2001年10月27日放送 マーケット・ナビのポイント

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  同時テロの今後の影響が懸念されるなか、今週は株価が堅調だった。上のグラフは主要4カ国の株価指数(ダックス、FTSE、NYダウ、日経平均)推移を見たもの。直近の底値をつけた9月21日の終値を100として、以降の推移を比較。10月25日終了現在、ドイツの124を筆頭にイギリスとアメリカは115、日本が114まで上昇してきており、米国以外はテロ事件前の水準を超えてきている。

(参考)
テロ直前のレベルと10月25日終値の比較すると、ダックスが9月10日の4670.13から4715.60へ、FTSEは同5033.70から5086.60へそれぞれ回復している。日経平均も9月11日の10292.95から10880.10へ上昇した。NYダウは9月10日の9605.51から9462.90まで戻っている。
  上昇要因の第一は、市場が米国経済のV字型回復を織り込み始めた点にある。
(1)FRBの度重なる利下げ(年初のFF金利水準は6.5%。1月3日に50BP利下げしたことを皮切りに、利下げを9回実施。現在は39年ぶりの低水準)により、短期の実質金利がゼロ水準まで低下したこと、
(2)財政支出が予想を大幅に上回る可能性が出てきたこと、が背景。

米議会は同時テロの影響を受けた航空業界への支援や州の失業給付補助などを含む550億ドルの追加支出法を成立させているが、ブッシュ大統領は5日、600億ドルの減税を新たに提案した。ところが、共和党が多数を占める下院歳入委員会は、緊急景気刺激策の一環として年間約1000億ドル減税法案を可決しており、今後の上院での議論が注目される状況となっている。上院で多数を占める民主党は、同法案内容が事前合意を逸脱する内容との見方を示しており、今後はかなりの妥協が必要となる見込み。
  下院歳入委員会で可決された法案の骨格は(1)低所得者層などに対する小切手送付、(2)1年を超える株式売却に適用される軽減税率の引き下げ(20%⇒18%)、(3)向こう3年間の企業設備の減価償却率の引き上げ、など。この法案は、24日の下院本会議で2票差で可決された。   

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  米民間調査機関コンフェレンス・ボードが22日発表した9月の米景気先行指標総合指数は、前月比0.5%の低下となった。テロ事件の影響で雇用環境や消費マインドが悪化するなか、96年1月(0.7%低下)以来、最大の下げ幅を記録した。
  同指数は10の経済指標で構成され、向こう3ヶ月から半年間の景気動向を表すとされている。構成指標のうち、9月の指数を押し下げる要因となったのは、株式相場の下落と新規失業保険申請件数の拡大、消費者期待度指数の低下だった。製造業の労働時間短縮、建築許可件数の減少、国防関連を除く資本財受注も、マイナス方向に寄与した。
  プラスに寄与したのは、9月はマネーサプライの増加と、10年物米国債利回りとフェデラルファンド(FF)金利の格差縮小の2項目のみだった。消費財受注、入荷遅延指数の2項目は、前月比変わらずだった。

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FRBは24日に地区連銀経済報告(ベージュブック)を発表。9月から10月第一週の期間の聞き取り状況を述べたもの。来月6日に開催されるFOMCに提出される。現在、先物市場は25BPの利下げを折り込んでいる。
  報告書は、「9月から10月第1週にかけて、経済活動は全地区連銀管轄区で弱かった」と指摘。「9月11日以降、短期的に急激な経済活動の落ち込みが見られた」と述べた上で、「航空貨物輸送能力の低下など一部のショックからは回復したが、長期的な影響の評価は難しい」と述べ、なお不確実性が続くとの見方を明らかにしている。「自動車を除く小売売上高については、9月11日以前の水準を若干下回っている。しかし、この小売りの弱さは9月11日以前に既に始まっていた可能性がある」と指摘、仮にテロ攻撃がなかったとしても悪化し、むしろテロ攻撃はその攻撃に追い討ちをかけたとの認識を示した。製造業についても「小売と同様」と述べ、9月11日のテロ攻撃が既に弱かった製造業に一段の打撃を加えたとの認識を示した。

  その他項目別のコメントは以下の通り。
<消費者支出>ほぼ全域で鈍化。自動車部門はゼロ%融資導入で、販売回復。小売部門はクリスマス商戦の予想を下方修正へ。
<製造業>不振は、ハイテク産業からオールドエコノミー産業まで広範囲に及ぶ。多くは受注回復は2002年にずれ込むと予想。
<雇用>ほとんどの産業で幅広くレイオフが見られる。特にホテル・旅行・航空産業では全国的な展開を見せている。
<賃金・物価>上昇圧力はほとんどなく、一部は現実に低下している。

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<日銀支店長会議>  今週22日(月)に開かれたもの。全国11地区(北海道地区、東北地区、北陸地区、神奈川県内、東海地区、京都管内、大阪管内、兵庫県内、中国地区、四国地区、九州地区)の景気情勢が報告された(本店管轄内の関東は除く)。上の表は、このうち主要地方5地区をピックアップしたみたもの。
 前回に比べ、全地区に渡り景気認識が後退しており、日本が深刻な不況に入りつつあることが伺われる。地方は確実に悪化している。主な支店長発言は以下の通り。
・「デフレスパイラルの入り口の手前」(大阪支店長)
・「テロなどの影響で、10月以降は地合いが良くない」(名古屋支店長)
・「中国向けの一部を除くと壊滅状態」「回復は来年いっぱい難しいとの意見が増えていえる」(三谷支店長)
・「調整は厳しさを増している」(大阪支店長)
・「景気の先行きに対する不透明感が高まっている」(福岡支店長)
<テロ・狂牛病の影響等>
 テロは海外旅行を落ちませたが、その分国内旅行増加で恩恵を受けている地域もある模様(北海道、京都、九州)。狂牛病は、肉用牛の出荷の37%を占める九州で影響出ているほか、北海道でも懸念されている。
 上記の地区別概況は以下の通り。
<北海道>個人消費一部明るいが、総じて力強さ欠ける。民間設備投資は前年をかなり下回る計画。
<東海>これまで堅調だった乗用車販売に陰り。設備投資の底固さは失われていない。輸出は米国向けは自動車・部品は持ち直すが、工作機械等は減少。アジアは減少。欧州向けは減少するも、現地生産拡大。
<近畿>京都は輸出が大幅減少、設備投資減少。大阪はマイカル倒産の影響大(そごう以上)、先行き見通しも一段と厳しくなっている。生産は大幅減少続く。
<四国>輸出、住宅投資の減少続く。個人消費も回復感乏しい。
<九州>設備投資、輸出の減少続く。個人消費横ばい。完全失業率は83年統計開始以来最悪の5.9%。

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  ドイツのIFO経済研究所が19日発表した9月の旧西ドイツ地区の景況感指数(1991年=100、季節調整済み)は85.0(前月は89.5)に低下した。
  旧西ドイツ地域の企業幹部の景気見通しをベースとした期待指数は90.6(前月95.9)、同現状指数は79.6(同改定値83.2)とそろって低下した。IFOは前月の8月調査発表時に、米同時テロ前に約3/4の回答が寄せられたと説明しており、9月の調査で米テロの影響が鮮明に現れた。
旧東ドイツ地域の景況感指数は96.6(前月改定値101.3)、期待指数は78.3(前月82.7)、現状指数は116.0(前月改定値121.2)だった。
  この統計は、ドイツ国内でもっとも注目を集めている企業マインド調査で、7000社あまりの製造業、卸売・小売業、建設業の幹部から得た回答をもとに算出されている。

<参考>
(1)ドイツ連銀総裁のウェルテケ総裁は23日、ブルームバーグ・ニュースに対し、ドイツの6大経済研究所がドイツはリセッションの瀬戸際だと評したことについて、「(リセッションの瀬戸際かどうかは)解釈次第だ。ことし通年ではプラス成長を確保できそうだが、下期の成長率はゼロに近いだろう」と述べている。

(2)ドイツ銀行主任エコノミスト、ノルベルト・ウォルター氏の見方は以下の通り。
(欧州景気について)
・テロ以前にすでに不況スレスレだった。
・テロ後、数ヶ月以内で元の状態に戻るとは考えられない。
・ECBは、いずれ大幅利下げが避けられない。財政は期待できない。


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<ドイツCPI>
 24日発表されたドイツの消費者物価指数(HICP。EU統一算定基準)の10月の速報値は前月比0.3%の低下となった。前年同月比は2.1%上昇と9月と変わらなかった。HICPは、ECBがインフレ率の指標に採用しているもの。前年同月比の伸び率は今年5月の3.6%上昇をピークに鈍化していることから、ECBの予想通り、ユーロ圏のCPI上昇率が2002年には、2%を下回る可能性が一段と高まっている。



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<ドイツCPI>
  今週のドル円相場は121円台前半から123円台へ上昇、ドルは底固い動きを示した。
  22日(月)はユーロ円の買戻しの流れを受け、ドル円は121円台半ばまで上昇。日銀支店長会議で、厳しい景気認識が示されたことも円売りを誘った。翌23日(火)は、海外勢のドル買い圧力強まり123円台まで上伸するも、ホワイトハウス関連施設での炭疽菌検出がドル売りを誘い、122円台へ反落。24日(水)は、黒田財務官が「ファンダメンタルから見て、円高は無い」と明言したことから、123円近くまで上伸。その後122円台でのもみ合いが続いた。25日(木)は、本邦資本筋のドル買い意欲強く、123円台前半まで上伸してアジア市場では高値引け。しかしNY市場では、週間失業保険新規申請件数増加(504,000件。前週比+8000件)、米9月中古住宅販売大幅減少(前月比▲65万戸)、米9月耐久財受注下落(前月比▲8.5%)、などの発表が相次ぎ、ドル売り優勢の展開。結局122円台後半で引けた。ECBは政策金利据置。
  25日発表の米経済指標が一様に弱いものとなったこともあり、ドルの一段高には懐疑的な声が多い。月末から月初にかけては第3四半期GDP速報値、NAPM、雇用統計など、米国で重要な指標が相次いで発表される。目先の景気悪化は既に折り込まれているとの指摘もあるが、先行き不透明感はぬぐえず、ドルの頭を抑える可能性が高い。一方、日本の金融当局からは円安を是認する発言が増えており、円の一段高も見込みにくい状況だ。しばらくは120円から125円のレンジでの推移か。G-SECドル円指数(26日実施、速報値)は前回の50.0から27.8へ急落、目先円高を見込む市場参加者が増えていることを示している。