2001年5月5日放送 マーケット・ナビのポイント

1. ナスダック総合指数
グラフは3月以降のナスダック総合指数の日次終値推移。ナスダック総合指数は、4月4日に98年10月以来となる1,600ポイント台前半をつけてから、わずか1ヶ月足らずで2,200ポイント台を回復した(5月2日)。5月3日には再び2,200を割り込んだが、4月4日からの上昇率は31%に達しており、市場では「米株式相場は底値を打った」との見方が出てきている。

4月上旬の1,600〜1,800ポイント台では、バリュエーション面での割安感が出てきたとの見方や、ハイテク産業の業績が最悪期を脱したとの観測が台頭。市場が落ち着きを取り戻しつつある動きの中で、4月18日に米連銀が市場にとって大きなサプライズとなる0.5%の緊急利下げを決行、ナスダック指数は一気に2,000ポイント台を回復した。更に、4月27日に発表された第1四半期の実質GDP前期比伸び率(年率)の速報値が、市場予想を大きく上回って+2.0%となったことを受けて、ナスダック指数は続伸、一時2,200ポイント台を回復している。

ここのところ、3月の鉱工業生産や同月の耐久財受注等、弱々しいながらも、市場予測を上回る統計が出てきている。中でも第1四半期の実質GDP成長率が、2000年第4四半期の前期比年率+1.0%を大きく上回ったことは株式市場にとって「嬉しい誤算」であった。つい数ヶ月前にグリーンスパンFRB議長がした「現状の成長率は0%に近い」との発言(1月25日の上院予算委員会での証言)を、覆す結果になったからである。

しかし、2000年3月10日の史上最高値5,048.62から4月4日の1,638.80への下落率67.5%のうち若干を取り返したとはいえ、5月3日の終値は史上最高値からは依然57.5%も低いレベルにある。中長期トレンドで見る限り、最悪期を脱したとするのは、尚早であるように思われる。

2. 米実質GDP
4月27日に発表された2001年第1四半期の米実質GDP成長率速報値は、前期比年率で+2.0%と市場の予想(+1.0%前後)を大きく上回った。これを受けて市場では、今回の景気減速局面はすでに底を打ったとの見方が一部で出てきている。しかしながら、2000年の第3・第4四半期において、速報値が改定値、確報値へ置き換わる段階で、順次、下方修正されたこともあり、今回の速報値を額面通り受け取るのはいささか危険である。

前期比年率+2.0%の内訳(寄与度)を見てみると、まず民間投資が▲2.2%と大きく落ち込んでいることが目を引く。ここ10年のアメリカ経済の牽引車であった民間投資が、2000年の第4四半期にマイナス成長となり、さらに減速が強まっていることが分かる。これは在庫投資が▲2.5%と大きく調整したことが響いている(2000年第4四半期は▲0.6%)。

一方、プラスの寄与では、純輸出の寄与度が+1.4%で非常に大きい。このうち、輸出の減少によるものが▲0.2%で、輸入の減少によるものが+1.6%である。大幅な在庫調整を、輸入を急激に減らすことにより行っている構図が明白に見てとれる。因みにこの輸入寄与度は、カーター政権末期の1980年第3四半期以来の大きさである。

全体として、今回の速報値は、米国経済が大幅な調整局面に入っていることを示しているように思われる。近年の経常赤字急拡大の主因ともなった「オーバー・インベストメント」経済からの調整である。調整能力の高さとそのスピードこそが此岸とは異なる米国経済の特長であることが再確認された形ではあるが、これが世界経済に与えるマイナスのインパクトは決して小さくない。また、設備投資の減少が、雇用や賃金を通じて、米国経済の7割を占める個人消費に響いてくるときも、遠くはないと考えられる。

なお、今回の個人消費(+2.1%)が比較的順調だったのは、不調だった昨年のクリスマス・セールの反動で、1月に大規模なディスカウント・セールスが行われ、消費支出が嵩上げされたことが主因と考えられる。

3. 積極的な金融・財政政策
急減速する景気に対して、積極的な金融・財政政策が採られている。FRBは1月3日に0.5%の緊急利下げを行って以来、過去に例を見ないほどのスピードで合計2%の利下げを実施した。5月15日のFOMCでも、0.25〜0.50%の利下げが見込まれる。FRBがここまで迅速に行動している背景には、金融市場が見ている以上に、FRBが景気減速に対して警戒していることがあろう。

ブッシュ大統領が選挙公約にしていた大型減税について、今般、米上下両院は2001年から11年間で総額1兆3,500億円の減税を行うことで基本合意した。今年分については、1月に遡って1千億ドルの減税が行われることとなった。これは、直接的に景気刺激に結びつくことが期待されており、今年後半に少なくとも年率1%強の成長引き上げにつながるとの試算もある。

4. 地区連銀経済報告
米連邦準備理事会(FRB)が発表した地区連銀経済報告(ベージュブック)の要約。ベージュブックは、全米で12ある地区連銀の管轄地域の経済活動を取りまとめて報告するもの。今回の対象期間は、2月27日から4月23日まで。

  • ほとんどの地域の経済活動はスローペース。
  • 多くの地域で、受注や生産が落ち込んだ。
  • ハイテク、通信業界は著しく減速。
  • タイトだった雇用市場は緩和。
  • 個人消費はやや改善。

5. 米新規失業保険申請件数
グラフは、米労働者が週次で発表している新規失業保険申請件数(季調済)の4週移動平均を示したもの。直近の数字は5月3日に発表された4月28日に終わる週のデータであるが、前週比+9千人の421千人と、96年3月以来の高い数字となった。また4週移動平均ベースでは、405千人で、92年10月以来の40万人越えである。

前年比+6.1%の成長を見せた2000年第2四半期を底に、労働市場が急速に悪化しており、依然ピーク・アウトしていないことが分かる。実際、主要企業が人員削減を発表し始めたのは今年に入ってからであり、失業は今後しばらくは増え続けることが予想される。

5月2日に米連銀が発表した地区連銀経済報告(ベージュ・ブック)は、「タイトだった雇用市場も、ほとんどすべての地区で緩和している」としている。現在の失業者数のレベルは、過去数年、需要超過であった労働市場を緩和している段階に過ぎないが、これが更に進むと、雇用不況に落ち込んでいくリスクも無視できない。

6. ドル円相場
ドル円は3月末に127円直前までに上昇した後、徐々に頭打ちとなり、12日(木)には一時121円台を割り込んだ。4月8日(日)のASEAN財務相会議で円安懸念を共同声明で採択したことを受けて、我が国政府からも過度の円安を牽制する発言が出たことが、足許の円高傾向のきっかけとなった。27日(金)に速水総裁の辞任観測で一時124円台に乗せたが、その後は、小泉内閣に対する「構造改革期待」で再び円高地合に転じ、3日(木)には一時120円台をつけた。

しばらくは、株式市場と同様、「構造改革期待」で円の強含みの地合が続くと考えられる。120円前後には大量のドル買いオーダーがあるため、このレベルを割り込むのは簡単ではないが、いったん割れれば、下値を押す可能性がある。今週の予想レンジは、118円〜123円。