第189回 2004年7月31日放送 私事だが、祖母はカルピスが大好きだった。「ハイカラなものが好きなんだな」と私は思っていたが、実はそういうわけではないようだ。カルピスが誕生して今年で85。祖母にとっても、私にとってもカルピスは慣れ親しんだ味だ。 「カルピス」とはカルシウムの「カル」と、サンスクリット語で醍醐味という意味の「サルピス」を合体した造語。作曲家の山田耕作氏も「音感が明瞭でよい」と太鼓判を押したというエピソードもあるそうだ。カルピスの起源は日本ではなくモンゴルにあった。大阪の貧しいお寺に生まれた創業者・三島海雲がモンゴルで飲んだ発酵乳で元気になったことに感動し、帰国後、真似ようと開発したのがカルピスの始まり。その作り方はユニークだ。カルピスのもとであるカルピス菌を2度も発酵させる。このノウハウは真似できないそうで、特許も申請していないとのこと。 しかし、いくら真似できなくても、85年も売れ続ける商品はめったにない。カルピスの年間生産量は6500万本。その秘密は創業当時から守られている4つの条件を守っているからだ。(1)美味であること、(2)滋養性(健康によいこと)、(3)安心(カルピスの原料は牛乳)、(4)経済性(カルピスは一杯平均25円!)。すべてを満たし続けているカルピスは、時代に合わせてパッケージを変えたり、オレンジ味を世に出したりしているが、基本的に創業以来、「一社一品主義」を守り続けてきた。 しかし、1990年、カルピスの「一社一品主義」から「多角化」へと変えたのが、カルピス社長の武藤高義さんだった。大学卒業後入社した味の素でマヨネーズや冷凍食品などの新事業を立ち上げ、「マーケテイングの武藤」と呼ばれていた人物だ。武藤さんの改革の中で、「カルピスの新しい時代を作った」と力を入れているのが、「特定保健用食品」(=特保)。特保とは「コレステロールを下げる」など、健康に対する効果を具体的に表示することができるもので、厚生労働省の認定を受けたものである。健康ブームを追い風に、特保の表示は売り上げに大きく貢献している。この特保にいち早く目を付けたカルピスは、長年の乳酸菌の研究で培った膨大な数の菌を武器に、特保制度ができた僅か3年後の1994年に「オリゴCC」を発売。1997年には理化学研究所と共同で、血圧を下げるペプチドを含んだ大ヒット商品「アミールS」を開発・発売した。そして今は花粉症に効果が期待されている「Lー92」の研究が進められている。 この特保商品によってカルピスは、従来あまり取引のなかった「ドラッグストア」という販路も大きく開拓することが出来た。今では売り上げのの6割がドラッグストアである。今年からドラッグストア専門の営業部隊も立ち上げ、更に力を入れている。 さらに武藤さんは海外展開にも力を入れている。インドネシアとタイではカルピスを現地生産・現地販売しているほか、サプリメント文化のアメリカではアミールSを錠剤にして売っている。またミネラルウォーターのエヴィアンと果汁飲料のウェルチの国内独占販売権も持っている。まだ海外売上高は全体の6%ほどの50億円だが、世界中の健康ブームを追い風に、5年後には4倍にまで増やしたいと考えている。武藤さんは「手ごたえはある」と語っていた。ということは、日本のお寿司が世界中で認められているように、カルピスも世界共通の飲料になる日が来るかも知れないということだろうか? |