第225回 2005年4月16日放送 社会に出てから、「あれ?学校で学んだことと全然違う」と感じたことはないだろうか。まさに、このギャップを埋めるべく画期的なプログラムがアメリカからやって来た。STUDENT COMPANY PROGRAM(略称SCP)という体験型の経済教育プログラムだ。本から学び、試験のために暗記するだけの教育ではなく、実際に資本金1万円で会社を作り、16週間という限られた 期間で利益を出すという、会社経営を実際に体験する本格的な学習方法だ。 主催しているのは世界最大の経済教育団体であるJA=ジュニア・アチーブメン ト(民間・非営利)。アメリカで1919年に設立された歴史のあるこの団体のプロ グラムは、アメリカ国内だけでも200都市で行われ、小学生から高校生まで、内容も市役所の仕組みの体験、警察の仕組みの体験、税金の仕組みなど何十通りとある 実体験プログラムを勉強している。現在、世界120カ国に広がっており、企業4万社が経済的・人的に支援し、学んでいる生徒は世界中で400万人にものぼる。 日本本部が設立されたのは1995年。参加企業は60社で、徐々に認知度が高まってきているところだ。高校生を中心に活動している。このJA日本本部の理事長を務めているのが日本IBM最高顧問の椎名武雄氏だ。ご自身も「すばらしいプログラムだ」と絶賛するSCPとは一体どのようなものなのだろうか。今年、SCPに取り組んだ京都の立命館高校の授業の様子を見てみる。 - 役員・部長の選出・・・まず社長、生産部長、経理部長、人事部長を選出。高校2年生の女子生徒が社長に就任した。
- 資本金の調達・・・資本金は1万円。1株100円の株券を100株販売する。一人に複数株を販売することが出来ない。親や教師に株主になってもらう場合も、事業内容を説明し、納得してもらうのが大前提。
- 社名の決定・・・社名の決定は重要事項だが、最近の子供たちは波風が立つのを恐れるのか、1ヶ月経っても決められなかった。ようやく社員20名が1つになることを願い社名は『一丸』 に決定。製造・販売する商品も、クリスマスシーズンを狙って、手作りのロウソクになった。いよいよ会社が動き出す。
- 生産開始・・・授業時間だけでは足りず、昼休みや放課後も「残業」しないと間に合わない。しかし「残業」を拒否 する社員が続出。さらにキャンドル作りをしていた理科実験室をロウで汚してしまい、教師から「滑り易くて危険な状態にした」との理由で損害賠償請求を受けてしまう。請求額は何と1万5000円!。資本金の1.5倍だ。生産計画も大きくずれ込んだ上に予想外の出費。社員は寒い冬空の下で、黙々とキャンドル作りに励む。学生たちは厳しい実社会の一面を感じ取ったようだ。
- 販売戦略・・・営業部員は地元商店街に特設販売店の設置許可を求めに足を運ぶ。しかし、「製品としての作りが雑だ」「1個500円は高い」などと厳しい指摘を受けてしまう。もちろん、指摘された点は生産部員に伝え、直ちに改良。『客の声』の重要さを認識した瞬間だ。
- 販売開始・・・中間決算まで50個売らないと会社は倒産。そんな心配をよそに、結果は大盛況!社長の顔にも初めて満面の笑みが・・。そして迎えた中間決算では、社長から社員に、働きぶりに応じて400円から1050円までの給料が手渡された。努力が形になった喜びを実感する。
- 事業の継続・・・予想以上の売れ行きに生産が追いつかない。「残業」する人の数も増え、高校生たちの顔つ きも凛々しく変化している。社名通り一丸となっていく。
- 決算集計・・・16週間のプログラムが終了。最終的に売上高は18万3,745円、純利益6万3,664円。1株100円に対して配当300円を支払うことができた。さまざまな困難を乗り越えて得られた成果だ。利益の中から学校に1万円を寄付。小さな社会貢献も果たした。
- 株主総会・・・締め括りは、椎名武雄・JA理事長など大企業の経営者を前にしての事業報告。もちろん、実際に損益計算書やバランスシートを作成し、分かり易く簡潔に説明しなければならない。極度の緊張感・・・。しかし、これも通常の授業では出来ない貴重な経験だ。
以上が今年SCPに参加した京都・立命館高校の取り組み状況だが、そこには試験のための丸暗記などない。模範解答もない。自ら体験することで、自ら考え、自ら問題を解決していく体験型学習だ。教育改革が叫ばれる中、ゆとり教育か、詰め込み教育か、といった議論は多いが、こうした体験型学習が日本でも広がることが大切だと実感した。 |