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2004年1月18日 テーマは、『肺結核』

今週のドクター 今週のドクターは、
水谷内科呼吸器科クリニック
水谷 清二先生



【略歴】

'77年名古屋市立大学医学部卒業。
結核予防会複十字病院の呼吸器内科部長を経て、'01年練馬区にて呼吸器科を主とするクリニック開設。
専門は、呼吸器疾患全般、呼吸器レントゲン診断、肺抗酸菌症など。
'02年には呼吸器レントゲン診断のためヘリカルCTをクリニックに設置。抗加齢医学に現在関心あり

【ドクターの一言】
地域での呼吸器専門医として質の高い医療の提供を目指す。今の医学ではまだ治せない病気も近い内に治療法が見つかります。それまで共に焦らず、今以上に悪化させないように努力を継続しましょう。

【著書】
「結核医療の基本とその解説」 結核予防会
「非結核性抗酸菌症」 結核予防会
「図説病態内科講座」 共同執筆 Medical View社


CONDITION OF ILLNESS 病気と症状のメカニズム

かつて世界中の多くの人々の命を奪った、怖ろしい、死の病があります。
日本でも1年間に、実に15万人の命を奪い、国民病とまで呼ばれた病気。
「肺結核」です!
「結核なんて何十年も前の病気だよ」なんて言う人がいるかもしれませんが肺結核は、決して、過去の病気などではないのです・・・。現在 結核感染者は、アメリカ・ヨーロッパ諸国では、人口10万人に対して6人から10人です。ところが日本は何とその3倍以上!先進国の中では最も多いのです。日本ではこの数年、毎年3万人を超える結核患者が発生し、2300人近くの人が亡くなっています。この状況を重く見た旧厚生省は、1999年に、「結核非常事態宣言」を発令。国民に広く注意を呼びかけたのです。
そもそも肺結核とは、どのような病気なのでしょうか?
肺結核は、肺の中の肺胞に結核菌が侵入し、感染することで発病します。肺結核が発病すると肺の細胞は壊死してしまい、酷くなると最終的には死を招いてしまいます。これは、初期の肺結核のレントゲン写真です。この白い影が結核菌によって肺に出来た病巣です。この時、どのような症状を引き起こすのでしょうか?
結核になると、まず咳が出て、さらに痰も出ます。そして37度から38度の微熱が続きます。
結核のはじめ、風邪と似ています。しかし、風邪なら一週間もすれば症状は消えるのに対し、結核はこの症状が2週間以上続きます。では、どうして結核菌に感染してしまうのでしょうか?
肺結核は「結核菌」が人から人へ、空気感染する病気です。結核菌を持っている人が、せきやくしゃみをすると周りの人は要注意です。感染者が咳やくしゃみをすると、肺の中の結核菌も一緒に体外に排出されます。咳の場合は1.5メートル、くしゃみの場合は実に3メートルも、結核菌が飛び散るのです。飛び出した瞬間の菌は水分に包まれていますが、この水分は空中ですぐに蒸発し、結核菌は軽くなって空中を漂うようになります。そのため、結核菌は広範囲に飛び散り感染者からかなり離れた場所にいる人までも、感染してしまうのです。さらに感染者がその場所からいなくなったとしても、菌はしばらく空中を漂い続け、次から次へと感染者を増やしてしまいます。この体内に侵入した結核菌は、まず、空気の通り道である気管支に付着します。そして肺胞の中に入り込み、増殖するのです。
ただし、人体は菌に対し、無抵抗というわけではありません。結核菌が肺に感染すると、まずは白血球が迎え撃ちます。しかし白血球は結核菌と戦えるだけの、十分な力を持っていません。そこで、貪食細胞という白血球の一種が出現し、結核菌を食べて自分の中に取り込むことで、退治しようとします。この時、貪食細胞と結核菌が戦うため、肺は炎症を起こします。すると炎症を起こした所は肉芽腫(にくげしゅ)というチーズ状の固まりになり、その中に、結核菌を閉じこめられます。ここまでは、まだ結核菌に感染している状態です。ところが、結核菌の方が貪食細胞より強いと、結核菌は増殖を繰り返します。これが、結核の発病です。肉芽腫はどんどん大きくなり、周りの肺を侵食します。すると肺の組織はどろどろの状態になり、体外に排出されます。これが、結核による痰なのです。
痰となって出たところは穴が開いた状態になります。つまり空洞化してしまうのです。肺の空洞化が進むと、血液の混じった痰が出ます。胸痛が起こり、そして息苦しいといった症状が現れます。さらに栄養障害のために体重も減ってきます。また、肺に出来たこの空洞は、結核菌が繁殖する温床となり、放置しておくと、やがて大量の結核菌を体内に宿すこととなります。ただし、肺結核は感染したら、すぐに発病するというわけではありません。感染しても免疫力が強い間は、結核菌は肉芽腫の中に閉じこめられたままとなり発病しません。しかし、結核菌は肉芽腫に閉じこめられたままの状態、つまり潜伏した状態で、数年、数十年と生き続けます。そして、老化や何かの病気で免疫力が低下したりすると、発病するのです。
1996年から1997年にかけて患者数が増えた時、その多くは、70歳以上の高齢者でした。高齢になると免疫力が衰えるため、いつ結核菌が活動を再開し、発病してもおかしくないのです。そして、高齢者と同様に危険なのが20代の若者です。今の若い世代は結核が沈静化した時期に生まれているので、結核菌の保菌者と、まず接触がありません。そのため多くの若者は、結核に対する免疫力が弱く感染すると、すぐ発病してしまうのです。このように肺結核は、過去の病気ではないのです。

EXAMINATION 検査

EXAMINATION 検査

FRONTIER 最先端技術

結核患者数は1997年以降、減少がにぶり、当時の厚生省は緊急事態宣言を出しました。そのため現在も、結核治療の研究が行われています。従来の結核治療薬は、土の中にいる土壌細菌の放線菌が自分で合成する(アミコバクテリアメリテア)という化合物を使用しています。しかし製造に使用する放線菌は、培養するために時間がかかるなどの難点がありました。そこで、北海道大大学院の渡辺賢二先生らの研究グループは、新しい結核治療薬を生産する新技術の開発を行いました。

その新技術とは、放線菌の替わりに大腸菌を使うというものです。大腸菌の利用を遺伝子を組み換えることで、可能としたのです。もちろん大腸菌を使うことで放線菌を使う以上のメリットがあります。

まずは大腸菌は放線菌に比べ培養して数が増えるスピードが7倍以上、早いということ。そして最大のメリットは、大腸菌で作った薬は結核菌が薬に対して耐性を持ちにくくなるということなのです。大腸菌の遺伝子を人間が操作して作り出す薬は、放線菌が自ら作り出す化合物と違って自然界には存在しないため、結核も対応しにくくなるというわけなのです。

しかも今回の画期的な技術は、結核治療薬だけでなく、抗ガン剤や免疫抑制剤への応用も可能だというのです。DNAの組み換えという新しいテクノロジーは、夢の新薬開発のキーワードになりそうです。

FRONTIER 最先端技術

肺結核は、気づかぬうちに感染しています。そして数十年間、体内に潜みつづけた後、ある日突然、発病するという怖ろしい病気です。肺結核から身を守るため大切なのは、発病したら、いち早く治療するという事と、いかに発病を防ぐかという事です。まず肺結核を防ぐには、体力を落とさないことが大事です。規則正しい生活を送り、バランスの取れた栄養を摂りましょう。分かってはいても、実践するのは難しいですよね。でも、体力維持と免疫力の向上には、偏りのない食事が最も大切です!

また胃潰瘍など、胃に持病がある人や、お酒を多量に飲む人は、肝臓の働きが悪くなり、栄養障害に陥りやすいので気をつけましょう。もちろん喫煙は肺の機能を低下させ、免疫のバランスを崩し、結核が発病しやすくなる要因を作ります。禁煙は結核予防にとっても、大変重要なことなのです。
もし発病しても、結核の初期症状は風邪と似ています。ただし、風邪なら症状は1週間程度で治まるのが普通です。もし咳や微熱が2週間以上続くようならば結核を疑い、必ず病院に行きましょう。特に注意が必要なのは、60歳以上の高齢者です。咳が出たら、すぐに受診する心構えが必要ですよ。

 

では、お子さんの場合は、どんなことに気をつければいいのでしょうか?
厚生労働省は生後3ヶ月から4歳未満の乳幼児期のツベルクリン反応検査とBCG接種を義務づけています。これは乳幼児の結核は大人に比べ進行が早く、症状も重くなるためです。
皆さんも子供の時に予防接種をした経験があると思いますが、ツベルクリン反応検査とは、結核菌の感染の有無を調べる検査です。ツベルクリン液を腕に注射し、その場所の48時間後の反応を見ます。注射した所が直径10ミリ以上に赤く腫れれば、陽性。過去に結核の免疫が出来ているということです。しかし生まれて間もないお子さんが結核菌に感染しているケースはまずありませんので、ほぼ全てのお子さんがBCG接種を受けることになります。
BCGはウシ型の結核菌を弱毒したものです。これを腕に注射し、人工的に結核菌に感染させるのです。これにより結核菌に対する免疫を作ります。結核の発病を防ぎ、仮に発病しても重症にならないのです。ツベルクリン反応検査とBCG接種のお知らせは、お子さんが生後3ヶ月の時に、各地域の区役所、市役所などから郵送で送られてきます。忘れずに受診するようにしましょう!
結核に対抗するには、子供の頃はBCG接種による予防、老年期はいかに免疫力を保つ生活を送るかが大事なのです。


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