毎週木曜21時オンエア
人間の鼓動に出会う旅、一篇の旅物語
旅の案内役は「バス」です。大陸を横断する長距離バスから都市部を毛細血管のほうに走り回る生活導線バス。早足の旅ではけっして見えて来ない車窓の風景が、乗り合わせた人との出会いが、いろいろな物語を紡ぎだしていきます。
今回の舞台はフランスの首都、パリ。バスの乗り放題チケットを片手に、“花の都”の知られざるエリアを市内バスで巡ります。
まずはバスのチケットを購入することに。奥さんから「幾日かパリに滞在するなら乗り放題チケットを買ったらどう?」とアドバイスをもらい、早速、チケット購入窓口に案内してもらいました。着いてびっくり。バスの乗り放題のチケットは、地下鉄の窓口で購入できるのです。
再び地上に戻ってバス停へ。レピュブリック広場は、ノートルダム大聖堂からバスで15分。リニューアルしたばかりの広場では、デザインされたフラットな噴水が人気でした。地面から水が吹き出すと、その上を子どもたちがびしょ濡れになるのも気にせず走っていきます。案内してくれたご家族と別れて、もう少し辺りを散策することにしました。
しばらくすると、木漏れ日が美しいサン・マルタン運河が見えてきました。そこで、今から、船で友人たちとパーティーをするという女性に出会い、急きょ、お邪魔させてもらうことに。しかも、彼女は船で暮らしていると言うではありませんか。おしゃれなパリジェンヌたちと、運河を下りながら、ワインで乾杯を重ねているうちに、すっかりいい気分に。いつのまにか日も暮れてしまいました。宿泊先を決めていなかったのですが、ありがたいことに船室で1泊させてもらうことになりました。
翌朝。船で暮らす彼女からすすめられて、バスティーユ広場からバスに乗ることに。セーヌ川の上をバスが横断し、パリ5区の下町、カルチェラタン界隈に到着。学生に人気のデリのお店や広場を散策していると、小さな子どもをつれた女性がとっておきの場所へ案内してくれることに。そこは彼女たちが住んでいるアパートでした。子どもたちが手を引いて案内してくれたのは、子ども部屋の屋根裏です。天窓を開けて顔を窓の外に出すと、映画のような異国情緒あふれるパリのアパートと、奥にひっそりと佇むパンテオンが見えました。さらに姉妹のおすすめが続きました。それは彼女たちが描いた絵画。さすが芸術の街、パリ。小さな画家の卵たちは、自慢げに絵の説明をしてくれました。
バスで次に向かったのはマレ地区です。ここで出会ったのはギターミュージシャン、リガルドさんです。なんと彼は、ギター職人でもあるそうです。聞くと、リガルドさんはパリで有名な師匠の元に弟子入りしているのだとか。話が弾んで、モンマルトルにある工房を見学させてもらえることになりました。リガルドさんとバスに乗って会いに行った噂の師匠は、片言の日本語で急な来訪者をもてなしてくれました。弟子はリガルドさんを入れて3人で、弟子入り7年目のリガルドさんは早く一人前になるため、今日も修業に励んでいました。
ピガール駅の停留所からバスに乗って、今回の旅はパリのシンボル、エッフェル塔で締めくくろう! …と思ったのですが。最後の最後でまさかの乗り間違えをしていました。慌ててバスを降り、エッフェル塔への行き方について地元の人に聞くものの「バスのルートを全て理解できてるパリジャンはいないよ」と言われてお手上げ状態。しかし、ここで出会ったフレデリックさんが、エッフェル塔が見える場所ならばあると教えてくれました。そこは、20区、メニルモンタンの坂の上にそびえ立つノートルダム・ドゥ・ラ・クロワ教会。彼はここで、パイプオルガンのコンサートの練習をしているそうです。夕暮れの光りに染まる白亜の教会。そこに並ぶパイプオルガンは、足鍵盤の他に手鍵盤が3段あって、体全体で演奏する必要があるとか。厳かで重厚な音色が、身体中に響きわたり、心から感動しました。そして、いよいよ約束のエッフェル塔が見えるという場所へ、なんと、普通の人は立ち入りできない、鐘塔へと案内していただきました。古い石の階段を上って広がる大パノラマ。夕暮れに染まるパリの街を見守るように、エッフェル塔が、可憐に佇んでいました。