第285回 2006年6月17日放送
「ココロも満タンに」のキャッチフレーズで知られているコスモ石油の木村彌一社長が大協石油(1986年に大協石油と丸善石油が合併してコスモ石油になった)に入社した1963年、原油は1バレル1ドルにも満たなかった。今では1バレル70ドル前後と、かつてない水準にまで高騰している。1980年代の第二次オイルショックの時は1バレル34ドル、湾岸戦争の時は1バレル32.49ドルが最高だったから、今の水準がいかに高いかお分かりいただけるだろう。そして、今後100ドルまで行くだろうと予測するアナリストもいるが、では何故、原油は高騰し続けるのだろうか?コスモ石油の木村社長は「石油が足りないというより、中国やインドなどの国々の急速な経済成長で世界的な需要が増えていることに加え、イランやイラクなどの中東情勢が不安定で、しかも投機マネーまでも入り、それが更に原油価格を押し上げている。これから値下がりする要因が見当たらず、今後も高値圏を維持する」と分析している。石油はかつてのいつでも買える商品から戦略物資になり、主要な外交課題にもなっている。
日本も例外ではない。資源を持たない日本にとってエネルギー確保は最大の問題である。そんな中、先月(2006年5月)資源エネルギー庁が『新国家エネルギー戦略』をまとめたが、その中で「輸入される原油に占める自主開発油田の比率を現在の15%から2030年には40%に引き上げる」との目標を掲げている。政府もようやく石油獲得に国も関与しなければならないという危機感が出始めたようだ。
コスモ石油の場合、輸入する原油のうち自主開発油田が占める割合は6%だが、将来的には10%にしたいと考えている。コスモ石油の最初の自主開発はアブダビで、1970年代に操業を始めている。また、1997年からカタールで30年ぶりの自主開発油田に着手し、8年がかりでようやく生産を開始した。しかし、目標の達成はなかなか難しいのが現状という。
原油の高騰はガソリン価格にも跳ね返っているが、ガソリンスタンドの厳しい競争は相変わらずだ。過当競争とも言われる消耗の激しい戦いが繰り広げられていて、その数は今年3月末で4万7584店舗と、1995年のピーク時と比べて2割、1万箇所程減ってしまっている。
こうした中、コスモ石油は、独自のガソリンスタンド戦略を打ち出している。従来のフルサービスのガソリンスタンドの数は業界全体の動向と同じく減らしているが、セルフスタンドのガソリンスタンドについては増やしているのだ。しかも単なるセルフスタンドではない。セルフスタンドの場合、客が自分でガソリンを入れるのでスタッフの数が少ないという印象があるが、コスモ石油の場合はフルサービスのスタンドと同じかそれ以上のスタッフがいる。これらのスタッフは洗車や車検、オイル交換など、ガソリン以外を手がけるプロたちだ。彼らはお客様とコミュニケーションを図り、プラスアルファーのサービスを販売し、ガソリン以外の売り上げを伸ばして高収益を狙うという戦略なのだ。業界の常識を覆すこの新しい"業態"が確立するのか、業界全体が注目している。
原油高騰の影響からだろうか、ガソリンの国内需要に変化が起きている。昨年度、21年ぶりにガソリンの販売量が前年比でマイナスになったのだ。自動車を対象にした事業だけでは限界が来る、との考えから、コスモ石油では高付加価値な商品を作れる石油化学の分野などで、アジア諸国へ向けた輸出に力を入れ始めている。逆に、急成長が続く中国やインドでは石油の生成能力が足りず、需要は高まっている。このためコスモ石油の精油所はほぼフル稼働だという。
また、次世代エネルギーへも力を注いでいる。LNG(液化天然ガス)を電力会社と協力し販売しているほか、燃料電池車を充電する水素ステーションの設置や運営、家庭用燃料電池の開発にも積極的だ。
「資源のない日本は色々なエネルギーのベストミックスをするのがよい」という木村社長。この原油高を契機に、我々のエネルギー環境はドンドン変わっていきそうだ。
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