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第279回 2006年5月6日放送 森ビル 森 稔 社長

今から50年程前、学生だった森ビルの森稔社長は、初めて表参道を訪れたとき、「立派な通りがあるんだな。東京はすごい」と思った。中でも同潤会アパートには「こんなところに下宿できたらいいな」と想いを馳せたが、家賃が高く断念した。

それから半世紀。かつて同潤会アパートに憧れを抱いた青年が再開発に乗り出し、今年2月、『表参道ヒルズ』へと生まれ変わらせた。「当時を振り返ると夢みたいだ」と森社長。その表参道ヒルズには、オープンからまだ2ヶ月しか経っていないのに300万人が来場。平日は4万人、休日ともなれば7万人が全国各地から、はたまたシンガポール・上海・韓国など海外からも押し寄せている。そもそものターゲットは、文化に関心が高くファッションコンシャスな人たち。全体の5%程度だと言う。その為、店内には国際的で個性的なショップが並んでいる。しかし、いざ蓋を開けてみると、実に幅広い人たちが訪れていて、周辺の飲食店までもがこの新しい人の流れで大繁盛。森社長も「街の流れが竜巻のようになった。表参道ヒルズで街も通りもこんなに変わってしまった」と驚いていた。

表参道ヒルズのオープンによって変わったのは街並みだけではない。周辺の地価も急上昇している。今年3月に発表された公示価格を見ると、全国の住宅上昇率1位から4位までが全て表参道ヒルズ周辺で、どこも30%近い上昇を記録した。

では、それほどの人気を呼んだ秘密は何だろうか?

一つは、建物だけを考えるのではなく街全体との調和や成長を考えて、「街作りを点から面へと広げた」こと。表参道ヒルズは街全体を文化とファッションを発信する大人のための国際的な街にしようというのがコンセプトだ。二つ目は街全体の景観に溶け込む工夫を凝らしたこと。世界的建築家・安藤忠雄氏が大きな役割を果たしている。例えば…

  1. 表参道の坂の傾斜と建物の傾斜をそろえる
  2. 街の象徴であるケヤキの高さに建物自身の高さを合わせる、等々…

こうした工夫によって、落ち着きのある大人の街という新しい風を吹き込んだのだ。

森ビルと言えば、都心でよく目にする「森ビル12」や「森ビル37」など番号が振って所謂ナンバービルがすぐに浮かんでくる。ナンバービルを建て始めた40年以上前は、まだ職・住・遊を分けて考えるのが当たり前だった。だからナンバービルは職を中心に計画されたが、そうすると都心に住む人がドンドン減っていき、街としての"衰退"が始まった。森稔社長は、「これではいけない、職・住・遊を持ち合わせた複合都市を作ろう」と考えた。「そうすれば、電車の時間などを考えるTIME POORな街からTIME RICHな街に変わっていく」。それが『ヒルズ』の始まりだ。名前の由来は司馬遼太郎の『坂の上の雲』。坂の上に行くと(=丘を登ると)見えてくる景色が変わる」という想いが込められている。

そのヒルズの第一弾が1986年にオープンしたアークヒルズ。ホテルや音楽ホール(サントリーホール)を併設した複合型都市開発が姿を現した。2001年に完成した愛宕ヒルズは愛宕神社を見下ろし、江戸の歴史を伝える愛宕山の復活がテーマ。2003年に完成した六本木ヒルズは、最新の技術や文化を発信することをテーマに、美術館や映画館を併設。「ヒルズ族」という言葉も生まれた六本木ヒルズを森社長は「大成功」と評価している。「IT関係だけでなく、政治家・スポーツ選手など多岐に渡った人々や企業が集結し、世界の人が楽しめる街になった」と話す。そして今年、表参道ヒルズがオープン。文化とファッションを発信し、都市環境と共生することがテーマとなっている。

さて、気になるのは次のヒルズだが、実はもう動き出している。場所は海を越えた中国・上海。高さ492メートルの101階建て、延べ床面積は六本木ヒルズ森タワーと同じぐらいだが、高さはその倍と細長く、一見栓抜きのようにも見える。『上海ワールド・ファイナンシャルセンター』と名付けられ、その中にはオフィスだけでなく、カンファレンス設備、ホテル、そして巨大ショッピングモールも併設。「世界の金融センター」としての機能に加え「アミューズメント施設」としての顔を持ち、北京オリンピックや2010年の上海オリンピックを視野に、2年後の2008年に竣工させる予定だ。グレードA以上の高付加価値ビルがまだまだ少ない上海、市場としての可能性は大きい。現在の家賃は日本の三分の一程度だが、将来を見据えると日本の家賃を追い越す可能性も十分ある。上海版・ヒルズ族が誕生するかもしれない。

では、森ビルの次なるターゲットは海外市場なのかというと、必ずしもそうではない。海外での仕事を広げる考えはあるものの、基本は東京。「海外でのノウハウを日本のプロジェクトにフィードバックさせる」と言うのだ。これからの目標は「東京をもう一度創り直すこと」。森社長は「東京にはまだ無駄が多い、低層ビルが多く、コンクリートジャングルになっている。改善するにはもっと高層ビルを作り、余った場所に自然を増やしていきたい」と話す。ご本人も今、高層マンションにお住まいだそうだが「住み心地はよく、地震にも強い」という。森ビルの次なる都市再生は何処になるのだろう?

語録 〜印象に残ったひと言〜
  • 学生時代あこがれていた同潤会アパートを開発するとは、夢みたいだ
  • 街の流れが竜巻のようになった
  • 街づくりを点から面に広げる
  • TIME POORな街からTIME RICHな街へ
  • 上海にはまだ高付加価値ビルが少なく可能性は大きい
  • 海外のノウハウを日本のプロジェクトにフィードバックさせる
  • 東京をもういっぺん創り直したい
亜希のゲスト拝見

森社長はきっと大変おしゃれな人だと思う。いい時計をしていたり、いいスーツを着ていたりする人は多いが、森社長は爪までが美しく磨き上げられていた。私も時々ネイルサロンに行くが、たまに男性の人も見かける。必ず感度の高い仕事をしている人だ。ヒルズシリーズという時代を先駆けたビルを、10年、20年の歳月をかけて構想を練り、創り出していく感度の高さは、ファッション業界よりも高いかもしれない。そんなことを森社長の爪を見て感じてしまいました。

スタジオでは「東京をもう一度創り変える」と話されていたが、個人的には、古きよき風景や民家など、ノスタルジーな街並みをも残して欲しい。例えば、揚げたてコロッケを出してくれる精肉店。これがなくなってしまうと悲しいです。