第249回 2005年10月1日放送 林周二氏が著書『流通革命』の中で、「卸などの中間流通は不要になる」と説いたのが1962年のこと。その後も「卸不要論」は幾度となく叫ばれてきたが、そうした主張に対して異を唱え、「それならば社会が必要とする存在になれば良い」と一貫して加工食品卸の分野の発展に貢献してきたのが菱食会長の廣田正氏だ。 廣田会長は1970年代にアメリカを訪れ、当時、最先端の物流システムを目の当たりにした。物流先進国のアメリカでは既にオンラインによる受注が行われていた。その時の衝撃の大きさが、現在、菱食が誇る最先端物流システムにつながっている。 今年4月から福岡県で稼動している菱食のフルライン物流センター。九州全域のコンビニやスーパー向けの食品や酒類など1万2000アイテムを取り扱っており、廣田会長も「世界一最先端の物流センターだ」と胸を張る。最大の特徴は、IT化を徹底的に推進し、省力化・効率化をギリギリまで追及した点にある。 まず入荷した商品は全てコンピューター登録されるが、食品は鮮度が最も大切。そのため賞味期限までの残り期間が一定期限を経過している商品は、すべてメーカーに返品してしまうそうだ。菱食ならではのこだわりである。作業員はバーコードを読み取るだけで顧客から注文された商品をピッキングし箱詰めすることができ、小分け注文にも的確に対応できる。極端に言えば1個単位での処理も可能だそうだ。さらに注文された商品内容から予想される重量を計算し、実際に箱詰めした重量との差を検出することで最終チェックも行っている。 さらにトラックへの詰め込み方法にも特徴がある。顧客である販売店にトラックが到着した際、そのまま荷を降ろせば店舗内に陳列できるように配慮している。つまり顧客側の利便性を考えて逆算してトラックに荷詰めするというわけだ。もちろん、トラックの配達ルートもすべてコンピュータで管理されており、まさに入荷から出庫・配達まで徹底的にIT化が進められている。この最先端物流センターでは、4〜5年前の物流倉庫に比べて約半分の人員で対応でき、作業効率も4倍アップしたそうだ。 「失われた10年」などと言われ、日本経済全体が長期低迷した期間も菱食は19期連続増収と業績を順調に伸ばし続けてきた。利益面でも毎期、過去最高益を更新している。この背景には徹底したIT化の推進があるわけだが、さらに「提案型営業」への取り組みも見逃せない。 卸業務は、いわば川上であるメーカーと川下である販売店・消費者を結び付ける中間の位置にある。つまりメーカーでもない消費者でもないという中立的な立場にあり、さらに両者の情報や考え方も把握しているという強みを持っている。そこで菱食は早い時期から販売店に対する提案型営業を展開してきた。「こう並べた方が売れますよ」といった棚の陳列方法にはじまり、「今、消費者のニーズはこのように変化している」など重点商品の選定アドバイスを行ったり、季節や天候などをもとに重点販売スケジュールを週単位、月単位で作成している。 こうした提案型営業を超えて、更なる取り組みも行われている。その1つがファミリーレストラン大手のロイヤルホストと結んだ一括物流契約である。全国340ヶ所でチェーン展開するロイヤルホストは、食材だけでなく割箸・タバコ・制服のクリーニングまでのすべての物流を菱食に完全アウトソーシングした。そのメリットは双方にとって大きい。ロイヤルにとっては、かつて500社以上から品物を仕入れていたが、菱食に一括発注することで大幅な効率化が図られた。在庫スペースも不要になり、省スペースでの新規出店が可能になった。菱食側にとっても取り扱い商品の拡大など大きなビジネスチャンスをもたらした。 業績を順調に伸ばしてきた菱食。しかし売上高経常利益率は1%程度だ。この数字を高いとみるか低いと見るか。廣田会長は「十分健闘している」と自信を覗かせた上で、「食品流通は国民生活のライフライン。合理化できればメリットは消費者サイドに還元するのが第一」との考えを示した。極端に言えば、1%程度でも卸が稼ぐということは、それだけ物流全体から見ればコスト高につながっているとも言えるが、廣田会長は「その1%が上乗せされてでも世の中に必要とされる卸会社であることが大事だ」と強調された。 消費者ニーズが多様化・複雑化する中、消費者が求める商品をいかに的確かつスピーディーに流通させるかが、今後ますます重要になってくる。廣田会長は「卸会社がやるか、メーカー自身がやるかが問題ではなく、消費者起点の卸機能という考え方がこれからは大切だ」と語った。 |