第213回 2005年1月22日放送 日本に製紙工場が誕生して130年余り。日本の近代化とともに歩んできた業界だ。「紙は文化のバロメーター」とも言われ、GDPに連動して紙の生産量も増加し続けてきた。最初の活況に沸いたのは1950年代前半の朝鮮特需。三白景気(セメント、砂糖、紙)とも言われ、紙も飛ぶように売れた。その後、2度のオイルショック切り抜け、バブル期に最高潮に達する。この頃から広告や雑誌のカラー化が進み、表面をコーティングした塗工紙などの高付加価値紙の需要が拡大。しかし、バブル崩壊で製紙業界にも再編の嵐が吹き荒れ、1990年代には大手10社あった製紙メーカーも、『日本製紙』と『王子製紙』の二つの巨大グループに集約されている。 この再編・合併を2度経験したのが、日本製紙グループ本社の三好孝彦社長だ。三好社長は当時を振り返り、「好景気のときに需要を上回る設備投資を行い、バブルが崩壊してからはその過剰設備が残ってしまった」と分析する。だからこそ、2002年に大昭和製紙と経営統合した最大の理由を「こういった過剰設備や人材の整理するため」と位置づけていた。三好社長は整理・合理化を今年中(2005年)に完了する考えだ。しかし、製紙メーカーの再編がこれで完了したとも見ていない。「日本製紙と王子製紙をあわせての国内シェアは半分ちょっと。3番手以下も頑張っているし、海外からの輸入モノも増えてきた。決して安泰とは言えない」。 製紙業界は成熟産業だと言われるが、紙のニーズは変化してきている。IT化が進み、電話帳・百科事典・辞書などがかつてのように利用されなくなっている。その反面、DVDレコーダーや液晶テレビなどハイテク家電の登場で、取扱説明書がドンドン分厚くなったり、通信販売用の雑誌も人気があり、こうした分野ではますます紙が多く使われるようになっている。「紙はなくなるところもあるが、増えるところもある。増える部分をどう増やすかが勝負」なのだ。 時代の変化に対応して、日本製紙では『新しい紙』の開発も行っている。その1つが『嵩高紙』。繊維を減らし、空気を入れ、従来の紙と比べて軽さと厚みを実現させた。その結果、ページ数の少ない本でも2割ほど厚みが増すことになる。去年の単行本ベストセラー20冊のうち半分がこの嵩高紙を採用している。出版全体で見ても3分の1が既に嵩高紙だという。この嵩高紙の売上は毎年1.5倍ずつ拡大している。その他にも、様々な形にできる『伸びる紙』、屋外のポスターや店のメニューに利用できる『水をはじく紙』、カラー印刷が増えてきた新聞紙に対応した薄く・白く・裏に透き通らない『白い新聞紙』などという新しい紙の開発が進んでいる。 三好社長が「次のステップ」と位置づけているのが『グローバル展開』である。国内の製紙メーカーの競争があまりにも激しいため、海外企業が日本市場は儲からないということで参入してこなかったが、グローバルにみると、海外の製紙メーカーは日本メーカーとは桁違いに規模が大きい。そして海外企業の特徴は既にグローバル展開をしていること。しかも1位のインターナショナルペーパー社はアメリカとヨーロッパの企業の合併、2位のストラ・エンソ社はフィンランドとスウェーデンの合併など、国境を越え合併が当たり前となっている。こうした中で日本製紙が世界のトップグループに入るためには積極的な海外展開が不可欠なのである。 三好社長が注目しているのは中国。まだ1人当たりの消費量は日本の7分の1と少ないが、今後は2倍、3倍と増えると予測している。しかし、中国はカントリーリスクもあり、実際にビジネスをするうえでの障壁も大きいのも事実。そこで、当面は日本で余った設備を導入するなどしてローリスク・ハイリターンを狙っていきたいと慎重な姿勢を見せた。 |