2001年4月14日放送 マーケット・ナビのポイント

1. アメリカ小売売上高
4月12日(木)に発表された3月の小売売上高は、全体で前月比▲0.2%、自動車を除いたベースで同▲0.1%となり、ともに2月より悪化した。特に、消費者の景況感を素直に反映する耐久財(自動車・家具等)の売上が、前月比▲0.7%と大幅に悪化したことは注目に値する。1月にクリスマス商戦後の在庫処分と好天候で改善したものの、2月以降は再び下落傾向をみせている。前年同月比では、全体が+1.9%、自動車を除いたベースで+2.7%。

2000年の3月(ナスダック総合指数がピークをつけた月)をピークに、ほぼ一貫して下落している。3月の+2.7%(除く自動車)はレベルとしては依然高くみえるが、96年1月以来となる低い伸び率である。ピーク時には10%を超える伸びを示していたことを考えると、大幅な低下である。

設備投資の頭打ちがはっきりしてくる中で、GDPの7割を占める個人消費にも翳りが出てきたことから、景気減速は、暫くは続きそうな気配である。 設備投資・個人消費の減速による輸入減少は、現在のドル高トレンドの頭を抑える要因となるかも知れない点には、注意が必要である。

2. ミシガン大学消費者信頼感指数
4月12日(木)に発表された4月のミシガン大学消費者信頼感指数(速報値)は、93年11月以来の低水準である87.8となり、3月確定値の91.5から4.0%下落した。昨年12月からの下落幅は約11%にも及ぶ。

同指数が3月に小幅ながらも4ヶ月ぶりに上昇したことや、その他の消費者センチメント統計が改善したことを受けて、消費者マインド悪化の底入れを期待する向きも一部にはあったが、今回の悪化はこうした楽観論を退ける結果となったといってよかろう。

今回の速報値には、今週に入ってからの株価の戻し(ダウ平均で330ドル超、ナスダック指数で240ポイント超)は織り込まれてはいないため、株式相場が仮に月を通して安定を持続させれば、月末に発表される確定値は改善を見せる可能性が高い。しかしながら、最近の株価の上昇は下落トレンドにおける一時的な調整に過ぎない可能性が高い。

市場の一部でみられる「企業業績の悪化は既に株価に織り込まれた」との観測は、例えば短期的にみても、来週に1,300もの企業の業績発表を市場が迎えることを考えれば、楽観的な見方に過ぎるように思われる。中長期的には、現在は、生産部門にやや遅れて個人消費や雇用に翳りが出始めている景気減速の初期段階とも受け取れ、株式相場のもう一段の下押しも十分視野に入れておく必要があると思われる。

3. 最近のドル円相場
3月末に127円直前までドル高が進んだが、期初明け以降はやや頭打ちの感をみせている。12日(木)には一時122円台をつけた。足許でややドルが弱含んでいることの背景には、(1)アジア経済への影響への配慮もあり、わが国政府から急速な円安への懸念が示されたこと、(2)期初から、本邦機関投資家の外債投資が活発化することを期待してドル買いが入っていたが、実際には投資家が慎重な姿勢であることが明らかになり、ドルの失望売りが出ていること、(3)ドル買いを進めていたヘッジファンドや銀行ディーラーが、利食い売りに出ていること、(4)米国の産業界がドル高是正を政府に申し入れるとの観測が出たこと、等があげられる。

いずれも基本的には短期的な要因に過ぎず、現状の足踏みは一時的な調整局面である可能性が高い。ファンダメンタルズからは、ドル高方向の目は依然消えていない。現在の調整で、市場の持ち高の傾き(ドル買い・円売り)がある程度整理されれば、再びドル買い意欲が高まってこよう。総裁選が近づくにつれ、一度は評価された緊急経済対策の実現性に対する疑念が高まる可能性があることも、ドル買い・円売り材料である。

一方で、130円に近づくほど本邦当局による牽制の懸念も再燃してくるであろうし、28日にG7を控えていることもあり、一本調子のドル高は考えづらい。来週の予想レンジは122円〜127円。

4. 主要アジア通貨相場(1)
ところで、このところの円安から、アジア通貨の値下がりが顕著になっている。グラフは、タイ・バーツ、韓国ウォン、シンガポール・ドルの3通貨の対ドル相場を、2000年初めを100として指数化したもの。バーツ、ウォンで約20%の下落、シンガポール・ドルで約10%の下落。シンガポール・ドルは、97年のアジア危機当時で最も影響が少なかったこともあって、10%下落でも、当時の水準に匹敵する安さ。韓国では株価への影響も出で、中銀はウォン買いドル売り介入を実施した。今週初めにクアラルンプールで行なわれたアセアン財務省会議でも「円安がアセアン経済に悪影響を与える」と懸念を表する声明が出され、日本政府当局者は「恣意的な円安誘導をするつもりはない」と表明した。

各通貨とも危機後、事実上のドルペッグをはずしたため、円安に連れて下がる傾向が鮮明になってきており、グラフに円の推移を重ねてみると、見事に符合する。

5. 主要アジア通貨相場(2)
このこと自体は、日本製品との競争条件ではイコールになるという意味で、決して悪いことではない。アジア経済の一体化という実態を表わしてはいる。ただ、ドル円レートが、アジア各国の通貨・金融市場の不安定要因になり得るという意味で、円の責任がより重くなったと言え、日本の景気維持のための安易な円安にはより慎重さが必要であろう。