第201回 2004年10月23日放送
「冬の時代」「オールドエコノミー」などと言われてきた鉄鋼業界が、今、バブル期をも上回る空前の活況に沸いている。神戸製鋼所も2004年度の経常利益が900億円と過去最高益を更新する見通しだ。自動車業界向けの需要拡大や中国特需が好調の背景だが、今年、社長に就任した犬伏泰夫さんも「この勢いは2008年の北京オリンピックと2010年の上海万博が終わった後もしばらく続くだろう」とみている。
しかし神戸製鋼が元気な理由は、こうした外部要因だけではない。文字通り外からは見えにくいが、素材メーカーとしての的確な経営戦略が大きな役割を果たしている。「市況変動に左右され易い製品だけでなく、利益率が高く安定した高付加価値製品とバランスをとることが大切だ」との考えのもと、例えば自動車メーカー向けには、「軽くて・丈夫で・加工しやすい素材」を提供している。これら3つの条件は「鉄屋」にとって相反する関係にあるそうで、軽くすると丈夫ではなくなり、丈夫にすると加工しにくくなる・・・。
こうした中、神戸製鋼が開発した代表製品の『ハイテン』。ハイテンは薄くて強く、加工性にも優れる素材で、今や自動車の軽量化には欠かすことの出来ないものとして、業界をリードしている。『量ではなく質に挑む』−神戸製鋼の重要な戦略である。
実は神戸製鋼は鉄だけ扱っている会社ではない。売上構成をみると鉄鋼は全体の約4割を占めるに過ぎない。そのほかアルミ、銅、建設機械も事業の重要な柱となっている。今では当たり前になったボトル缶用のアルミ素材を開発したのも神戸製鋼で、市場シェアは70%を誇っている。機械事業分野では、タイヤ関連の産業機械は国内で独占状態。建設機械では、ショベルやクレーン車も作っている。犬伏さんは「競争力の高い商品のシェアを、現在の30%から40%まで高めていく」と意気込みを語った。
さらに新素材の研究開発にも積極的だ。軽量で強度もあり加工しやすい「チタン」は、ジャンボ機のエンジンやゴルフクラブ、眼鏡などに使われているが、神戸製鋼が1949年に開発したもので業界をリードしている。また、バイオやエレクトロニクスの分野でも新素材は欠かせない存在だ。たんぱく質などの分子構造を解析する装置には、神戸製鋼が開発した超電導磁石が重要な役割を果たしているほか、液晶パネルに使われるターゲット材でも神戸製鋼の技術力が発揮されている。
そして驚くべきことに、神戸製鋼は電力事業にまで参入している。1995年、電気事業法の改正を契機にいち早く参入した神戸製鋼は、神戸市内で2基を稼動していおり、その発電規模は神戸市内の電力ピーク時のおよそ70%も賄うことできる。さらに市街地にあるため、環境対策にも最高の技術で対応しているとのこと。一見、鉄と電力はかみ合わないようにも思えるが、「製鉄所では40年前から自家発電を行っているので、電気を作ることは何も不思議なことではない」そうで、現在年間180億円も収益を上げている。
「いまどき普通の発想ではダメだ!」という犬伏さん。神戸製鋼は「鉄の会社」「ラグビーの強い会社」だけでなく、「ハイテクと匠の技術のかたまり」の素材メーカーとして絶えず進化している。
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