第291回 2006年7月29日放送
日本はすっかり豊かになり、ファッションや食事などは世界の中でもトップクラスになっている。しかし、まだ豊かとは言えない日本の住宅事情の中で、なかなかインテリアまで手が回らない人も多いのではないだろうか?そんな人々から支持されているのが、家具インテリアの販売で急成長中のニトリだ。
人気の秘密は、商品のバリエーションと低価格にある。広い店内にはベッドからテーブル、食器、スリッパまでとにかく種類が豊富。そして価格の方も2人がけソファーが19800円、ダイニングセットは49800円とリーズナブル。なぜこうしたことが実現できるのか、その秘密はニトリが追求してきた"オールニトリ戦略"にある。商品を企画し海外の工場で製造、そして出来上がった製品を輸入し各店舗へと配送するところまで、全てニトリ自身で行っているのだ。製品の原材料の調達から流通まで商社などに頼らない体制を構築することによって大幅なコストダウンを実現したのだ。
しかし、商社を使わないということは、その分、自分たちでリスクを負わなければならない。実際、失敗も数多く経験してきた。チベットの山奥まで綿を探しに行き、やっとの思いで購入したものの、実際に届けられた箱を開けるとその半分は石で埋まっていたり、輸入した椅子に座るとすぐに壊れてしまう不良品だったり・・・。しかし、「損を出してもいい。リスクは自分たちで取ればいい」とニトリの似鳥昭雄社長は考えている。社長自身も、より良い綿を求め、自分の足でインドネシアやベトナムなど、世界中を探し回っている。「大きくて柔らかいオーガニックの綿は寒暖の差が激しい所のほうがよい」と日中は40度、夜は氷点下になるような過酷な場所まで自ら足を運んで、自分の目で確かめる執念さでリスクに立ち向かっているのだ。
今ではタイとインドネシアに自社工場を持っている他、366の海外工場に生産を委託して、年間で30万台の家具を日本向けに出荷している。そして価格の基本は3割引から5割引。3割以上安くないとお客様は納得しないからだ。今年5月に出演したスーパーのオーケーと同様、アメリカのウォールマート式の「Everyday low price」を模範に、特売をしない代わりに、毎日安いものを提供しているという。こうした仕組みでコストダウンに成功したニトリの業績は右肩上がりだ。この十年間で売上高は6倍の1570億円にまで伸びている。
似鳥社長は、「失われた10年ではなく飛躍の10年」と話している。「良い時代のときには皆が競争している。土地は取り合って地価が上昇する。こういうときは我慢。私はバブルの時、出店はなるべくしなかった。不況になって土地建物が安くなり『これはチャンス』とみて店舗を増やしていった。銀行も成長性がある企業とみて、融資も受けられた」。そして、40年前に僅か30坪の店舗から始まったニトリは店舗数136店舗にまで増えた。この10年間で4倍だ。
とはいえ、似鳥社長の人生は順風満帆というわけではないようだ。1966年、地元北海道の大学を卒業し、父親の経営するコンクリート工場に勤めた後、広告代理店に入社。しかし契約が全く取れず、1年後に退社した。そんな似鳥社長が生きていく為に選んだ道が家具店だった(1967年)。当時、ライバル店が地元にはなく、競合しなくてよいと考えたからだ。
しかし、創業間もなくすぐ隣に大型の家具店が出店。経営危機を迎える。そのとき似鳥社長はアメリカ視察を思い立った。似鳥社長は、そのアメリカで、今のニトリに繋がるビジネスのヒントを得た。それが「モノの豊かさと価格の安さ」、そして「色を合わせたトータルコーディネート」という考え方だ。アメリカでは消費者の立場に立って商品作りが行われていた。「これを真似しよう。アメリカが160年かけて今の形を作ったのなら、日本では60年で出来る」と考え、日本で初めてインテリアのトータルコーディネートと言う考え方を取り入れた。
そこから、徹底した客目線での商品開発に力を注ぐようになった。商品開発の基本は社長自身が客の一人になることで、自分が買いたいと思うデザインや品質、価格を追求する。試作は納得がいくまで何度でも作る。そして作ったものは全て社長自らが使ってみる。キッチン用品だったら、主婦になったつもりで使ってみる。そんなしつこさが常に新しいものを発見する原動力になっているのだ。
商品開発のキーワードは「O・T・C・M」。これはワンハウス・トータル・コーディネーション・マーチャンダイジングの略で、統一感のあるカラーやデザインで家具やインテリアでコーディネートしようと言う考え方だ。客にとっては、なかなか難しいインテリアのコーディネートがベッドからスリッパまでニトリの店内で上手に出来るメリットがある。一方、ニトリにとっては、「テーブルに合った食器も欲しい、カーテンもそろえたい」という客にまとめ買いをしてもらえるチャンスとなる。また、統一感のあるカラーやデザインで商品群を構成すると、ライバル店がなかなかそこまでは真似できないと言う。カラーコーディネートの基本色・ニトリカラーは21色。デザインはイタリア、フランスなどのデザイン先進国に依頼することもある。
今年4月(2006年)、世界最大の家具インテリアチェーン「IKEA」が日本に上陸した。売上高2兆円の巨人だ。似鳥社長は「IKEAは大先生。今までもよいところを取り入れさせていただいた。日本に来たのだから、また教えていただきたい」と歓迎しているが、IKEAは20年前に一度日本市場から撤退しているだけあって、今回は相当力が入っているはず。「今度はきっと成功するでしょう」と似鳥社長は話すが、ニトリとIKEAは価格とデザインにこだわるところなどお互いにとても似ていて、これからの競争が激化するのは必至だ。
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