第242回 2005年8月13日放送 飲食店検索サイトの最大手「ぐるなび」がスタートしたのは今から10年前のこと。現社長の久保征一郎氏が当時取締役を務めていた広告代理店の一事業として1996年にスタートし、2000年に株式会社ぐるなびを設立した。2001年から久保氏が社長を務め、2005年にはヘラクレス市場にも上場を果たしている。IT企業の社長というと20才代、30才代の若き経営者をイメージしがちだが、久保社長は今年還暦を迎える。 「ぐるなび」とは、グルメなレストランをナビゲーションしてくれるサイト。登録されている飲食店は全国4万5000店と膨大で、場所、予算、人数、種類、雰囲気などを選択すれば、条件に合った飲食店リストが表示される。もちろん、気になる店の詳しい情報やお勧めメニュー、地図なども見ることができる。無料で利用できることもあって毎月の利用者は約100万人、毎月に閲覧されるページ数は3億8000万ページにも及ぶというから驚きだ。他にも同様の飲食店サイトはあるが、ぐるなびは日本最大級を誇っている。 今や飲食店サイトではすっかり定着したクーポンも、実はぐるなびが始めたもの。広告代理店業界でビジネスを経験した久保社長ならではのアイディアといえる。ぐるなびの人気の秘密は、1軒1軒の飲食店の情報が詳細なことはもちろん、利用者の立場にたった利便性や遊び心も見逃せない。例えば通常の検索以外に、ビジネスマンをターゲットにした「大人のレストランガイド」、有名店の情報を満載した「有名店倶楽部」、上司が接待に使える店を集めた秘書向けのコーナー「こちら秘書室」、さらには宴会やパーティー用の「らくらく幹事さん」など、色々なメニューがあって楽しい。「らくらく幹事さん」を利用すると、適当な店が見つかるまで、メールや電話で無料で何度でも対応してくれるそうだ。 こうしたユニークなアイディアは、毎週開催される企画会議の中から出てくるそうだが、久保社長も毎回必ず参加するそうだ。「消費者は何を求めているのか。ぐるなびらしいサービスとは何かを絶えず模索することが大事だ」と久保社長は言う。 利用者がぐるなびを閲覧しても無料だ。では、会社はどうやって収益を上げているのだろうか? 売上高の大部分は、飲食店から徴収する掲載料や様々な情報提供サービス料である。つまり、加盟店が増えるほど収益が増加するというビジネスモデルである。ぐるなびは利用者の利便性を高めることでサイトの人気を高め、その結果、掲載を希望する飲食店を増やすことで成長を遂げている。 ぐるなびの成功は飲食店業界に大きな変化をもたらしている。かつては店を出す際には立地条件が1にも2にも重要だった。しかし、利用者はぐるなびを利用することで、今まで入りづらかった路地裏の店でも、マンションの3階にあるような店でも、事前に情報を知ることができるため安心して入れるようになった。つまり、飲食店は立地よりも「自分の店のセールスポイントをいかに消費者に知らせるかがポイントの時代」になったのだ。大きな変化だ。 とはいえ、飲食店の人の中にはパソコンに不慣れな方も少なくない。また、どうやって自分の店をアピールすべきかも難しい問題だ。そこで、ぐるなびでは『ぐるなび大学』と名付けた講習会を毎日開催している。パソコンを使った基本的な操作方法から、消費者の好みやパターン、消費トレンドの分析に至るまで、ぐるなびの培ったノウハウを提供している。 まさにインターネット・ビジネスの成功例と言えるぐるなびのビジネスモデルだが、久保社長は「自分たちはIT企業ではない」と言う。「確かにインターネット上で情報を伝えるというITの特徴的な側面はあるが、人と人との距離が近く、アナログ的でリアルな部分に軸足を置いている」と強調した。ぐるなびでは飲食店をサポートする販促プロデューサーを多く育成しており、加盟店の3分の2とコンタクトを取っている。そして「将来は、掲載料だけではなく、飲食店へのコンサルティング業務による収入も得たい」との考えを示した。 日本国内で成功を収めたぐるなびの目は海外にも向けられている。掲載店のうち約1000店舗の情報は、日本語以外に英語・韓国語・中国語に対応している。また日本の店だけでなく世界50都市のレストラン情報の掲載も始めた。ぐるなびは、まだまだ感度鋭く、変化していきそうだ。 |