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第276回 2006年4月15日放送 大阪大学大学院 本間正明 教授 

日本の借金は雪だるま式に増えている。2005年度は769兆円、今年度は更に増えて774兆円に達する見込みだ。GDPに対する比率は160パーセントを超え、かつてひどい借金国といわれていたイタリアよりもはるかに大変な状況だ。「日本人の個人金融資産は1400兆円あるから大丈夫」という議論もあるが、特殊法人をも含めると合計1千兆円にも上る借金を抱えており、個人の金融資産の三分の二も使っている計算になる!

「このままでは民間がいくら頑張ってもお金は公に行くばかりで、民間活力がなくなる。マーケットの信頼もなくなり、金利は先高が懸念される。金利が上がれば、政府の利子も含めた借金の総額は増えてしまう。」と話してくれたのが、大阪大学大学院教授(専門は公共経済学)で、小泉総理が議長を務める経済財政諮問会議の民間議員でもある本間正明さん。

この諮問会議は、5年前に森前総理の下で、経済・財政の基本方針を話し合うために発足。小泉総理になってから、総理がリーダーシップを発揮する場として存在意義を高めている。民間議員は本間教授のほかには、経団連の奥田会長や、ウシオ電機の牛尾会長など4名。政府からは議長を務める小泉首相以外に竹中総務大臣、与謝野経済財政担当大臣など6人が参加している。

その諮問会議が、今年最大の課題としているのが「歳出と歳入の一体改革」。4月7日には、2011年度に基礎的財政収支を黒字化させることなどを盛り込んだ中間とりまとめを発表した。まずは、新たに借金をしないで収入の範囲内でやりくりを出来るようになろう、というものだ。そして、そうなるためには何をしなければいけないのか。諮問会議は、7つの基本原則をまとめている。

(1)政府のスリム化
(2)成長力を強化
(3)聖域無き歳出削減
(4)国と地方のバランス
(5)負担を先送りしない社会保障制度
(6)大胆な資産売却
(7)新たな国民負担は国民に還元

この中の(7)は増税を念頭に置いたもので、消費税の引き上げが議論の焦点になっている。では、どれくらいの増税が必要なのか。竹中総務相は、日本経済の成長率を4%と高めに予想、自然増収が期待できるので消費税率の引き上げ幅は3%でいいと主張している。これに対し与謝野経済財政相は、成長率を3%と低めに予想、消費税率は大幅に引き上げる必要があると考えている。これに対し本間教授はこう分析する。「高めの経済成長を見込むと財政再建への取り組みが甘くなりギャンブルのようになってしまう、と海外ではよく言われる。財政再建は、20年スパンで堅実に進めていくものであり、その過程で経済成長率が予測よりも高くなれば、再建計画を前倒しで実施すればいいことだと考えている」。

今後の改革のスケジュールだが、諮問会議がスタートしてから現在までの5年間が改革の第一期。第二期は2011年度までの5年間で、ここでは基礎的財政収支の黒字化が目標になる。そして2012年度からは改革の第3期で、債務残高のGDPに対する比率を下げていくのが課題となる。

また、全く増税をしないで財政再建を目指すとどうなるのか、財務大臣の諮問機関・財政審議会がまとめた試算がある。2015年度には医療費負担が2・5倍に増え、基礎年金の支給開始年齢は71歳になる。更に国立大学の授業費は4倍になり、パトカーの到着時間は30分もかかるようになる。少し極端な例だが、国民負担は免れないのが実情のようだ。

ポスト小泉は誰か、ということが話題になる。同時に気になるのが、次期政権では財政諮問会議はどう位置付けられるのかということ。本間教授は「今はこの諮問会議を利用しないと動かないところに来ている。これからは民間議員がどこまで踏ん張り、民間の声をいかに現実の政治に反映させるかという正念場だ」と決意を語った。

語録 〜印象に残ったひと言〜
  • 特殊法人も含めると日本の借金額は1千兆円、個人金融資産の合計の3分の2にもなる。
  • 外国では、成長を高めに見込むと財政再建が甘くなってしまうといわれている。
  • 20年スパンで堅実に見る。もし成長率が予想を上回れば、再建を前倒しにすればよい
  • 民間人である我々が民間の声をいかに政治に反映させるかという正念場だ
亜希のゲスト拝見

放送後、本間教授に「知れば知るほど気が重くなりますね」と伺ったら、「本当にそうです」とおっしゃっていた。相当根が深い問題をはらんでいるんだな、と推測した。私もフリーになり、税金を自分で納めるようになってから、サラリーマン時代にはそれほど気にもしていなかった税金の重さを感じるようになった。

みんながこんなに税金を払っているのに、借金が1千兆円もあるというのは、ニュースなどで伝えられてはいるが、改めてショックである。しかも、これからもっと取られてしまうのか・・・と思うと、気が重いのは私だけでしょうか?

また、今回感じたのが数字のマジック。経済成長率が3%か4%かという議論でも、増税をしないとパトカーの到着は30分もかかるという試算でもそうだが、数字の裏に潜む曖昧さも感じた。基礎的財政収支を黒字化するのに必要な額についても、民間議員は20兆円と言い、対して竹中大臣は6兆円で済むと言う。

改革の成果を織り込んで将来を見通すのか、より堅実に考えるか。スタンスの差が、数字の差に現れる。その数字はどうやって出てきたのか、その背景を見ていく必要性があるのかもしれない・・・と感じた本間教授のお話でした。