第306回 2006年11月11日放送
資生堂が大躍進している。激戦区のヘアケア市場に、今春、「TSUBAKI(ツバキ)」を新規投入し、僅か2週間でトップブランドに躍り出た。
化粧品のイメージを前面に出した商品で、大物女優ら12人の旬の女性達を起用したインパクトの強い宣伝広告を50億円の費用をかけて展開。目にした方も多いと思う。
この「TSUBAKI(ツバキ)」に代表される資生堂の新戦略は『メガブランド戦略』と呼ばれ、注目を集めている。そして、メガブランドという大胆な発想を打ち出したのが資生堂・前田新造社長だ。
『ブランドを磨きなおす』
資生堂は、お客様ニーズの多様化や流通の細分化に対応する形で、大量のブランドを作っていた。その数は100を超えていたという。「その時代の中では正しい選択だった」と振り返る前田社長。しかし、「小粒なブランドがたくさん出来てしまった」という問題意識を抱いていた。
そして前田社長は「太くて強いブランドを再生してゆく」というブランド戦略に転換した。「メガブランド戦略」だ。まず、100あったブランドを3分の1の30前後にまで絞った上で、6つの商品カテゴリーでシェアトップを狙える“メガブランド”を創った。(メイクアップのマキアージュ、シャンプーのTSUBAKI、男性化粧品のウーノ、スキンケアのアクアレーベル、メイクアップのインテグレート、高級スキンケアのエリクシールシュペリエル。この内、ツバキとマキアージュはブランド立ち上げ直後にシェアトップに輝いている。)
更に、CM展開もこの6つのブランドに重点を置き、TSUBAKIでは大物女優6人と荒川静香ら話題の女性6人を起用、その広告費は50億円にものぼった。しかし、この戦略転換は大成功だった。資生堂の売上高は急回復し、今年度は前年度比プラス4%の6709億円を見込んでいる。
「資生堂の信頼を高めるということは、お客様の中にブランドがきっちり信頼感を持って受け入れられること。それで初めて資生堂のブランドが輝いて見える」。メガブランド戦略の狙いはまさにここにあった。
『100%お客様志向の会社に』
売上げ至上主義から顧客第一主義へ、そのために前田社長は「ビューティーコンサルタントの活動革新」を行った。ビューティーコンサルタントは、店頭などで直接お客様に接客し、商品説明やスキンケアのアドバイスをする人たちのことで、彼女達こそ資生堂をお客様に好きになってもらえるかどうか、資生堂のイメージの決定権を持っている重要な人材だという。
前田社長は、売上げのノルマを無くした。そして「おもてなしの精神」に基づく接客を訴え、客の再来店率を上げるよう求めた。ビューティーコンサルタントの意識改革には顧客アンケートという仕掛けも使った。「挨拶はどうでしたか」「商品の説明はいかがでしたか」といった質問から、「もう一度私の説明を受けたいですか」というシビアな質問まで、接客を受けた客に記入してもらう。
毎月4万通のアンケートが集まり、その集計結果を「通知書」(と資生堂のコンサルタントの方がおっしゃっていた)という形でビューティーコンサルタントにフィードバックした。自分の良い所や直すべき所が分かるようになっており、担当者のモチベーションを上げる効果につながっているという。
『信頼は中国でも』
資生堂は130年前の創業以来、処世堂・人のための企業であるとの伝統が脈々と伝わっているが、その想いは日本だけでなく、中国でも実践されている。
資生堂が中国に進出したのは今から25年前の1981年。まだ改革開放の前で、人々は人民服を着ていた時代だ。1994年には、中国専用のブランド「オプレ」を発売。今では中国の女性に自分たちの国のブランドと思われているほど浸透している。2004年から専門店を展開、今年の12月には1700店、2009年3月には5000店にまで増やす計画だ。
中国で圧倒的な信頼感を獲得している資生堂。その秘密は「あせらずじっくりブランドを育成する」ことと「現地生産・現地販売する」こと。日本人の肌と中国人の肌はそう違わないそうだが、中国は広く、気候も民族も様々で、好みの色、空気の乾燥具合などは地域によって様々。その為にも現地に根ざす戦略が必要不可欠で、現地生産は勿論、中国には商品開発を行う研究所も設けた。
中国での最近の変化はやはり急速に進む生活レベルの向上。かつて「ちょっと背伸びしたら手が届く」いう高級感があった中国ブランドのオプレが「簡単に手が届くブランド」になってしまった。そこで今月からワンランク上の「シュプリーム オプレ」を市場に投入し、ちょっといいものでより綺麗になりたいという女性の気持ちに応えている。
資生堂の企業理念は『一瞬も、一生も、美しく』。「一人一人のお客様の美しさ、その一瞬一瞬を積み重ねて、一生の美しさに繋げてゆく」ということだ。そうありたいと願う女心、最近は男心もくすぐるこの理念、私もそうありたいなと感じています。
|