今回の列伝は清朝の王女として生まれながら、日本と中国を舞台にスパイとして暗躍した「川島芳子」。上海では社交界の華として活躍した芳子の裏の顔は関東軍の女スパイ。小説「男装の麗人」のモデルとなり、満州の広告塔として日本でもアイドル的存在になるも、戦後、「売国奴」とののしられ、中国で銃殺される。歴史に翻弄された悲劇の人生に迫る。
1936年、日中戦争を前にした上海。華麗なステップで男たちを魅了した女性がいました。軍服をまとった男装の麗人。次々と男を籠絡して、機密情報を聞き出していく・・・彼女の名は川島芳子。日本陸軍のスパイだった女性。清朝の王女として生まれながら日本と中国、二つの国に、運命を翻弄された女性です。死の直前に書いた詩歌、そこに込められた芳子の苦悩があった。最後まで己を信じ、貫いた悲劇の人生に迫ります。
1907年、清朝の王族、粛親王善耆(ぜんき)の第十四王女、顕㺭(けんし)として芳子は生まれる。しかし、辛亥革命で中華民国が誕生。清朝は300年に渡る歴史に幕を閉じた。芳子は日本へ養女として出され、大切に育てられた。18歳になった芳子は、恋に落ちる。しかし、その恋は許されるものではなかった。なぜなら芳子には「滅亡した清朝を復興させる」という亡き父から託された使命があったからだ。普通の女としての生き方と決別するかのように、芳子は自慢の黒髪をばっさりと切り落とし、自分のことを“僕”と呼ぶようになった。