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第212回 2005年1月15日放送東成エレクトロビーム 上野保社長

世界中の自動車メーカーが技術を競い合うF1レース。宇宙の情報をもたらしてくれる人工衛星。はたまた米軍の戦闘機も東京都西多摩郡にある某企業の部品がなければ動かない。その企業は従業員数が僅か86人という中小企業だ。しかし、この会社には、連日、大企業の人々が頭を下げて仕事を依頼しにくるという。『大手企業の下請け』という中小企業の常識では考えられないことが起こっている。

その企業の名は東成エレクトロビーム。電子ビーム溶接やレーザー加工を行っている会社だ。この会社の技術を使うとステンレスと銅など融点が異なる金属も見事に溶接することが可能だ。そもそも、この電子ビーム溶接を「他のやり方では出来ない!スゴイ技術だ!」と注目したのが上野保社長。大学を卒業して入社した富士自動車(現在の小松ゼノア)で電子ビームに携わっていた時だった。そして1977年、38歳の時に家族の反対を押し切って東成エレクトロビームを設立した。現在、取引先は2500社。大企業が名を連ねているほか、毎年100社ずつ取引先が増えている。

東成エレクトロビームが成功を収めている最大の要因は独自のビジネスモデルを構築したこと。自動車メーカーや電機メーカーは、新商品を開発する際に試作品を作るが、これらの試作品を作るうえで必要な最新加工機は1台1億円以上もする高価なもの。仮に完成品メーカーが必要な可能装置を導入しても、もし試作品が失敗したり、計画が変更されれば、まったくのムダになってしまう。それならばということで東成エレクトロビームは、世界のどこにもない最新型加工機の1号機を導入し、その装置を使って完成品メーカーの試作品の加工を請け負うという仕組みだ。最新型1号機をずらりと並べた東成エレクトロビームの工場には、毎日、試作を依頼する大手企業の開発担当者が訪れることになる。黙っていても客がやって来る・・・まさに画期的なビジネスモデルである。

ただ、東成エレクトロビームへの依頼が相次ぐのには、別の要因もある。以前は大手メーカーが自ら加工作業を行っていた。しかし、時代の流れとともに大手企業の中では分社化が進み、技術情報を把握している人材が減ってしまったのだ。そこで匠の技を持ち、長年の加工のノウハウを持つ東成エレクトロビームは大手企業にとって重要な存在となっているのである。

ユニークなビジネスモデルを構築し成功を収めている上野社長が、今、最も力を入れているのが『中小企業どうしの連携』だ。かつての中小企業は、大企業を頂点としたピラミッド構造の底部に位置づけられ、厳しい系列で縛られていた。しかし、時代は変わり、系列も崩壊したことが、「中小企業にとって大きなチャンスだ」と上野社長は強調する。優れた技術を有する中小企業は多い。それらが連携すれば大きな仕事ができるのではないかと考えたのだ。様々な技術の中小企業が連携することで、大手メーカーからバラバラに受注していた仕事を一括して請けることができる。一括して請け負うことで、中小企業連合が主体性を発揮することもできるし、これまで単独では避けてきた高度な仕事にもチャレンジする機運が高まるという。

上野社長は、そうした中小企業どうしの連携のコーディネート役を果たしているが、「世の中が変わっている今、中小企業は大手メーカーとの関係を『系列』から『対等な立場』に変えていかなければ勝ち残っていけない」と強調した。最後に上野社長は、「中小企業どうしが対等の立場で協力し合えば、もっと大きなことや、付加価値のもっと高い物も作れる。中小企業が集まれば大きな力になる。日本の中小企業はしっかりやっていける」と中小企業経営者にエールを送った。

語録 〜印象に残ったひと言〜
  • 自然と客が集まってくる仕組みづくり
  • 中小企業は大手メーカーの『下請け』ではなく『パートナー』である
  • 中小企業が集まれば大きな力になる
  • 変化の予兆をつかめ
  • 日本の中小企業よ、元気を出せ!
亜希のゲスト拝見

「会社を設立する時は家族に反対され、中小企業どうしの連携をしたいと言ったら従業員に反対された。私は反対されると燃えるタイプです」とおっしゃっていた上野社長は、周りの人に元気と勇気を与えてくれる力を持っている方です。講演は年間50回以上、1日20社が来客するという超多忙な人物でもあります。このバイタリティーは「中小企業を元気にしたい」という熱い想いから来ているようです。

会社の応接間には、大企業からの感謝状が所狭しと並べられています。中小企業と大企業の関係が逆転しつつあるのかもしれませんね。