第251回 2005年10月15日放送
「治安がいい」と言うのは日本の自慢の1つだった。しかし、それは過去の話。バブルが崩壊し、不法外国人が増え、犯罪が増加している今の日本には、かつての安全神話はない。日本の刑法犯の検挙率も、80年代にはおよそ70%だったが、今では40%ほどに激減している。こうした中で増え続けているのがセキュリティーシステム。それもかつては企業向けがほとんどだった中で、今は家庭用が伸びている。日本のアメリカのように「安全をお金で買う時代」が到来したようだ。
このセキュリティーシステム業界の市場規模は3兆5000億円。同業他社は9200社もある。この中で国内シェア60%を誇るのが「セコム」。国内契約件数は121万件、海外も合わせると170万件にも及ぶ国内最大手だ。創業以来、右肩上がりで成長を続けている企業でもある。
セコムは創業者である飯田亮現最高顧問が29歳のとき(1962年)に国内で初めて企業向けの警備保障会社を立ち上げたのが始まり。あのTVドラマ「ザ・ガードマン」の舞台になったことでも有名だ(ちなみに最初のタイトル案は「用心棒」だったそうだが、イメージに合わないので変えてもらったそうだ)。
そんな飯田氏の下で営業畑や企業畑を歩んできた原口兼正社長(2004年に就任)が今のセコムを率いている。初の理系出身の社長でもある原口氏がセコムに入った1974年の日本は安全な時代だった。しかし、たまたま手にした就職ガイドの中に「警備」という業種が目に入り、「この新しい分野に惹かれて入社した」という。人とは違う感覚も持っている人物だ。そして原口氏は飯田創業者との接点も多く、多くのことを飯田氏から学んだ人物でもある。そんな飯田氏から「潮目が変わってきたな。気分を一新するためにも社長をやりなさい」といわれ、社長を引き受けた原口氏の任務は新しい時代のセコム作りである。
その任務遂行にはセコムの強みである「人」と「時術開発」が大きな鍵となっている。
(1)人材・・・セコムは全ての工程をセコムの社員が行っている。取り付けも、警報が鳴って駆け付ける人も皆社員だ。これはアメリカのような警備会社の大手を見ても例はない。アメリカの場合は多くの工程を外注しており、彼らの社会的地位も高くはないという。しかし、セコムの場合は社員教育に力を入れ「ステータスの高い社員を育成」し、信頼を獲得し、「セコム流とはお客様に付ける全ての設備を持っているということ」を貫いている。ちなみに、新しいセコムの制服をデザインしたのは山本寛斎さん。
(2)技術開発・・・セコムは導入する装置の開発にも余念がない。高度な犯罪が増えている中でセコムは常に一歩先を行く装置を生み出している。原口社長の言う「安全は日々生産、日々消費」されるくらい移り変わりの早いものだ。
セコムの最新技術の1つが「セコムAX」。真っ暗な状態でも侵入者の異常を感知し、まるで明かりがついているかのように鮮明にその侵入者を映し出し、その画像をセコムセンターに自動送信、スタッフが現場に急行すると言うもの。
その他にも宅急便を装った犯罪を阻止するため、顔をインターホンが感知しないと通常と異なった音を出し応答しないようにするものや、徘徊老人や外にいる子供が今どこにいるのかが分かる携帯用の小さな感知器「ココセコム」は値段も数千円と安く、ヒット商品になっている。また、急速に進むIT社会に対応して、「情報持ち去り防止システム」や「ネットワークセキュリティー」などもあり、対象となる警備の範囲を広げている。
セコムは日本国内だけを警備しているわけではない。セコムが現在進出している国は10カ国、契約数は50万件近くまでなった。顧客は日本人だけではない。例えば韓国では富裕層を中心にセコムはかなり浸透しており、セコムは韓国の会社だと思っている人もいるほどだ。大きな市場である中国ではすでに7つの合弁会社を設立し、中国企業との提携に力を入れている。また、東南アジアも力を入れている地域で、社員研修などで積極的に東南アジアに人を出している。海外での基本的なコンセプトは日本のセコムと同じ。ただ、人材は現地の事情を一番把握している現地の人を雇い、彼らを教育し仕事に当たらせ、セコム流を現地に浸透させている。
セコムが新たに力を入れているのがヘルスケア分野。高齢社会を迎えている今、前・木村社長も「1000億円規模のビジネスに育てたい」といっていたこの分野は、大きな力を発揮できる分野なのだ。すでに医療機関等と提携し、顧客に異常があった場合、セコムの装置のボタンを押せば病院につながるシステムを売り出している。他にも、会員制の健康管理サービスや有料老人ホームなども行っている。介護や医療までもが、セコムにとって広い意味での安心安全を守る分野になっているのだ。
また、「セコムの成長を支えているのは人の考え方の変化だ」と原口社長は強調する。かつてのバブル時代のような物欲ばかりの社会から、サービスにお金を出す社会に変わったからだ。かつてはタダだと思っていた水にも空気にもお金を出す時代、安全にも対価を払う感覚が日本にも生まれてきているのかもしれない。
まだまだ個人の市場は開拓の余地がある。もちろん高級住宅街でのセコムの普及率は非常に高いが、全国規模で見るとまだ1%程度だそうだ。「個人向けのマーケットは企業のマーケットと比べると桁違いに大きい」と原口社長も見ている。
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