第176回 2004年5月1日放送 「企業はその名では判断できなくなっているのでは?」と思わせる住友化学工業。そんな新しい姿を目指しているのが米倉弘昌社長だ。
中核である石油化学事業は、自動車や家電などあらゆるところに使われているプラスチックの原料となるエチレンやポリエチレンなどを製造している。石油化学は長らく低迷を続けていたが、中国特需で再び復活の兆し。その特需ぶりがスゴイ!中国での需要は8年後には2400万トン、今より1100万トンも増えると予想されている。しかし、その需要に応えるだけの供給が世界的にすでに不足している。そのためエチレンの価格がどんどん上がり、今年の3月には797ドルまで値上がりした。
この状況を素直に喜べないと言う米倉社長。それはエチレンの原材料であるナフサも値上がりしているからだ。しかも製造したエチレンを買う自動車や家電などの加工メーカーでは価格競争が激化しており、エチレンの値上がりに応じにくい。まさに板ばさみである。また今年から国際的な競争相手が増えた。エチレンなど石油製品の関税引き下げに伴い、原材料のナフサを自国にもつ中東から安い製品が入ってきたからだ。これに対抗するのは難しいと判断した米倉社長はプロピレンなど技術のいる高付加価値・高機能商品にシフトしている。
日本の化学メーカーを世界全体で見てみよう。実は日本の最大手も世界では14位。アメリカやドイツの企業と比べると、売上は3分の1しかない。また、次々と再編が進んでいる海外と違い、日本国内に100以上も上場している化学メーカーの再編が遅れている。そこで住友化学工業は、中核事業の石油商品に代わる新たな成長分野に力を入れている。それが情報電子・医薬・農薬である。これらは利益率が高い高付加価値商品だ。すでに住友化学工業の売上の47%を占めているが、2010年にはその比率を石油化学よりも多い60%にまで上げ、純利益を1000億円まで増やす予定だ。そのため戦略的な投資の70%をこの三つの成長分野につぎ込む考えである。
それにしても、この3つの事業は石油化学メーカーのイメージからは、相当かけ離れているようだが、実は化学メーカーとして歩んできた91年間のノウハウが重要な核になっている。
化学品を分析する「有機化学合成」のノウハウを活かし、アルツハイマーやダウン症のメカニズムを解明して医療に結びつけたり、武田薬品と合弁で安全な農薬の開発も行っている。中でも特にこれからの成長の要と米倉社長が力を入れているのが情報電子分野である。化学メーカーの高分子機能設計や高分子精密化学加工技術を応用して、何層も重なっている液晶デイスプレーパネルのほとんどを生産している。一つの部品だけでなく、ほとんどの部品を作れるのは住友化学工業の強みだ。
そして、その顧客は液晶で圧倒的な勢いを見せる韓国のサムスン電子。たまたま後発だった住友化学工業は国内メーカーの中に入って行けなかったため、日本の部品メーカーとしては初めて韓国に進出した。いまでは、サムスン電子と親密な関係にあり、韓国に工場をつくり、その100%をサムスン電子に供給している。工場には、時折サムスンの社長自身が訪れ、指示することもあるという。今春から韓国第2工場が稼動し、第3工場も検討している。
様々な分野に進出し始めている住友化学工業の目指すは「ハイブリッド・ケミストリー」。何か1つの分野に特化するのではなく、幅広い技術を融合していく総合化学メーカーにして行きたいと、米倉社長は語った。 |