第241回 2005年8月6日放送
自動車にデジタルカメラ、大画面テレビ・・・。いつ買えばいいのか分からなくなるほど新商品が次から次へと出てくる。こうした新商品に欠かせない企業がアークだ。アークはメーカーが新製品を出す前の試作品を手掛ける企業である。そう、実はメーカーにとって重要な新商品の開発は外部発注されていることが少なくないのだ。その中でもアークは世界的に事業を展開している。
アークの創業者で1985年から会長を務めているのが荒木壽一氏である。「すぐに名前が浮かぶメーカーの試作品はほとんど手掛けている」というほど世界のビッグネームが顧客である。例えばアップルのあのユニークな形のパソコンの試作にもアークは携わっている。
荒木会長自身はもともと木型を作る職人だった。1968年、25歳の若さでアークの前身である大阪デザインモデルセンターを設立し、家電や自動車のパーツなどの試作品作りを手がけるようになった。売上高は1607億円で9期連続の増収。この5年間だけでも売上高は11倍に拡大した。「6年後には売上高2400億円、17倍になる」と荒木会長は自信を覗かせるが、この力強い成長の裏にはアーク独自のビジネスモデルがある。
(1)フルライン開発
アークは世界で唯一、企画デザインから成型までを一貫して行っている。従来、新製品が開発されるまでの過程は複雑で、企画・デザイン、金型の製造、成型といった流れに沿って、多くの企業がかかわっていた。それだけ時間もかかるし、ムダも多い。アークはそれをワンストップで行っている。
(2)技術革新
フルライン開発を支えているのがITである。3次元データや図面を各プロセス間で共有しているため、作業の重複が大幅に軽減されている。さらに担当者どうしが議論し合うことによって新しいアイディアが生まれる効果もある。
(3)積極的なM&A
アークの快進撃の大きな柱の1つがM&Aによるグループ戦略だ。既に120社がグループ入りしたというから驚きだ(2005年8月現在)。もちろん日本企業だけでなく、ドイツ・カナダ・韓国・中国・米国など幅広い。ここで注目されるのは、これらの多くの企業が自らグループ入りを名乗り出たケースが圧倒的に多いということ。例えば韓国企業の場合、最初の3社はアーク側から話を持ちかけたが、それ以降の11社は相手からの申し出だったという。「試作品ビジネスの場合、今までドイツ企業はドイツ国内のみで、カナダ企業はカナダ国内のみで活動することが多かった。しかし、顧客であるメーカーがグローバル展開する中、アークグループに入ることで、一気にグローバルにビジネス展開することができる」と考えているとのこと。
(4)守秘義務
メーカーにとって新製品の開発は最重要機密事項の1つ。しかし、アークは多くの企業の試作品を手掛ける。いわばアーク社内には各社の新製品情報が集まっているわけだ。それだけに守秘義務はアークの生命線。工場見学の禁止は当たり前。各部屋には担当者しか入室できないし情報交換も厳禁。アークの社員であっても、顧客が異なれば何の仕事をしているのか分からないようになっている。荒木会長は「未だかつて一度も顧客情報が漏れたことはない!」と胸を張った。
試作品という分野でグローバル展開を進めているアーク。そのグループ経営は実にユニークだ。確かにM&Aによって傘下企業の経営権はアークが握っているが、実際の経営は各グループ企業にかなり任せている。例えば、買収した会社が「アークからの役員派遣は不要だ」と言えばアークから役員は送らないそうだ。また社名に『アーク』を付けるかどうかについても、各社が付けた方がビジネス上有利だと判断すれば付けるし、特に必要ないと考えているのなら、それまでの社名のままだそうだ。企業にはそれぞれカルチャーがある。そこに必要以上に踏み込まないことで『色々な発想の人がいる、何でもあるアーク』でいられるのだ。
もちろん、各グループ企業が勝手気ままに活動しているわけではない。毎年、世界中のグループ企業が一堂に会する国際会議を開催しており、そこで率直に議論し、情報交換し、互いの工場を見学しているとのこと。そうすることによって自発的に創意工夫する意識が自然と高まるそうだ。また、中小企業の中には後継者不在を心配している所も少なくないが、そうした場合はアークから人材を派遣することもあるし、アークの信用で銀行からの融資を受けることも可能だ。最近、国内でも『敵対的買収』などと言った言葉を耳にするようになったが、アークが行っているM&Aは新しい形のものであり、世界的にも例のない成功例と言えそうだ。
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