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第210回 2004年12月25日放送一橋大学大学院 竹内弘高教授

2001年にスタートしたポーター賞。その名の通り、競争戦略論の世界的な権威であるハーバード大学のマイケル・ポーター教授が、戦略性に優れた日本企業を表彰する制度だ。選考基準は、(1)優れた収益性、(2)他社と異なる独自性、(3)一貫した戦略、(4)戦略を支えるイノベーションが行われている、ことである。

第1回の受賞企業はマブチモーター、松井証券、HOYAビジョンケアカンパニー、キャノンレンズ事業部の2社2事業、第2回はアスクル、武田薬品、オリックス一般ファイナンス事業の2社1事業、第3回はセブンイレブン・ジャパン、駿河銀行、シマノバイシクル・コンポーネンツ事業部、トレンドマイクロの3社1事業が見事に受賞に輝いた。

そして今年、受賞した『フェニックス電機』と『大同生命』は、どのような戦略性が高く評価されたのか、ポーター賞を主催している一橋大学大学院国際企業戦略研究科長の竹内弘高教授に聞いた。

《フェニックス電機》
本社は兵庫県姫路市。売上高65億円の中小企業

  1. 大胆な変革・・・もともと車などに使われるハロゲンランプを生産していたが、事業が傾いて1995年に倒産。その後、需要拡大が見込めるプロジェクターや大型テレビ用の特殊ランプに特化するという全く違う分野に挑戦した。
  2. 小さいから小回りが利く・・・大手ランプメーカーは標準品の大量生産にとどまっているが、フェニックス電機は設計の初期段階からプロジェクターメーカーと共同開発し、高性能で様々な形や性能のオーダーメードランプを製造。高い信頼を勝ち得ている。
  3. 大手の出来ないことをする・・・中国の提携先と自社工場が並行して作業を行うため、多品種少量生産でありながらも、低価格かつ10日という短納期を実現した(通常は3か月程度かかる)。しかも、中国工場に徹底した指導を行い、製品に対しては最終的にフェニックス電機が保証することによって高品質を保っている。
  4. 竹内教授の総合評価・・・高付加価値商品と信用にかかることは自社でやり、アッセンブリーは海外で行うビジネスモデルだが、保証や教育は徹底して行うという模範的な戦略である。

《大同生命》
総資産で業界8位の中堅生命保険会社

  1. 我が道を行く・・・他の生命保険会社が一般個人向けの競争をしている中、1970年代から一貫して中小企業にターゲットを絞ってきた大同生命。大企業と違って中小企業の多くは経営者の存在が極めて大きいので、経営者に万が一のことが起こると、その会社に大きなダメージを与えかねない。そこで大同生命は、保険契約者は会社で、社長が死亡した時の保険金が会社に入るという仕組みの商品を提供してきている。現在、個人の定期保険分野で大同生命はトップ・シェアを誇っている。
  2. いち早く中小企業のニーズに応える・・・日本では98%が中小企業。それぞれの企業が様々な事情を抱えている。そこで企業の成長期や低迷期など、その時々の企業状態に合わせて保険商品の設計を変えることも行っている。100歳までの超長期定期保険というものもある。100歳以前になくなった場合、差額が返ってくるという商品。ほとんどの人が100歳まで生きていることはないので、差額は高い確率で返ってくるのだ。また。独自のソフトを開発し、インターネットを通じて貸し付するなどのサービスも提供している。
  3. ユニークな販売体制・・・中小企業の財務内容を熟知している公認会計士や税理士、提携団体を保険の募集代理店にしている。付加価値のある経営指導を行ったり、企業にとっても最適な保険をアドバイスしてもらえるなど『ウィン・ウィン』の関係を構築。
  4. 竹内教授の総合評価・・・顧客企業は38万社超。実に中小企業5社のうち1社が大同生命に加入している。しかも日本のほとんどの企業は中小企業であり、これらに特化する戦略は、他社と違って極めてユニークだ。

それでは、マイケル・ポーター教授は、今年の『ポーター賞』を通じて、現在の日本経済をどのように見ているのだろうか?

「成功するためには、人のモノマネではなく革新性を持たなければならないという戦略的思考を身につけ始めている日本企業が増えている。また中国に対する日本の恐怖感は、日本にとってプラスに作用していると思う。中国が低価格品で攻勢をかける一方、日本企業は対抗するために技術と戦略を重視するようになったからだ。しかし、日本の政治システムは依然として大きな障害となっており変化もスローである。日本政府が変化すれば、日本は大きな変革となるだろう」

さて、変わり始めている日本。来年はどの企業がポーター賞に輝くのでしょうか?

語録 〜印象に残ったひと言〜
  • いかにユニークか、いかに他社と違うのか
  • 他と違うことが気持ち良いと感じる経営者が増えてきた
  • 中国に対する恐怖感は日本にプラスに作用している
亜希のゲスト拝見

オシャレに敏感な私の母が「あのオシャレな教授ね」と覚えてしまったほど、いつもカッコイイ竹内教授。日頃から生徒に「100メートル走を逆走する勇気を持て」とおっしゃっているように、竹内教授の服装は皆と違う。黒のスーツでも、襟のないものやスーツの前をボタンではなくジッパーで留めるのもなど、実にユニーク。しかし、人と違っているものを着こなせているからこそ、カッコイイのではないでしょうか?まさにポーター賞流の着こなしです。

ポーター賞が始まって4年。竹内教授のような考え方の企業が増えています。これまでの日本企業だと、どうしても横並びになってしまう傾向が強かったと思いますが、最近では周りに反対されたり打たれたりするのを、むしろ快感に思うぐらいのところが増えてきているそうです。

しかし、竹内教授は「企業が成長すると成長率やマーケットシェアなどのトップラインに目がいってしまうという『成長の罠』がある。収益性などのボトムラインを見るようにすることが重要だ」と強調されました。

そのような罠に陥らず、来年は、北島康介選手のように「超きもちいい!!」と言える年にしましょう。