第284回 2006年6月10日放送
「お客様のニーズは何か?」そう考えていたら、住宅ローンを32種類も作り出してしまった銀行がある。それが静岡県沼津市に本店を構える地方銀行のスルガ銀行。今でも横並びのイメージが強い銀行業界の中で、一線を画している銀行だ。
例えば、他の銀行ではあまり積極的にアプローチをしない『勤続年数の短い転職組』『外資系社員』『働く女性』なども顧客として取り込んで行こうとの姿勢が強い。それを可能にしているのが「スルガ銀行の審査能力と自由な発想力」だと岡野光喜社長は言う(スルガ銀行は岡野社長の曽祖父が創業)。
まず、審査能力。長年培ったデータベースを大分類12・中分類59・小分類513に分けた自動審査システムを1996年に導入。今では無担保ローンは30分以内、住宅ローンは24時間以内で返答できると言う。通常なら住宅ローンは3日から一週間かかるところだが、「これではお客様に返答を待つ間に苦痛を与えてしまう」との考えから、スピードのある自動システムを導入したのだ。
スルガ銀行の「自由な発想力」はユニークな商品開発力に繋がっている。「出る杭になれ。出ない杭は引き抜く」と言う岡野社長の言葉通り、会議で発言をしない者は次回から呼ばれなくなる。また、会議では結論を出すのが大原則だ。スルガ銀行は会議室にも特徴がある。岡野社長が自らアイデアを出したという全面ガラス張りで扉のないオープンスペース。しかも、会議室を取り囲むように、こちらもガラス張りの役員室が並ぶ。何を話しているかが外から聞こえる環境なだけに、議論はオープンで、誰でも参加して意見を述べることが出来る。そんな会議から様々なアイデアが生まれ成果も挙がっている。例えば、女性専用の住宅ローン。女性の几帳面さがよい方向に現れているのか、1ヶ月以上の延滞率は低いとのこと。また転職組へのローンも「能力があるから転職するという」という観点から実行し、好評を得ている。更に外国人向けにもローンを実行、パンフレットも英語・ポルトガル語・中国語など6カ国で作り、やはり好評を得ている。
また、様々な世界初・日本初の商品も生まれている。例えば、健康不安のある人向けの住宅ローン(通常の団体信用保険に加入できない方の為に特別な保険が付いている)、ガン保障特約つき住宅ローン(ガンにかかると元本が半分に減るという商品)など日本初の商品は12種。インターネットバンキングを日本で初めて行ったのもスルガ銀行だ。「インターネットの普及で、地域を簡単に飛び超えられるようになった。地域密着だけでは他行との差別化が難しくなってきた」という。また、今ではよく聞く静脈認証システムもスルガ銀行が世界で初めて預金に導入した。
スルガ銀行を特徴付けているのは、こうした商品開発力だけではない。リテールに特化した経営戦略も際立っている。個人向けローンの割合は年々高まっており、今年3月には7割を超え、日本一の水準になった。ここまでリテールに特化しているのは岡野社長の先見の明がある。大学卒業後にアメリカ留学し、その後、入行した富士銀行でロンドン支店に勤務した経験から、欧米の銀行がいかに個人ビジネスに力を入れているのかを知った。そして岡野社長は30歳になってスルガ銀行に入行。「スルガ銀行は静岡銀行と横浜銀行にサンドイッチされており、個性を出さないとダメ」「日本にも個人重視の時代が来る」という考えから個人ビジネスに特化していった。
今、スルガ銀行が力を入れているのが『富裕層』と呼ばれる人々を対象にしたプライベートバンキングだ。現在、日本には金融資産が5億円以上のスーパーリッチは6万世帯、1億円以上5億円未満が72万世帯、3000万円以上1億円未満になると860万世帯に達すると推計されている。スルガ銀行はこういった世帯に注目し、まるで高級ホテルのロビーのような『サロン・ド・コンシェルジュ』を2004年からスタートさせた。
スルガ銀行の業績は好調だ。ユニークで付加価値の高い商品を作ることによって低金利競争に巻き込まれず、利ざやを確保できる体制を作り上げ、貸出金利から預金金利などを差し引いていた預貸金利ざやも拡大傾向にある。今年3月時点では1.88%と地方銀行平均(0.77%)を大きく上回っている。リテールに特化した戦略もプラスに働き、ここ2年間は過去最高益を更新。2006年3月期決算では経常収益987億円、最終利益142億円を記録した。
次なるステップは『BANK2.0』。これは岡野社長の造語だ。「よりお客様主導になる時代に向け、携帯電話取引やお客様が利用しやすい仕組みづくりなどに力を入れていく」というモノ。「銀行を選ぶのはお客様。だからこそお客様主導の企業風土を作ることが重要。その為にはボリュームからクオリティへとシフトしてゆく」と岡野社長は話す。『BANK2.0』の具体的な内容はまだ秘密だそうだが、世をまたアッと言わせるのは間違いなさそうだ。
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