第268回 2006年2月18日放送
パソコンが普及し始めたころ、町のあちらこちらにパソコンの使い方を教える『パソコン教室』があった。そんなパソコンも、今では日本人の7割が所有。まさに電話やガスなどと同じような当たり前のインフラになり、ネットショッピングやネットバンキングなどの金銭にまつわる取引も普通に行われている。
少し古いデータだが、2003年にネット上で行われたBtoB取引は年間77兆円、個人の買い物でも4.4兆円もあった。買い物をしたり入会したりする時に、住所や氏名、生年月日、時にはクレジットカードの番号や銀行の口座番号まで入力しているのだから、膨大な個人情報がネットワークの中を流れていると言える。そんな個人情報を悪用して金儲けを企む悪者が後を立たない。パソコンは、使い方を習う段階からその中にある情報を守る段階に変わってきた。
以前からコンピュータを狙った犯罪はあった。『コンピュータウイルス』である。これは自分の力を見せ付けたいという愉快犯的な性格が強いものだったが、今のネット犯罪は金銭や個人情報を狙うより悪質なものに変貌している。特に昨年4月に個人情報保護法が施行され、かつてのように内部からの個人情報の取得・転売がやりにくくなり、情報をより巧妙に盗み出す悪質なネット技術が発達してしまった。
最近急増している『スパイウェア』は、個人や企業が知らぬ間にパソコンの中に潜入し、誰にも気付かれずに情報を盗み出してしまう。銀行や企業のホームページを装って(本物とは微妙に違うそうだが区別がつきにくいらしい)、個人情報を入力させ、盗み出す『フィッシング詐欺』もある。こういったネットを脅かすウイルスやスパイウェアは、今や週に100から150の新種が世界中で誕生している。3年前は週に10件程度だったと言う。
こういった脅威から身を守るための対策ソフトを作っているのがトレンドマイクロだ。2005年12月期の売り上げは730億円、当期純利益186億円からも分かるように、ニーズは相当ある。その日本代表を務めているのが大三川彰彦氏。大三川彰彦代表は、日本ディジタルイクイップメント(現ヒューレットパッカード社)、マイクロソフト社で経験を積み、2003年トレンドマイクロの日本代表に就任した、まさにIT一期生だ。
そんな大三川氏はネットワークを巡る現状をこう分析する。「パソコンの利便性は否定できない。しかし、運転免許証のようなライセンスはいらない、誰でも入っていけるネットの社会は危険が潜みやすい。日本人は性善説を唱えるが、ネットがグローバル化し、悪意のある人も自由に入ってこられるネット社会になったからには、性悪説に合わせた対処が必要になる」。
そんなグローバルな危険を防止するために、トレンドマイクロ社は世界7箇所(アメリカ・日本・台湾・フィリッピン・ドイツ・フランス)にウイルス解析センターを開設し、その調査結果を世界中に発信、トレンドマイクロ社のソフトをインストールしているパソコンを24時間365日見守る。「ウイルスの解析はチェスのようなもの、先手を争う頭脳戦」だと言う。
トレンドマイクロが行っているのはソフト開発事業だけではない。『レスキュー隊』がある。レスキュー隊は、年々高度化するパソコンのハードからソフトまで、全てのトラブル解決を引き受ける。電話一本で直接現場に出張するレスキュー隊は『ネット版のJAF』とも言える存在だ。そのスタッフは、トレンドマイクロが認定したトレーニングを受けたプロたちで、個人ユーザー専門の人が全国に2千人、中小企業向きが1万人以上いる。彼らは専門的で難解なパソコン用語を簡単な言葉に言い換え(ウイルス感染=パソコンが風邪を引いた状態など)、丁寧に手ほどきを行うため、高齢者やコンピュータの苦手な人に好評だ。そのレスキュー隊でもパソコンのウイルス対策、スパイウェア対策へのニーズは増えている。
今後はどうなっていくのだろう?ウイルスを作るソフトが普及してしまっている今、根本的に無くすのは非常に難しい。アメリカでは携帯電話のウイルスが発生。同じくアメリカで、駅の券売機の中にウイルスが侵入し切符の発券を止めるという事態も起きた。ロシアでは証券市場の取引をストップさせている。あらゆるものがネットでつながれているだけに、ウイルスやスパイウェアによる被害が発生する可能性は広がる一方。それだけに「安全」を求める企業や個人のニーズは、これからも一層高まる。発展するネット社会の中で、トレンドマイクロのような「安全」を売る会社の存在は不可欠なものになってきている。
|