第226回 2005年4月23日放送 2005年2月26日、国産ロケットH2A7号機の打ち上げが成功した。2003年11月に6号機の打ち上げに失敗したこともあり、7号機の成功は「涙が出るほど嬉しかった」と語るのが、日本の宇宙研究開発の中心である宇宙航空研究開発機構(JAXA)の立川敬二理事長だ。 JAXAとは、日本の宇宙・航空分野の研究開発を推進してきた宇宙科学研究所、航空技術研究所、宇宙開発事業団(NASDA)の3機関が2003年10月に統合して誕生した機関である。誰もが一度は想いをはせたことがある、夢とロマン溢れる宇宙開発への挑戦を実現しようとしている組織だ。 しかし、現実は夢とロマンだけの世界ではない。立川理事長の前職はNTTドコモの社長。「携帯電話は右肩上がりだったが、宇宙関連予算は右肩下がりだ」と残念がっている。財政改革のもとで、政府の宇宙関連予算は 年々減少している。昨年度は1800億円を割り込んだ。一方、アメリカは2001年度から増加に転じ、昨年度は1兆7000億円。ヨーロッパも日本の約2倍の3400億円だ。 実際、世界各国が打ち上げたロケットの累計数を見ると、トップのロシアは1470機、ついで米国が506機、欧州が164機。しかし日本はわずか49機で、中国の79機よりも少ない。打ち上げ数の少なさは、ロケットを作るうえでのコストにも跳ね返ってくる。打ち上げ回数が少なければ、それだけ部品の値段が割高になる。打ち上げに成功したH2A7号機の費用は約120億円。しかし、世界で既に展開されているロケット・ビジネスで互角に勝負するためには80億円程度にまでコストダウンしなければならない。 もちろん、コストだけでなくインフラの整備の遅れも指摘されている。種子島での打ち上げ日数は年間190日と制限されている。ちなみに、欧州では365日、24時間打ち上げが可能だという。さらに空港も道路も小さいため、大きなロケットを輸送する場合、いったん分解して輸送し、現地で再び組み立てるなどの苦労もある。 このように日本は、世界の宇宙ビジネス競争から大きく遅れをとっているが、そもそも日本人は『鉄腕アトム』や『宇宙船艦ヤマト』などのアニメが人気になるなど大変な宇宙好きで、ロボット開発では世界一の技術を持ち、しかも日本企業は宇宙機器の精密部品にも強い。宇宙ビジネスに十分貢献できるDNAと技術を持っているのだ。 そこで立ち上がったのが中小企業だ。宇宙という最先端ビジネスに彼らの技術力が発揮され、宇宙への憧れも相まって、日本全国で地域の中小企業が集まって宇宙産業に挑戦しようとしている。東大阪で『まいど一号』という名前の小型衛星を打ち上げようとがんばっているのは有名だが、このほかにも同様のプロジェクトが立ち上がっている。 「とにかく連携が宇宙ビジネスには重要」という立川理事長。それもそのはず、ロケットに使われている部品は38万個。1社だけでやれる仕事ではない。そこで JAXAは、宇宙部品に関する認定制度を整え、中小企業の参加を促している。日本の人工衛星に使用される部品の国産化率は、一時70%だったが、現在では30%にまで低下している。もちろん、安くて良いものは海外製品を使用した方がコストダウンを図れるが、中小企業であっても優れた技術は積極的に採用することで、宇宙産業の裾野を広げていくことが大切になっている。 「まだまだ生かされていない日本の最先端技術はたくさんある」と立川理事長 は語る。確かに宇宙ビジネスは壮大な分だけ時間も資金もかかる。しかし、宇宙に夢とロマンを感じるのは万国共通。次世代のためにも、世界平和のためにも、日本の技術を発揮する場としても、見逃してはならない重要分野ではないだろうか。 |