毎週水曜日よる9時オンエア
地球は絶景の美術館。世界にたった1つの絶景旅行ガイドをあなたに。2泊3日で行く、夢の旅にご案内いたします。(旅人:森高千里)
訪れたのは北アフリカのモロッコ。旅は、世界一の迷宮といわれるフェズの旧市街からはじまります。旧市街ができたのはおよそ1200年前。元々外敵の侵入を防ぐために作られた要塞都市で、町中を迷路のように路地が交差しています。路地はとても狭く、馬が通るのも精一杯。さらに奥へ歩くと、今度は人の幅ぎりぎりで肩が擦れてしまう程です。地元の人にフェズで一番面白い場所を尋ねると、路地に面した薄暗い階段に案内されました。不安になりつつ階段を登ると、職人たちで賑わう革の染色工場が現れました。工場は外から想像できないほど活気に満ちています。その夜、リヤドと呼ばれるモロッコ伝統の宿があると聞き、行ってみることしました。しかし、あるのは暗い路地に扉がひとつだけ。看板もありません。恐る恐る中に入ってみると、家の中には明るい中庭が。緑の木々や噴水があり、外と中ではまるで別世界です。リヤドのスタッフによると、昔のモロッコ人は家の中を外に見せない習慣があり、一見ただの古い家に見えても、中には想像できないほどの宝が隠されているのだそうです。翌朝、フェズの街の全貌を見に旧市街の外へ出てみることにしました。高台から街を見下ろすと、建物がひしめきあい、まるで巨大な迷路のようです。ひとつひとつの扉の奥に秘密が眠る、悠久の古都フェズ。迷うほどに発見のある宝箱のような街でした。
フェズの土産物店で気になるポストカードを見つけました。店のお客さんに場所を尋ねると、アイット・ベン・ハドゥという場所で、道中の風景も美しいのだそうです。早速、観光ドライバーを予約し、アイット・ベン・ハドゥへロングドライブを敢行することにしました。ドライバーは運転手6年のアイサさんです。フェズを出るとアトラス山脈という大きな山が見えてきました。山の峠には雪が積もっており、なんとスキー場まであります。しかし峠を超えると風景が一変。さっきまでの雪が嘘のように、砂漠の荒野が現れました。この先にズィズ渓谷という美しい場所があるんだ、とアイサさん。車を停めて少し歩くと、乾いた砂漠を削りとって出来た緑の渓谷が姿を見せました。ここはアトラス山脈の雪解け水によって生まれたオアシスなのだそうです。わずかな水から始まるオアシスという物語。アトラス山脈からの真っ白な贈り物が乾いた大地を潤していました。
ズィズ渓谷を出発し、再び砂漠の荒野を疾走します。フェズを出発して2日目。乾いた道の果てに、世界遺産のアイット・ベン・ハドゥが姿を現しました。赤土の丘に張りつくようにして、日干しレンガの家々が並んでいます。川を渡り村の中へ入ってみると、お土産屋さんと廃墟ばかり。住んでいる人がいないか探していると、ようやくひとつの家族に出会いました。家にお邪魔して話を伺ってみると、アイット・ベン・ハドゥは1000年以上も前に出来た要塞村でかつては100〜150もの家族が暮らしていたそうです。しかし、要塞村を守るためにあった川が時折氾濫を起こし、村が孤立して不便になってしまったため、今は5家族しか住んでいないんだとか。それでも家族の一人、少年のモハメッド君は「ここは僕の宝物さ。先祖から受け継いだ家だからね。」と言います。モハメッド君がアイット・ベン・ハドゥが一番美しく見える場所へ案内してくれることになりました。小高い丘に登ると、褐色の乾いた砂漠と緑の風景が。そして、その穏やかな風景にとけ込むようにアイット・ベン・ハドゥの姿がありました。盗賊や敵から村人を守ってきた要塞の村。疲れた体を休めるように横たわる老いた土の砦には、ここに生きた人々の数えきれない記憶がし染みこんでいます。不便でもここに住みたい…。今はここを愛する人々に村が守られていました。