第197回 2004年9月25日放送 日本航空の本社は東京品川区の天王洲にある。窓の外から見える羽田空港の発着便を見て、JALグループCEO兼子勲氏(当時は日本航空社長)は「羽田の発着便の半分は全日空だ。JALは4回に1回しか見えない。これではとても国内線の競争はできない」と感じたという。そして2004年4月、2年がかりでJAL・JASの完全統合を完了させ、JALとANAの国内線の比率が1対1になった。日本の航空業界は2強時代に突入したのである。 この出来事は新生JALにとって大きな意味を持つ。かつて7割が国際線を占めていたJALは、SARSやテロなどが起きた際、大きな影響を受けやすく経営的に不安定な面があった。その点、国内線ビジネスは安定しており、経営面でメリットは大きい。また便数が増えたことにより、利用できる時間帯も増えるため、利用者にとって利便性が良くなる。収益性の厳しい団体客ではなく、個人客を増やすチャンスが生まれたというわけだ。 国内線個人客の比率を上昇させるためにJALが投入したのが「クラスJ」という座席だ。「国内線では、食事などのサービスよりも、ゆったりと座りたい」という利用者の声に着目し、機内食やアルコールなどのサービスをなくし、ゆったりと座れる座席を開発した。日本国内どこでも、エコノミー料金に1000円プラスすれば利用できる。結果は予想を上回る80パーセントの利用率だという。ライバルのANAは高付加価値のスーパ−シートを強化しているが、JALは「手ごろな高級感」で新しい客層を狙っている。 JALの競争相手はANAだけではない。「世界の航空業界はいずれ完全自由化する」とにらんでいる兼子さんは、経営戦略の最重要課題を株式時価総額の向上に置いている。現在、世界No.1の時価総額を誇るのがアメリカのサウスウェスト航空、2位がシンガポール航空、そして3位がJALである。「いずれシンガポール航空に並びたい」と意欲を燃やしている。 それを実現させるためにはいくつかのハードルがある。大きなハードルの1つが空港問題だ。成田空港も羽田空港も満杯の状況。例えば羽田空港の1つの滑走量に離発着する飛行機の数は世界の主要空港の2倍以上。また2003年に成田に完成した2つ目の滑走路は2180メートルしかないため、大型機や遠距離の機体を飛ばせない(大型機を飛ばすためには2500メートル以上の長さが必要)。 そこで大きな期待を寄せているのが、羽田空港で2009年から利用開始となる予定の4本目の滑走路だ。総工費7000億円のビッグ・プロジェクトで、長さも2500メートルあり大型機の離発着が可能だ。利用が開始されれば、離発着の回数は現在の28万回から40万回に増える。そのうち3万回が国際線に割り当てられる予定で、JALにとっても1日40往復便増加する。当然、成田空港を抱える千葉県からは強い反対意見が出ており、立ちはだかる問題も少なくないが、兼子さんは「国際競争に打ち勝つためにも、ぜひ実現して欲しい」と強調した。 日本の空港は着陸料(機体が滑走路を利用するたびに支払う)がとても高いのも問題だと指摘した。国際標準の3倍も高い。JALの必要経費の11%を着陸料が占めているというから、負担の重さが分かる。「我々がいくら努力しても減らすことができない部分だ。成田空港民営化したので着陸料の引き下げを期待している」とのこと。 兼子さんは、JALをどのような会社にしたいのだろうか。その問いに対しては、「安全性・収益力・株式時価総額など、求められている1つ1つの項目を世界レベルでNo.1かベスト10に入り続けられるようにした上で、総合点で金メダルを取れる会社にしたい。そして現在利用している人の7割が日本人だが、外国人の利用率を上げてグローバルな航空会社にしたい」と明確に答えられた。 |