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第309回 2006年12月2日放送 椒房庵 河邉哲司 社長

ある雑誌に書いてあったが、『最も白いご飯に合うおかずランキング』の第一位が明太子だった。そんな明太子の中でも最高級品といわれているのが椒房庵の明太子。木箱に入ったキレイな明太子が8〜10房で1万円と、お値段も一級品。この明太子は贈答用に人気が高く、明太子ファンの中で高いブランド力を築き上げている。その成功の秘密は河邊哲司社長のこだわりだった。

河邊社長は1955年、113年の歴史を誇る醤油メーカーの「久原本家」(福岡県)の創業家に生まれ、大学を卒業した後、実家の久原調味料(現在の久原本家)に入社した。当時は富山の薬売りのように、勝手口から入り、一升瓶に補充するという販売スタイル。しかし「これだけでは駄目になる」と感じた河邊社長は醤油の本業から派生したタレなどの加工調味料の製造販売へと事業を拡大。しかし、それでも満足しなかった。自社ブランドの商品を持ちたいとの想いが強まるばかりだったのだ。

そして1990年、明太子事業にも新規参入、椒房庵を設立した。しかし、なぜ明太子に進出したのだろう。博多にはあまたの明太子メーカーがあり、その中で、最後発で事業を開始するのには度胸が必要ではと思っていたら、「度胸よりもこのままではいけない、何かをしなければならないという想い」からの進出だったと言う。その何かを明太子にしたのは「博多で強いのは明太子。調べてみると奥が深く、深いからこそ何かができる。また、明太子メーカーは博多にしかない。タレは全国メーカーと戦わなければならないが、明太子なら福岡県内のメーカーとだけ戦えばいい」と考えたそうだ。

最後発ゆえにブランド戦略は徹底した。明太子事業に進出したときから高級路線を明確にし、最初の6年間は販路を福岡県内に限定して、商品の希少性を訴えた。1996年から、顧客の要望に応えて通信販売を開始したが、店舗での販売は依然として福岡県内だけ。「博多でしか買えないものがあってもいい」という差別化戦略だ。しかしその名は次第に口コミで全国へと広がっていく。「我々弱小企業は口コミがとても大事」と考える河邊社長の思い通りの展開だった。

こだわったのはブランド戦略だけではない。素材にも並々ならぬこだわりを持っている。椒房庵の明太子になることを許されているのは国産のタラコの中でも『真子』と呼ばれている部分だけで、非常に貴重なものだ。(タラコには未熟な『ガム子』、ほどよく熟成した『真子』、孵化寸前の『目付け』がある。)1年間に日本の市場で流通しているタラコの量は全体でおよそ7万3800トン。この内6万8300トンが海外からの輸入品。国産のタラコは5500トンと全体の7%で、更にその中で真子と呼ばれるのは7%。つまり「真子」は、タラコ全体で見ると僅か0.5%くらいしかない貴重なタラコなのだ。

しかも、その真子が最高なものになるよう、すけそうだらの一尾一尾を針で釣り上げる「はえなわ漁」でとれたタラコを買い付けている。はえなわ漁は効率が悪く手間もかかるが、魚を痛めずに捕れるため新鮮な真子を手に入れることが出来るのだ。

ここまで河邊社長がこだわる訳は、この言葉から汲み取れる「モノ言わぬモノに モノ言わす モノづくり」。この言葉には「美味しいものを作ることが大切。美味しいものを作るには素材が大切。特に弱小メーカーの生きる道は本物を求めること。本物は人から認められる」という想いが込められている。

本物志向は明太子だけではない。4年前から農業まで手がけるようになった。「食品メーカーにとって農業は使命」と河邊社長は考えているからだ。もちろん無農薬栽培で、収穫した野菜を使ってケチャップやウスターソースなど新たな商品群の展開を図っている。更にこだわりの素材を使った料理を提供できるよう「茅乃舎」というレストランも1年前から始めた。場所は福岡市から離れた山の中だが連日大盛況だという。

こうしたこだわりを持った椒房庵だが、株式の上場は目指さないと言う。「上場をすると株主のためにやらなければならない。我々は我々がやりたいことをキチンとやる為に上場しない」と河邊社長は話す。全国の百貨店から出店の依頼も受けるそうだが、これも商品の質を維持するために断っているという。

豊かになった日本。かつての大量消費から本物志向へと消費の傾向は変わってきた。そうした時代の変化に椒房庵のような商品作り、販売戦略はマッチしているようだ。「企業は本物を伝える文化。その文化を継続させることに意味がある」と考える河邊社長、これからも我々の食卓に憧れの「食」を提供してくれそうだ。

語録 〜印象に残ったひと言〜
  • モノ言わぬモノに モノ言わすモノづくり
  • 弱小メーカーが生きる道は本物を求めること
  • 食品メーカーにとって農業は使命
  • 企業は本物を伝える文化。その文化を継続させることに意味がある
亜希のゲスト拝見

椒房庵のインターネット通販にはまり始めている私。商品は明太子だけでなく、醤油から派生したタレの技術から出来上がった商品など全部で50種類。お話を伺ったその直後、早速、「生七味」「ケチャップ」「ウスターソース」を注文しました。

しかし、美味しいものというのは知らなければ良かったと思うものの一つです。美味しいものは一度口にしてしまうと、その味が基準になってしまい、どんどんエンゲル係数を高めてしまうから。椒房庵の明太子で驚いたのはその色です。きれいなタラコの色でした。味も辛さだけでなくタラコ本来の味が生かされていて、卵はプチプチ。ご飯を何杯もおかわりしてしまいそうで、ダイエットのときには避けた方がいいかなと思ってしまうほど…

100年続いた家業を更に100年続けることを考えながら商売をしている河邊社長。老舗を任される重圧や責任感は計り知れないのでしょうね。そのためにも本物へのこだわりは並大抵ではありません。実は1年前にオープンした茅乃舎は茅葺き屋根のレストラン。1年をかけて最高の茅を集めて作り上げています。お食事も本物志向ですが、その建物も本物志向だったのです。ありとあらゆる所にこだわりを見せる河邊社長。血液型はA型なのでしょうか?

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