2001年4月21日放送 マーケット・ナビのポイント

1. ナスダック総合指数
米国株式市場は、3月下旬から4月の初旬の相場を足許の底にして、上昇傾向にある。特にナスダック総合指数は、4月4日につけた2年5ヶ月ぶりの安値(1,638.80)レベルから、わずか3週間足らずで3割以上上昇、2,100ポイント台を回復している。

とはいえ、目下のところ市場が「買い材料」にしている経済指標にしても、企業業績にしても、基本的には「最悪の予想より若干マシ」という程度に過ぎず、景気に対する不透明感を払拭するには至っていない。弱気相場の中で、市場が必死になって上昇のきっかけを探っているところであろう。

4月18日のFRBによる電撃的利下げ(0.5%:年初から0.5%×4=2.0%の利下げ)は、つい数週間前までは支配的であった「5月15日の次回定例FOMCを待たない緊急利下げ」という市場の期待が、急速に萎みつつある中で突如行われたことから、市場にとっては大きなサプライズとなった。この日、ナスダックは上昇率で史上4番目となる8.1%の上げ、ダウ平均は同史上3番目となる3.9%の上昇を記録した。

しかしながら、このタイミングでFRBが利下げを断行した背景、つまりFRBが調整の構造的問題を深刻に捉えている点に、市場が着目するならば、更なるダウンサイドもそう遠くはないかもしれない。

2. FRB緊急利下げ
ここのところ株価が落着きを取戻しており、かつFRB高官の楽観的な発言もあり、緊急利下げに対する市場の期待感が急速に萎んでいたことから、4月18日のFRBによる50bpsの緊急利下げは、市場にとって大きなサプライズとなった。株式市場は大きくラリーし、為替市場はドル売り優勢となった。年明け以降、合計200bpsの利下げということになる。金融政策運営方針は「景気配慮型」で維持。

FOMC声明文は、過剰在庫の削減の進展、消費や住宅支出がそこそこ健闘している点を評価しつつも、設備投資の調整が深刻化する懸念を強く表明している:

「(前略)しかしながら、設備投資は軟化を続けており、また現在の収益および収益見通しの持続的な悪化は、景気に対する不透明感が増す中で、今後の設備投資の抑制に繋がる可能性がある。この潜在的な圧力は、これまでの株式資産の減少から生じ得る効果と海外経済のより低い成長とともに、経済活動のペースを容認しがたいほど弱くする可能性を持っている。(後略)」

これまでのスタンスとは変わり、在庫や消費といった短期的なサイクルに対する懸念から、より長目でより構造的な投資循環の変節にFRBが注目し始めていると見ることができる。過去10年続いた好景気は設備投資主導であったため、ここが崩れると長期の低迷は避けられないという懸念をもっていることは間違いない。

コンフィデンスが悪化する中で、今の時期を逃すと利下げが効かなくなる恐れがあることが、今回の積極的な行動に繋がったと考えられる。

3. 国債相場はバブル?
グラフは日本国債10年物利回りの年初来の推移。株安と金融緩和期待から利回りはじりじりと低下、3月19日の日銀金融政策決定会合で、事実上のゼロ金利が復活すると、一時1.0%割れを伺うレベルまで急低下した。しかし、その後、(1)株価が回復基調にあること、(2)総裁選後の財政経済政策が景気優先型になる可能性が出てきたこと、等を背景に上昇に転じ、足許では1.5%前後で推移している。

短期的な相場の流れとしては、年初来のラリーの反動で売られている(利回りは上昇)と見ることもできるが、これが「財政リスク」に対するプレミアムがつき始めている兆候だとすれば、事態は深刻である。

2年債と10年債の利回り格差(スプレッド)および2年債と20年債のスプレッドは、過去1ヵ月で、それぞれ約0.4%、約0.7%拡大している。これは、長期債であるほどスプレッドが拡がっていることを示している。時価会計導入を5ヶ月後に控え、値動きが激しい長期債が敬遠されていることもあろうが、「財政リスク」を織り込み始めている可能性も否定できない。

4. 全国銀行の総資産
グラフは、国内銀行(都銀・地銀・第二地銀・信託銀・長信銀)の銀行勘定の2001年2月時点での総資産構成を示したもの。総資産771兆円のうち、貸出金は59%(457兆円)、国債と地方債の合計が約10%の約80兆円を占めている。国債と地方債の割合は約9:1。

99年2月には貸出金が63%、国債・地方債が5%で、株式とその他の割合は2001年2月とほとんど同じであったので、貸出金が減った分だけ、国債・地方債が増えた計算になる。金額では、この2年余りで、貸出金が30兆円の減少、国債・地方債が40兆円の増加を見せた。

5. 国内銀行のバランスシート(1)
銀行資産構において、国債が急増する契機となったのは、99年3月に起こった、いわゆる「オーバー・ローン」の解消現象である。オーバー・ローンとは、都市銀行に顕著に見られたもので、集めた預金以上の貸出を行っている状態である。オーバー・ローンの銀行は常態的に資金不足となり、日々の不足額をコール市場で調達をしていた。

しかし、景気低迷が長期化し、リアル・セクターの資金需要が冷え込む中で、銀行貸出は急減する一方で、預金は基本的に横這いであったため、オーバー・ローンの解消が急速に進んだ。現在では「オーバー・デポジット」の状態が続いている。

6. 国内銀行のバランスシート(2)
貸出の急減で行き場を失った銀行マネーは、国債市場に向かい、2年足らずで約40兆円も増加、残高は倍増した。平成11年度、12年度の国債発行額は合計で167兆円であるから、その4分の1を銀行が買ったことになる。語弊を恐れずにいえば、国のファイナンスの4分の1を民間金融機関がつけているという構図となっている。

99年2月にゼロ金利政策が始まって以来の超金融緩和状態を脱する時期は、相当先となることは分かっているから、買い安心感があり、またデフレヘッジにもなる国債に銀行が向かっていったことの経済的合理性は理解できる。

しかし、(1)本来は待ったなしのはずである財政構造改革が先送りになる公算が強く、(2)更なる財政出動も視野に入っていること、(3)日本国債の格下げが続けば、2004年からの導入が検討されている第2次BIS規制で、日本国債がリスク・アセットになってしまう可能性あること、等を考えれば、国債の信用リスクについて真剣に考える必要があるだろう。

1,400兆円もある個人金融資産が、金融機関を通じて、ともに極めて収益性の低い実物資産と国債に向かっている。デフレが貯蓄超過経済の「脆さ」をあぶり出したといってよいだろう。

7. 日本国債10年物利回り
グラフは98年初からの日本国債10年物利回りの推移(週足)。98年の秋にかけての金融危機とロシア危機に伴うFlight-to-Qualityの動きで、国債相場は急騰、10年物利回りは一時0.8%台前半まで低下した。しかし、98年暮れから99年2月のゼロ金利政策導入時にかけては、資金運用部による国債買切りオペの中止を巡って、長期金利が2.5%近くにまで急騰した。利回りベースでは、98年10月の底から99年2月のピークにかけて+1.7%も上昇、先物価格は約9%下落した。

利回り急騰直前のレベルが異常に低かったこともこの上げ幅の大きさの説明となり得るが、少なくとも需給にかかる思惑だけで相場が大きく崩れる可能性は、この例からも理解できるだろう。

銀行が保有する国債の平均残存期間は5年前後であり、10年債の値動きだけで単純に損益をはじくことはできないが、80兆円の残高に対し、例えば平均で9%の価格下落があるとしたならば、それだけで7兆円の損失が発生することになる。

8. ドル・円相場
ドル円は3月末に127円直前までに上昇した後、徐々に頭打ちとなり、12日(木)には一時121円台を割り込んだ。先週も述べた通り、4月8日(日)のASEAN財務相会議で円安懸念を共同声明で採択したことを受けて、我が国政府からも過度の円安を牽制する発言が出たことが、足許の円高傾向のきっかけとなった。

海外投資家が利食いのドル売りに入っていることや、期待されていた本邦機関投資家のドル買いを伴う外債新規投資があまり出ていないことも、ドルの失望売りに繋がっている。125円を下回るレベルでは、本邦輸出企業のドル売りも出ている。米国の緊急利下げも、日米金利差縮小に着目したドル売り・円買いを誘ったようである。

しかしながら、大きな円高を見込む市場参加者はほとんどおらず、特に外国人投資家は、依然ファンダメンタルズに着目した円安方向を見ている。足許は、緩やかな円安の流れの中でのポジション調整的な動きと見るのが自然である。ただし、130円を超えて円安が急に進むというモメンタムも薄れつつあることも事実であり、また来週末にG7を控えており、比較的値動きの乏しい展開が暫く続くのではないか。

荒い展開を予想するわけではないが、仮に120円割れが示現した場合は、やや下押しする可能性がある。 来週の予想レンジは120円~125円。