ゲスト一覧

第217回 2005年2月19日放送ソフトブレーン 宋文洲会長

若手起業家は数多くあれども、ソフトブレーンを設立した宋文州会長(41歳)ほど数奇な運命を経験した人は少ないだろう。まるで山崎豊子の小説のようだ。

1949年の中華人民共和国の建国で、実業家だった父の財産は没収された上に弾圧された。宋氏は1963年に中国山東省で兄弟の6番目として生まれ、3年後の1966年からの文化大革命で弾圧は激化、難を逃れるため家族はバラバラになった。宋氏は姉の嫁ぎ先の新疆ウイグル自治区に、そのほかの家族は北朝鮮国境付近に移住。汽車で1週間も離れた場所に分かれたのだ。

しかし、次第に時代は好転。文化大革命が終わりトウ小平が復活すると、皆が平等にチャンスを受ける時代が始まったのだ。宋氏はさっそく勉強を始める。宋氏は「日本のように、人と同じチャンスがある国の人にはわからないと思うが、私のような境遇にいた者にとって、チャンスはとても有難いもの。勉強できることが楽しくてしょうがなかった。」と当時を振り返った。

宋氏の初めの夢は文学を学び、文化人になることだった。しかし高校の先生から「これからの中国は技術がなければ生きていけない」といわれ、中国・東北大学の鉱山学部に進学。そして1985年、200人中13人という難関を突破して国費留学の権利を得た。当時の中国で外国にいけるのは外交官ぐらいだった時代。「39人の農民の年収を1人の留学生に使うのだ」と言われるくらい大変なことだった。留学先は国が振り分け、宋氏は日本に行くことになる。さて、どの大学に行こうか?悩んだ宋氏は日本の大学一覧リストの一番上の大学が一番よいと思い込み、北海道大学大学院に決めた。(後日、そのリストは単に北から南の順に書かれたものだと知る)

北海道大学大学院に進学した当時、日中関係は良好で中国人にとって日本のイメージは良かったという。日本の地を踏んだ時もその気持ちに変わりはなく、とても居心地がよかった。そして中国に帰国する時が来たが、ちょうど中国で天安門事件が勃発。中国に戻れば、また文化大革命の時のようになるのではないかと危惧し、帰国を断念。日本で就職するものの、その会社は1年目で不渡りを出して倒産。そこで宋氏は大学院時代に作った研究用の土木解析ソフトを販売してみたところ、これが実によく売れた。

ビジネスの面白さに目覚めた宋氏は、今度は日本の営業マンの無駄の多さに驚き、営業支援ソフト「イーセールス・マネージャー」を開発。1992年、宋氏28歳の時に『ソフトブレーン』を興す。業績は伸び、2000年に東証マザーズ上場、2004年に東証二部に市場変更し、今では従業員235人、売り上げ21億9000万円、経常利益7億5000万円(2004年12月期)まで急成長を遂げている。

それでは、日本の営業のどこが無駄だと宋氏は感じたのだろうか?リストラ、選択と集中などでブルーカラーは雑巾の水が一滴も出ないほど効率化を迫られてきた。しかし、「ホワイトカラーは雑巾を絞るどころか、水をかけているくらい無駄が多い」。例えば名刺。名刺を交換しても、その名刺はもらった本人が個人的に整理することが多い。しかし名刺をもらえるのは会社の名前があるからだ。ということは、名刺は会社の財産であり、組織で管理しなければいけないと宋氏は考えている。

ソフトブレーンの営業支援ソフトは、こうした名刺の情報の管理から、営業マンが出先から携帯電話などを使ってデータを入力することによって、営業の進捗状況を上司に伝え、上司がその都度、適切な指示を与えることができるという仕組み。営業活動を、まるで工場のように、一つ一つのプロセス管理していくことができる。

このように効率よく営業を進めることによって、同じ人に同じ話をしてしまったり、判断する権限のない人に熱心に交渉するなどの無駄が減る。「役割分担のプロセスが分からない仕事をやることは、見えないまま頑張っていることと同じ。だから接待に走ってしまう」と。

また宋氏は、日本の営業のスローガンにも「おかしい!」と思うことが多い。

(1)『営業は根性と人柄だ』・・・根性と人柄は営業する以前に、人として生きていくために必要なもの。敢えて『営業』とつけているということは、そのほかには何もないといっているのと同じ!

(2)『結果が全て』・・・部下には結果が全てだといいながら、結果が悪くても上司である部長の給料は変わらない。ということは、部下に「お前がやって俺はやらない」といっており、マネージメントしていないことと同じ。

(3)『お客様は神様』・・・顧客に提案するのが営業の仕事だが、相手が完璧な神様なら何も提案することはできないはず(笑い)。

(4)『営業は売れてなんぼ』・・・お客様は神様と言いながらも、その神様に売りつけるというのか?これは顧客主義ではなく、自己主義なだけ。作った在庫を処分したいだけだ。

要するに宋氏は、「営業は売る力ではなく、顧客を知る力。顧客を知り尽くしていれば営業は半分終わったのと同じだ」と考えているのだ。

こうした科学的アプローチによる営業支援ソフトを採用している大手企業は既に700社を超えている。去年、始めた中小企業向けのソフトの採用社数も3か月間で200社を超えた。ホワイトカラー改革が今の日本企業の大きな課題になっている証拠だろう。

語録 〜印象に残ったひと言〜
  • 個人ではなく会社の名前で名刺交換している。だから名刺は会社の財産だ。
  • 営業は売る力ではなく顧客を知る力。顧客を知り尽くせば営業の半分は終わっている。
  • 戦略とは戦いを省略すると言うこと。残業することがエライわけではない。
  • ブルーカラーの雑巾は絞りつくした。しかし、ホワイトカラーは雑巾に水をかけている。
亜希のゲスト拝見

緊張するとつい腕を組んでしまう宋さん。たいへん家族思いの方で、番組前日も奥様とディナーを楽しまれたそうですね。営業の無駄を解消するソフトを開発しているだけあって、会社は6時には退社し自宅に家に帰られるそうです。

宋さんの印象は、とにかく明るい人。大変な半生を送られたなど微塵も感じられない。また対談中ずっとメモを取っていたのも印象的でした。まるで一瞬一瞬を無駄にしたくないような姿勢に見えました。

今回のお話で感じたのは、「私は井の中の蛙だな」ということ。日本の営業マンは腕をまくり、残業をしながら頑張っているものと思っていましたが、指摘されると確かに無駄がある・・・。私も名刺は自分で管理しています。ホワイトカラーはプライドが高く、変わりにくいと言われますが、このままではいけない!

こういった視点を持てるのも中国人の立場から大きく日本を見る力があること。そして、与えられたチャンスを大事にするハングリー精神があるからこそではないでしょうか。

もうすぐゴールデンウィーク。海外に行かれる方も多いと思いますが、観光ガイドとカメラのファインダーばかり見るのでなく、外から日本を見る力を養ってみてはいかがでしょうか?