第302回 2006年10月14日放送
『一生に一度の買い物』と言えば『夢のマイホーム』の購入。そのマンションの販売が好調だ。首都圏の年間供給戸数は、去年まで7年連続で8万戸を超えるペースが続き、契約率は82.6%(05年)と、販売好調の目安となる70パーセントを大きく上回っている。団塊ジュニアと呼ばれる世代が住宅購入の時期を迎えていて、70〜75m2の3LDK、価格は4000万円から5000万円のものが人気を集めていると言う。
そんな中で起きた耐震強度偽装事件はブームに沸く業界に冷や水を浴びせた。信頼が大きく揺らぐ事態にマンションデベロッパーは早急な対応を迫られたが、コスモスイニシア(2006年9月にリクルートコスモスから社名変更)では、社内に構造設計の専門スタッフを配置。設計から現場の施行状況までチェックする体制を整えた。コスモスイニシアの重田里志会長も「建築確認は葵のご紋ではない」ことを実感したという。
マンション業界で、もう一つ気になるのが価格動向。首都圏の新築物件の価格が、2002年を境に少しずつではなるが上昇に転じているのだ。基準地価も、今年は16年ぶりに3大都市圏で上昇。特に東京23区では住宅地が6.4%、商業地が8.3%と大幅に上昇している。重田会長も「この上昇傾向は当面続きそうだ」と分析している。こうした地下の上昇は、市場の様相を大きく変える可能性を孕んでいて、既にマンションデベロッパーの間では売り惜しみともとれる動きがある。割安なマンションが大量に供給される時代は終わるかもしれないのだ。
マンション用地の買収も非常に難しくなっているという。重田会長によると「土地の入札を100回やって1回でも取れればいい方。多い時には一つの土地に40社も入札してくる」というくらい東京を中心とした首都圏での用地獲得は競争が激しくなっている。そもそもここ数年の都心回帰現象で、マンションに適する土地の数は減ってきていた。そこに地価上昇が加わって、これまで土地を処分していた企業や個人に先行期待が広がり、供給そのものが激減しているという。
そこでコスモスイニシアでは、今、再開発案件に力を入れている。権利関係が複雑なケースが多く時間がかかるが、「土地保有者の信頼を勝ち得て、少しずつ土地を買い集める」のは以前から得意としていた。今時の競争入札で仕入れようとするとコストがどうしても上昇してしまうが、まさに「土地を創る」作業である再開発は、そうした点でもメリットがあるという。また、地価の上昇で、マンション販売の主戦場は再び郊外へと移りつつある。コスモスイニシアでも千葉・埼玉・神奈川などでの販売が増えてきている。
中古マンション市場でも注目すべき取り組みがある。マンションと言えば新築物件に話題が集まりがちだが、去年の販売実績を見てみると、新築マンションの8万戸超に対し中古マンションは11万戸。そうした中で、とても中古とは言えないような中古物件も登場している。『リノベーション(再生)』だ。水回りや構造壁の位置は変更できないが、室内のデザインは最新のモノに一新。住む人のリクエストに応えた設備や間取りを取り入れた。新築と遜色のない出来映えで価格は2割程度安いという。コスモスイニシアでは、大手企業の幹部用社宅だった物件のリノベーション(再生)を手掛け、販売は好調だという。
コスモスイニシアというとマンションのイメージが強いが、実は戸建ても手がけている。あるアンケートによると「40歳代では70パーセントを超える人が戸建て志向」だそうで、やはり戸建てへのニーズは高い。重田会長は「戸建てとマンションでは考え方が少し違う。マンションは一棟全体でどう見えるか。戸建ては一つ一つの顔を見ながら、街づくりまで考えている」と話す。
コスモスイニシアが開発している住宅地を訪れると、一軒一軒のデザインはもとより、緑地の整備や電線の地中化など街の景観への配慮も徹底している。また、コスモスイニシアは、間取りに対する工夫にも気を配る。何よりも家族のコミュニケーションを最重要視していて、具体的には、リビングを通らなければ2階の部屋に行けない『リビングイン階段』。家事をしながらでも家族の顔を見て会話が出来る『コミュニケーション・キッチン』。子供部屋にあらかじめ二つのドアをつけ、成長に合わせて一部屋を二部屋へと分けることが出来る『2ドア1ルーム』。こうした工夫が、家族の絆を深めることに繋がるのだ。
コスモスイニシアの重田会長が、全社員に向けてキーワードとして掲げている言葉がある。『Empathy』(共感、感情移入)だ。シンパシーを更に深く掘り下げ、住む人に共感し感情移入すること。それが、顧客の気持ちを知りぬくプロフェッショナルへの道であり、他社との"差"をつける鍵になるという。
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