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第204回 2004年11月13日放送国際通貨研究所 行天豊雄理事長

元大蔵省財務官で、現在、国際通貨基金 理事長の行天豊雄氏に、アメリカ大統領選の結果を踏まえて、世界経済の行方と日本のあるべき姿を伺った。

《アメリカ経済》
ブッシュ政権2期目が始動した。しかしアメリカは財政赤字と経常赤字のいわゆる「双子の赤字」が過去最大に膨らんでおり、その他にも原油高、雇用問 題、所得格差などアメリカ経済は多くの難題を抱えているが、財政赤字を改善するためには、ブッシュ1期目の時に取った消費者や 株主を主体としたPOPULIST(人気)政策からビジネス主体のPRO-BUSINESSに軸足を動かす必要がある。

経常赤字を改善するには3つの方法がある

  1. 成長を落とし、消費を減らし、輸入を減らす・・・しかしアメリカ が今成長を落とすことは考えられない。
  2. 貿易相手国が内需を拡大しアメリカの輸出を増やす・・・ すでに貿易国は内需を拡大しているため、アメリカとしても要請はしにくいだろう。
  3. 為替相場で調整する・・・(1)と(2)が出来ないのであれば、結局、しわ寄せは為替に来る。アメリカは強いドルと言いながらも、ドルが暴落して世界がドル資産への考え方を変えない限り、ドル安を容認するだろう。
さらに原油高は中国やインドの需要は今後も増えるであろうから、中長期的に見てもかなり高いところで高止まりするだろう。NY株価はブッシュ政権がPRO-BUSINESSに移行すればプラスに作用するだろう。為替相場は、変動はあるものの中長期的にはジリジリとドル安になるだろう。1ドル=100円割れしても大騒ぎしないことが大切。

《世界経済》
●ヨーロッパ経済
欧州は概してブッシュ嫌いである。そのため欧州と米国間の不信感や考え方の相違は深く、友好関係が冷えた状態は続くだろう。しかし経済関係では協調し続けるだろ。EU内では、構造改革の遅れや各国間の所得格差など問題が山積している。またユーロは世界の基軸通貨になりつつあるものの、ドルを追い越そうとする決意がEUには感じられない。
●中国経済
中国の最大貿易国はアメリカ。2位がヨーロッパ、 日本は3位に下がってしまった。最大貿易国のアメリカは、対アジア政策の中心を中国と考えている。そのため、日本はブッシュ政権の中国政策を注視する必要がある。また「20年後のアジアの主導国は中国」と答える人が100人中99人である流れを日本はしっかり受け止め、『アジアの主導国・中国』とどう付き合うかを考えなければならない時期に来ている。

《日本経済》
好調な世界経済に引っ張られる形で、日本経済も順調に回復しているが問題も多い。民間企業にかかわる『金融の脆弱性』、『デフレ』、『コーポレート・ガバナンス』は良い方向に進んでいるが、政府が抱えている構造的な課題は手付かずのものが多い。

『高齢化問題』と『財政赤字』は中長期的に大きな問題となる。なかでも『過剰規制』の問題は非常に大きな問題である。政府内では今の状態を変えたくな いと言う声が多い。そのため、中には漫画みたいな話もある。例えば、「ビタミン剤は薬品だから丸いものではなく、三角や六角形でないとダメだ」とか、「建材の年輪の間隔が規制の何ミリを超えているので輸入できない」ということも過去にあった。これではダメだ。

相手国から「この国でビジネスをして一儲けしよう」と思わせる国 にしなければならない。そのために政府は努力をするという姿勢と、指導力を発 揮しなければならない。

《日米関係》
「アメリカがどう変わろうとも付いていくのか?」、それを日本は考えなければならない。今回のアメリカ大統領選の焦点が経済問題ではなくテロ対策だったことからも分かるように、今のアメリカ人にはテロ対策のことしか考えられなくなっている。今のアメリカとはそういう国であることを認識し、対米関係を考えなければ ならない。しかし、今の日本はアメリカ人にとっての9.11の大きさを理解しておらず、テロについて真剣に考えていない。

語録 〜印象に残ったひと言〜
  • 今回の大統領選で、「双子の赤字」はアメリカ人有権者にとって目先の問題ではなかった
  • アメリカ人にとって、今はテロしか考えていないという国である ことを認識し、対米関係を考えなければならない
  • 中長期的にはドル安だろう
  • 中国がアジアの主導者になる可能性が高い
  • 日本は、その中国とどう向き合うかを真剣に考える時期 だ
  • 海外から見て、「ビジネスで一儲けしよう」と思わせる国にしないと活性化しない
  • 民間の構造改革は進んでいるが、政府の構造的な課題は手付かずだ
亜希のゲスト拝見

行天理事長は、ミスター円の榊原英資さんが「私のゴッドファー ザー」と尊敬するすごい方です。1971年のニクソンショックの時、大蔵省の財務官室長だった行天さんはスミソニアン合意を仕切られ、1986年に財務官に就任されてか らもルーブル合意に尽力されました。まさに、教科書に出てくる「太文字の出来事」の中心人物です。

おしゃれにも関心が深いようで、放送当日は細いストライプの入ったダークスーツに赤い柄の入ったネクタイ、違う柄だが同じトーンの赤いポケットチーフでご登場。指にはフィレンツェで目に留まって購入したという太目のシル バーリング。姿勢も良く、DANDYな紳士です。

そんな『すごくて』『DANDY』な行天理事長がたびたび口にされた言葉が『認識しなければならない』。それだけ今の日本の認識不足を危惧されているのでしょうね。