第219回 2005年3月5日放送
オーストラリア人が大挙し訪れる小さな町が日本にある。右を向いても左を向いてもオーストラリア人。居酒屋に入ればオーストラリア人が魚のホッケを突っついている。露天風呂でもビールを片手に楽しそうなオーストラリア人が入っている。ここは東京・六本木でも古都・京都でもない。日本有数のスキー場『ニセコ』がある北海道・倶知安町だ。
人口1万6000人の小さなこの町は、バブル時にはスキー・ブームで日本中から若者が集まってきたが、バブルが崩壊してスキー人口がすっかり減ってしまったため、潰れてしまうペンションや店が相次いだ。
それが、ここ1、2年の間で倶知安町にやってくるオーストラリア人が急増し始めている。その数は毎年、2倍ずつ増えており今年は6000人の見込みだ。来年度の予約もすでに入り始めているそうだ。そして彼らの平均滞在日数は日本人よりも長めの10日間なので、延べ人数で言うと約6万人! 1人平均して1日に1万円使うと計算すると、6万人×1万円=6億円という大きな経済効果。スキー場周辺の店も「オーストラリア人のいない商売は考えられない」というほど地元への波及効果は大きいのだ。
もちろんオーストラリアにもスキー場はある。しかし、雪質があまり良くないため、多くのスキー好きはヨーロッパやカナダに行っていた。しかし、やはり地理的に遠く費用もかかる。そこで彼らの目にとまったのが倶知安町のニセコスキー場というわけ。去年から、オーストラリアのケアンズから千歳空港への直行便も週2便出ているため移動にも時間がかからない(7時間)。時差もほとんどない。リフト代が安い。食べ物もおいしいし、北海道の人の人柄もいい。なかでも一番の魅力が、彼らが「世界一!」と絶賛するパウダー・スノーの雪質だ。
さらに驚くことに、このオーストラリア人のニセコ人気は誰かが仕掛けたものではなく、口伝えで噂が広がったものだという。倶知安町の伊藤弘町長は「町としてやることは、千歳空港からの移動時間を短縮したり、バスなどの公共機関に英語標識もつけるなどのインフラ整備などだけ。あとは自然に始まったことだから、行政として特に何か言おうとは思っていない。言わないからこそ自然な街づくりができる」と、地元住民の自主性を尊重する考えだ。その言葉通り、町の人々は自主的に活動している。飲食店では英語のメニューを作成したり、英語の話せるス タッフを採用するなどの対応を取っている。居酒屋にオーストラリア産のワインを用意しているところや、職員に英会話を勉強させている病院も出てきた。
このオーストラリア人の人気を支えているもう1つの大きな力が、倶知安町に長年住みついているオーストラリア人の存在である。彼らはスキー場の近くに事務所を構え、オーストラリア観光客に、ニセコの魅力だけでなく、日本でのマナーについても教えている (例えば、浴槽に入る前に体を洗うなど)。こういった活動もオーストラリア観光客がスムーズに日本社会に溶け込め、町の人々も暖かく彼らを迎え入れるという体制の整備に一役を買っている。伊藤町長も「彼らの力なくして、今のオーストラリア人の人気はなかった」と彼らの活動を重要視している。
オーストラリア人による突然の人気ぶりは、倶知安町周辺の不動産価格を加熱させている。今ではバブル時と同じくらいまで値上がりしているそうだ。去年、35か所のペン ションをオーストラリア人が買ったそうだ。売り出していない物件でも、売ってくれない かと訪ねに来るオーストラリア人が少なくないとのこと。そんな中でも、最大の投資は昨年二セコにある4つのスキー場のうち東急不動産が160億円をかけて開発した花園スキー場を3億円で買収したオーストラリア資本の日本ハーモニーリゾートによるもの。
この会社のドナザン会長も「今、ここは不動産の買い時。まさにゴールドラッシュだ」と鼻息が荒い。しかし、だからといって買収したスキー 場を日本流にする気はない。「日本のスキーリゾートのモデルは大型ホテル。しかし大型ホテルは建設費かかかるだけでなく、スキー以外の楽しみがない。我々が考 えているのは1つの街づくり。コーヒーショップがあったり、映画館があったり、それぞれのニーズに合わせた小さな宿泊施設を点在させるなど滞在型のリゾート開発を目指している」とのこと。
「この花園スキー場の成功がニセコの人気を一過性ではなく、定着させる大きな鍵を握っている」と見ている伊藤町長の夢は、倶知安町を本物の国際的な 町にすること。「そのためにはオーストラリア人だけでなくアジアの人々にもぜひ来てもらいたい」と夢は大きい。スローライフ、スローフードの次はスローリゾートラ イフなのだ。
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