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第256回 2005年11月19日放送 ダイエー 樋口泰行 社長

かつては『主婦の店』と呼ばれていたダイエー。小売業界に大変革を起こし、日本の高度経済成長を支えた超優良企業だった。しかし、消費者のニーズが量から質へと変化する中、時代の変化に対応しきれなかったダイエーは、巨額の負債を抱え不良債権の象徴ともいわれてしまうほど凋落してしまった。

そんなダイエーが産業再生機構のもとで再生を目指すことが決まった。そして2005年5月、ダイエーの指揮を執ったのは前BMW東京社長の林文子会長(59歳)。そして松下電器からボストンコンサルティング、アップル、旧コンパックコンピューター、2003年にヒューレットパッカードの社長と様々なキャリアを持つ樋口泰行社長(48歳)。2人とも異業種からの参入だ。「異分子が入ることで改革は進む」と樋口社長は見ている。

しかし、ダイエーの話を持ちかけられたときは相当悩んだそうだ。ヒューレットパッカードの社長に就任してまだ2年しか経っていない。社員一丸となって「一兆円企業にしよう!」と団結していたときだった。そんな社員を残して移籍するのが一番心に引っかかったという。しかし、「日本のために頑張りたい」という強い気持で、ダイエーの経営を引き受けた。

樋口さんの第一印象は、「消費者の声が通りにくい組織だ」ということ。例えば野菜の質が悪いという消費者の声があっても、なぜかその声は上層部まで届いていなかった。また現場の店員が自ら売っている商品をきちんと把握していなかったりと、ダイエーと消費者の距離は離れてしまっていることを実感した。

この組織を変えるため「リストラ」と「新しいダイエー作り」という2つの大きな改革に着手した。本来なら、まずリストラという後ろ向きなことを終わらせてから、前向きな攻めの経営を行いたいところだが、ダイエーの再生に与えられた時間は3年間。この間に、社員1万人(パートも入れると3万人)の巨大組織の意識改革を行い、新しいダイエーを作り上げなければならない。そのためすべてを同時並行で行っている。

まずリストラは以下の通り。

  1. 263店舗を209店舗に縮小(2006年6月末まで)
  2. 社員9604人をおよそ7000人に減らす(2006年2月まで)
  3. 109社あったグループ会社を、60社程度にする(2007年2月末までに)

店舗の閉鎖に関しては、東北・中国・四国地方からブロックごと撤退し、関東・近畿・九州・北海道に絞って展開する。こうすることにより物流の効率性を上げるのだ。言うのは易しだが、地域経済に与える影響も決して小さくない。実行するためには林会長・樋口社長の二人三脚による説得が必要だった。何度も店に向かい、何度も話し合いを今も行っている。

一方、前向きな改革も進めている。まず着手したのが「野菜の新鮮宣言」。ダイエーの野菜は10年も前から「新鮮ではない」という芳しくない評判をもらっていた。樋口社長自身も、前社の送別会の余興で「ダイエーのキャベツ当てクイズ」をさせられた時、冗談半分で一番古そうなキャベツを指差したら、それがダイエーのキャベツだったという笑えない経験を持っている。では何故ダイエーの野菜を古いのか?まず物流方法に問題があった。今までは野菜を全て本部に送り、そこから仕分けをして各店舗に送っていた。それでは時間ばかりかかってしまう。そこで、それぞれの店舗に近い市場から調達できるようにした。ほかのスーパーなら当然のことが、実はダイエーでは行われていなかったのだ。

また、今までは野菜を山盛りに積んでいたが、これでは店員も交換をあまりしないために野菜のチェックがおろそかになってしまう。そこで並べる野菜の数を減らし、随時店員が補充することで野菜の新鮮度を常にチェックできる体制に直した。さらに『鮮度パトロール』というものを作り、客観的に野菜をチェックしている。こうした改革で「お客様から野菜の新鮮なダイエーと呼ばれたい」と樋口社長は考えている。

樋口社長は、社員を元気で生き生きできるようにコミュニケーションを大切にしている。自ら現場で、テレビ会議で、メールでなど、あらゆる手段で自分の思いを伝えている。「これは厳しいことだが、こういう問題があるからやらなければならない。しかしその先にはこんな明るい道が開けるのだ」と社員と同じ問題意識を持つようにしている。「大きい組織ほど哲学や理念が大切」だと言う。

新しい業態の店舗も展開する。スーパーだけでなく、ディスカウントショップやコンビニとスーパーを融合させた新しいタイプの店を出店する計画だ。さらに外部の力も積極的に導入していこうとしている。もちろん自力でできることは自分でやるが、強いパートナーと組むことで、自らの弱点を補強するとともに、外からの声を聞こえやすくしたいのだ。先日、ユニクロと組んだのもこういう経緯からだ。

新しいダイエーを目指す姿勢は新しいロゴにも表れている。以前の月が欠けたようなダイエーのロゴは30年間も親しまれてきたマークだった。これを今年12月に完全リニューアル。「人」にも見える新しいマークは、ダイエーの『d』と『!』を合わせたもので、『ハートマーク』にも見えるというデザイン。「心をこめてお客様をもてなしていこう」という意思の表れだ。スローガンは『ごはんが美味しくなるスーパー』で、「今日も元気だ。ご飯が美味しい」という日常の充実を伝えたいと言う。

樋口社長が目指す組織は「ピラフ型ではなく、おにぎり型の組織」(スーパーらしい表現の仕方である)。ピラフのようにお米1粒1粒がパラパラと離れているような組織ではなく、おにぎりのようにお米がしっかりまとまった組織にしたいということだ。社長就任から7ヶ月経ったが、ダイエーのおにぎり化は確実に出来上がっている手ごたえを感じているようだ。

しかし時代は、『食の安全・安心』『高級志向と安値競争の2極化』など消費者ニーズはさらに変化しているし、少子高齢化で市場全体が縮小傾向にある。こうした時代の中で、いままでの『主婦の店』+『新しいダイエー』で新しい風を吹かせることができるのか?いまダイエーは「3年で再建」という明確な目標に向かって改革を進めている。

語録 〜印象に残ったひと言〜
  • 異分子が入らなければ、大きな改革はできない
  • ダイエーの第一印象は、消費者の声が通りにくい組織
  • 限られた時間の中で、守りと攻めの経営を同時進行させることが必要
  • 弱い部分は外部の強いパートナーと組む
  • いずれは日本の流通業に再び新しい風を吹かせたい
亜希のゲスト拝見

すっとした精悍な感じの樋口社長。自分のために頑張る人が増えている中で、日本のために頑張りたいと思う気持ちがとても新鮮でした。そういえば、会長の林さんも「日本のためになりたい」とおっしゃっていましたから、2人の気持ちは同じなのですね。

「ダイエーの社長に就任するまでは、あまりスーパーに行っていなかった」という樋口社長。だからこそ固定観念がなく、新鮮な感覚で改革を行っていらっしゃるのでしょう。ユニクロと組むというニュースには私も「エッ!?」と思いましたが、こんなことを考えつくのも異分子だからでしょうか?

ちなみに我が家の近所には手ごろなスーパーがありません。住宅街なのに何故?ここに今のダイエーを造ったら絶対繁盛すると思いますが、いかがでしょう?嘆願書のようですみません。