第230回 2005年5月21日放送 共稼ぎ夫婦や一人 暮らし、単身赴任をしたことがある人であれば、こんな経験があると思います。特売だからと買い過ぎた野菜を腐らせてしまったり、冷蔵庫の奥で忘れ去られてしまったり。キャベツを一玉買ったけれども食べきれず、毎日キャベツを食べたり・・・。そこに目を付けたのが99円均一の食品スーパー「ショップ99」を経営する九九プラスだ。雑貨も99円。生鮮食品も小分けにして99円で売っている。キャ ベツも切り分け、ひき肉もワンパック90gほどにして99円で売っている。アイテム数はコンビニの約1.5倍の12,000点。生活に必要なものをキュウリから数珠まで売っている。 魅力は安さだけではない。生鮮食料品が小分けされているため、少子化や核家族化が進み、家族の人数が減っている今のライフスタイルには、ちょうど良い量になっているの だ。さらにコンビニと同じ24時間営業。つまり、24時間営業の『コン ビニ』+均一価格の『100円均一』+豊富な品揃えの『スーパーマーケット』= ショップ99なのだ。 そんな良いとこ取りのショップ99は、厳しい競争を繰り広げているスーパー業界の中で 大躍進している。創業時(2000年)の売上高は61億円、店舗数51店だったが、4年後には売上高720億円、店舗数537店と10倍以上に成長した。 このユニークなビジネスモデルを作り上げたのが、九九プラスの深堀高巨社長(49歳)。学生時代に生活費のためにアルバイトをしていた青果店にそのまま入社(1980年)。当時の社長(現在、九九プラス会長)の「将来、スーパーマーケッ トにしたい」という熱い想いに、「型にはまらず、大きなことをしたい」という深堀氏は 感銘を受けたと言う。入社から10年後の1990年に念願のスーパーマーケット『ベスト』 を立ち上げ、多店舗化を進め、年間400億円を稼ぐチェーンにまで二人三脚で成長させた。しか し、その頃はコンビニや100円ショップに人気が集まっていた時期。そんな時、客から「お宅のものは新鮮でいいけれども量が多い」と度々言われるようになる。 それがヒントで、小分けにして量を少なくする販売を思い付いたのだ。今のライフス タイルのど真ん中を射止めた手法だ。 ただ、肉や野菜をいつでも99円で販売するという新しいビジネスモデルを実現するためには、様々なノウハウが隠されている。 (1)農家との年間契約・・・生鮮食品は天候の影響などで市況変動が大きい。価格の不安定は消費者だけでなく生産農家にとっても悩みの種。そこで深堀社長は、収穫された野菜をすべて買 い取るという購買契約を生産農家と結んでいる。これによって九九プラスは一定の価格で年間通して安定的に野菜を調達できる。一方、生産農家にとっても年間の収入を確定出来るメリットがある。さらに、今までなら曲がったキュウリや少し傷が付いた大根など形や大きさが規定に合わないものは生産農家が廃棄していたが、九九プラスでは、それらも全て買い取って漬物に加工して販売している。無駄がなくなり、農家にとっては今まで収入にならなかった野菜までも売れるということで、やはりお互いにメリットがある。 (2)完全アウトソーシング・・・ショップ99の店頭に野菜が並ぶまでの作業は、完全にアウトソーシングされている。野菜の調達から、商品を小分けにパックしたり、漬物に加工する作業までを、卸市場の経験が豊富な仲卸業者がすべて請け負っている。 (3)店舗運営・・・ショップ99の1店舗あたりの1日の来客数は約1200人。コンビニ(約800〜900人)より多い。しかも、スーパーなどで見られるピーク時間帯というものがない。常に人が入っている。朝には出勤前の男性、昼時にはOLや学生、 夕方には主婦やお年寄りが来店する。とかくコンビニは若い人、スー パーは主婦や高齢者といったイメージがあるが、ショップ99はすべての客層を囲み込こんでいるのが大きな特徴だ。特定の客層に限定してない品揃え。すべての客が満足できる品揃えを目指している。 深堀社長は「客の満足に応える。客の声をいち早く聞き入れ、欲しいものを並べて売るのは当然。それが出来るところが成功する」と持論を強調した。販売店にとって、消費者にとって、生産農家にとってのそれぞれのメリットを上手く組み合わせる工夫をしている九九プラスの手法。大手スーパーにはない機動力を発揮できるのは「新規参入だから」と控え目に述べたが、青果点で培われた消費者の声に応えたいという商売人の心と、時代の流れを的確に捉えるという経営者の資質が伺われた。 「ライバルはコンビニ」という深堀社長だが、その大手コンビニが同様のビジネスを開始した。しかし、「自分の身をもって作り上げたやり方は、なかなか真似できるものではない」と深堀社長は強い自信を見せた。今年度は820店以上、売上高も1200億円を超える見込みで、社長の目標である「コンビニ市場の10%を獲得する」という大きな挑戦は続く。 |