第257回 2005年11月26日放送
リコール隠しなど一連の不祥事で、消費者からの信頼を大きく失った三菱自動車。その再生の陣頭指揮にあたっているのが益子修社長である。三菱商事で一貫して自動車部門に携わってきた自動車ビジネスの専門家だ。
益子社長が三菱自動車に赴任して感じたのは、「社内でのコミュニケーションがうまく取れていないために責任の所在が曖昧で、悪い情報などが上層部に伝わっていない」ことだった。さらに不祥事が起こった原因についても、「10年間で社長が7人も変わるという、まさに経営不在だった」と述べ、硬直化した組織の抜本的な改革から着手した。
再生を目指す三菱自動車にとって、品質面での信頼回復は絶対条件。これまで開発、生産、販売など各部門がバラバラに品質管理を行っていたが、これを横断的にチェックできる組織を新設した。また益子社長自ら企業倫理役員を兼務し、「コンプライアンスを守ります」など書かれた誓約書を全社員に提出させた。「再建はトップだけではできない。すべての社員の意識が変わらなければいけない」と益子社長は強調した。
その一方で、益子社長は現場回りを欠かさない。一連の不祥事の過程で現場スタッフはすっかり元気をなくしていた。特に消費者に一番近い販売店は深刻で、「家族までもが随分と辛い思いをしたケースも少なくない」という。「このような思いを2度とさせてはいけない」と、益子社長は就任直後から工場、販売店を回り現場の声を聞いてきた。時々、週末に私服で訪れることもあるそうだ。
全社員が再生に向けて一丸となって取り組まなければならない。その大きな原動力となるのは、やはり新型車の投入だ。今年10月、販売開始となったSUVの『アウトランダ―』の売れ行きは順調で、今年度1万3000台の販売目標を掲げている。また、来年1月に販売を開始する軽自動車の『アイ』は、エンジンを車体後部に置きデザイン性も重視した。この新型車2台の投入で、昨年は23万台と大きく落ち込んだ国内販売台数を今年度は26万台にまで回復させる考えだ。
国内ではまだ信頼回復の途上にあるが、海外における三菱自動車の評価は決して低くない。ヨーロッパでは、10カ国以上から『カー・オブ・サ・イヤー』を受賞しているほか、アジア地域でも三菱自動車のブランド力は強い。益子社長は、今後、中国市場はもちろん、ベトナムやインド、さらにはロシア市場にも更に力を入れていく考えだ。その一方、三菱自動車の海外ビジネスで最大の課題となっているのが、昨年、巨額の赤字を出した北米市場への取り組みだ。「北米市場からの撤退は?」との質問に対して益子社長は、「北米市場は世界最大の市場。撤退は考えていない!」ときっぱりと否定された。果たして勝算はあるのだろうか。
益子社長の考えはこうだ。現在、北米ではGMやフォードの業績が著しく悪化している。その理由は色々あるが、一つの傾向として「M&Aを繰り返して規模の急激な拡大を行ってきた企業の中に不振なところが目立つ」という。「かつては400万台以上の販売規模を確保できなければ世界で生き残れないなどと言われたが、結果的には規模は小さくても自力で頑張ってきたところが成長している」と分析している。それだけに「三菱自動車らしさを出していけば勝負できる」と強調した。
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