本のファンダメンタル悪化が続いているにも関わらず、あまり円安が進まないことも、市場参加者の心理に微妙な影響を与えているようだ。
しかしながら、@このレベルから一段のドル安局面では、本邦当局による介入が予想されること、A日本経済は低迷を深めており、当面回復が見込まれないこと、などから一段の円高に懐疑的な声も多い。来週は118円〜123円でのレンジ内での推移となろう。
G-SECインデックス(9日実施、速報値)は、47.1となり、前週の確定値51.8より4.7ポイント下落している。やや円高を見込む向きが増えてきている。