第211回 2005年1月8日放送 2005年の世界経済はどうなるのか。とりわけアメリカ、中国の動向は?日米経済協議会長も努める東芝の西室泰三会長に伺いました。 《アメリカ経済》 今年はブッシュ政権の2期目がスタートする。しかし、アメリカにとっては「双子の赤字」など課題も山積している。特にイラク問題では、世界から距離を置かれつつある。この状況をアメリカ人は「政策としてどう打ち出すのかという大きな声は聞かれないが、プライベートで話をすると、嫌われていることを認識はしている」。 日米財界人会議などでは、アメリカの財界人の空気も変わってきているという。「かつてのようにアメリカ中心ではなく、お互いが協調していかなければ生き残れないことに気づきつつある。例えば、今までアメリカ側が協議を拒否していた環境問題でも、今では話し合えるようになってきた」と。またユーロが強くなったり、アメリカを除いたアジアどうしの動きを警戒しているのだが、だからといって、そうした国々を無視した政策は出来ないことも自覚し始めている。 「日米関係も大きく変化している」。なんといっても、日米合わせると世界のGDPの47%も占める。そのことからもアメリカは日本を「重要なパートナーとして再認識し始めている」。アメリカの財界人にとっても、グローバルな視点でのビジネス展開が当前になってきている。 《中国経済》 世界経済を語るうえで欠くことのできない存在にまで成長した中国。去年12月、中国のパソコン最大手のレノボ・グループがアメリカIBM社のパソコン事業を買収すると発表した。これは中国が世界に進出する姿勢を見せたシンボリックな出来事だった。また中国はEUに接近したり、FTA(自由貿易協定)にも積極的だ。こうした動きは「主権国家が強くなれば、世界でどうやって生きていくのか考えることは当前。日本がやっていないのは当前のことをやっていないだけ」。そして「中国による外国企業の買収は今後も出てくる。それが自然の流れだから」。 実は、これまでの日米財界人会議では日米の話題がメインだったが、去年、初めて『中国』が議題になった。その理由は中国について議論せざるを得なくなってきていることと、中国との利害関係が日米ともに同じものが多いからだ。大事なのは、日米、そして中国との協調体制を確立することだ。 《日本経済》 小泉首相は年頭会見で「郵政三事業民営化を成立させる」と言った。しかし西室氏は「小泉さんにとって郵政民営化はご趣味ですから」と前置きした上で、「今、日本が最も必要としている改革は日本の社会保障制度とそれを巡る財政と税制の見直しだ。そして国と地方の関係の見直し。国民の幸福をどう作るかが一番大事だ」と語った。 また、ご自身の経験からも「日本の企業は辛い時期にリストラや選択と集中を推し進めてきたが、技術開発のための研究費を削らなかった。これは世界から見ても稀有な状態。日本政府もそれくらいの覚悟で構造改革に取り組んでもらいたい」と。西室氏は、今の政府の取り組みを「slowly」だと表現した。 では、日本が中長期的に勝ち組に入り続けるためには何が必要なのか。「競争力をつける上でもっとも大切なのが研究開発投資。パソコンはアメリカ主導のものになっているが、これからは協調し合っていく時代になる。その時に最も必要となるのが研究開発による技術だからだ」。そのためにも日米間の安全保障に傾きすぎた政策ではなく、ASEAN+3の経済連携を構築し、日米の経済協調をしっかり作っておかなければ、時代から取り残されてしまうと危惧している。 《2005年のキーワード》 『変化への対応』・・・今年は為替や中東情勢の不透明感など不安定要素を多く抱えている。だから変わることを前提に考えなければいけない年となるだろう。将来、日本が世界のどのような位置づけになるのかを描きながら足場を固めていく時である。 |