第214回 2005年1月29日放送
値段が高くても、安全で美味しいものを食べたいという人が増えている。それでは『きなこ豚』をご存知であろうか?きなこを主体にブレンドした特製の餌で飼育された豚だ。この豚肉は甘くて柔らかく、人気商品になっている。この「きなこ豚」を開発したのが、宮崎県・都城市の農業生産法人「はざま」である。この「きなこ豚」を原動力に、今や従業員190人、年商55億円を誇るまでに成長し、国内農業の先駆者として脚光を浴びている。
間和輝社長は、22歳の時に家業を継ぎ、母豚5匹からスタートした。「常識を打ち破る異端児」ぶりでドンドン規模を拡大させ、現在では豚7000万頭、牛6500頭という日本最大規模の農業生産法人となっている。日本の豚業者1戸あたりの平均値が、豚1695匹、牛29.7頭であることからみても、その規模の大きさが分かる。都城市・霧島連山の麓に広がる牧場の広さは260haと、アメリカの平均敷地面積(178ha)よりも広大だ。間社長は「自然と大きくなった」というが、成功の秘密は何なのだろう?
間社長は「豚様・牛様に奉仕することで、最高の豚と牛の能力を引き出すことができる」という不思議な表現をされるが、例えば、豚舎や牛舎の温度を豚と牛にとって最も快適なものに設定すれば、暑さを嫌らう豚は体温を下げるために糞尿の中で転ばなくなるので、清潔さが保たれるというそうだ。実際、はざまの豚舎も牛舎も臭くないのだ。「豚様・牛様への奉仕の気持ちは人間に恩返しをしてくれる」とも語った。
もちろん、大規模経営になると様々な合理化や効率化、環境への配慮が必要になってくる。
(1)まず餌に関してだが、間社長は「日本はどうして別の飼料会社から餌を買うのだろうか。欧州のように自分たちで作ればいいのに」と、かねてより疑問を抱いており、自ら飼料工場を作ってしまった。栄養を計算した安全な餌を自社生産している。上質なきなこをブレンドした「きなこ豚」の餌はもちろん、子豚用や母豚用、さらに季節に合わせて調整するという徹底ぶり。何事も「あなた任せではいけない」と強調する。しかも栄養価が高い餌なので、通常1日4〜5回餌をやるところを1日1回で済む。その結果、人件費も餌代も削減できる仕組みだ。しかも、通常は餌を籠で与えるが、トラクターを導入して一気に済ませるため、スピードは数十〜数百倍になったという。
(2)子供の数を増やすことは極めて重要だ。はざまでは、豚は人工授精で繁殖させ計画的に出産させている。この技術の導入で2004年度の「きなこ豚」の出荷量は前年比50%増の15万頭を見込んでいる。また、1年に1回しか出産しない肉牛は、仔牛を母親から3日で離してしまうことによって(通常、3週間は一緒)、母親の発情が早まり、結果的に出産と出産との間隔が通常の380日から354日まで短縮させることに成功している。
(3)畜産業で最も悩むのが排泄物の処理である。実は豚の排泄量は人間の10倍に相当。処理に困って川に流したり地中に埋めてしまうなどの悪質なケースが最近問題になっている。これに対して間社長は、4つの肥料工場を整備して牛と豚のフンを有機肥料に変えている。その量は年間2万3500トン。この肥料を使うと、ごぼうの多毛作が可能になるなど近隣の農家からも評判だそうだ。最近では中国からも依頼が来るとのこと。もちろん、汚水処理にも巨額を投じて、金魚が泳げるほどの処理能力を持った設備を備えている。
はざまでは、今、ちょっとした結婚ブーム、出産ブームが起きている。若者の農業離れが叫ばれて久しいが、毎年、はざまには「ぜひ働きたい」とやる気のある若者が全国から集まって来る。もちろん、物価が安いとか住みやすいといった理由もあるのだろうが、職場は清潔だし、週40時間労働制も守られているなど、まるで会社勤務と同じ感覚で就職を希望してくる。社員の平均年齢は42歳だが、20代以下の若者が新卒入社予定者9名も含めて56人もいる。大部分が農業未経験者だが、「その方が意外な発見や発想ができる」と間社長は期待を寄せる。
これまでは「豚様」・「牛様」に感謝しつつ頑張ってきたが、今後は「人間様」にも安全で美味しい食品をどう届けるかを考えなければならない。そのためには販売にも一段と力を入れて行きたい」と、間社長は目を輝かせながら語った。
|