#06 2014年5月16日(金)放送 『怪人二十面相』現る!いくつもの顔を持つ男 江戸川乱歩

江戸川乱歩
(写真提供:平井憲太郎)

今回の列伝は「怪人20面相」を生み出した江戸川乱歩。摩訶不思議な怪しい世界観を確立、猟奇的なエログロで人気作家となった乱歩は、42歳の時少年雑誌に少年向け探偵小説を発表する。そこに登場したのは怪人20面相というダークヒーロー。明智小五郎との戦いに子供たち熱狂!傑作を生み出すまでの乱歩の険しい人生の坂を読み解く。

ゲスト

ゲスト 評論家
山田五郎
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日本の推理小説の礎を築いた男、江戸川乱歩!

日本が大きく変貌を遂げた激動の、大正・昭和初期に活躍し、日本の推理小説の礎を築いた作家がいた、それが江戸川乱歩である。天井裏からの覗きを趣味とする男が企てる完全犯罪を描いた「屋根裏の散歩者」、恋をした女性の椅子の中に入ってしまった「人間椅子」…。そんな乱歩が26年に及び書き続けた不朽の名作シリーズが、「少年探偵シリーズ」。しかしそこに至るには、謎と伝説に満ちた乱歩の人生があった。傑作、それはいかにして生まれたのか?今回は、「少年探偵」シリーズ『怪人二十面相』を生み出した男の、知られざる人生に迫っていきます!

青春期の乱歩が見つけた別世界

1894年(明治27年)三重県に生まれた乱歩は、身体が弱く、学校ではいじめの対象だった。そんな友人がいなかった乱歩は日々、読書で空想をしていた。ある日、暗い部屋に差し込んできた光の筋にレンズを当てて遊んでいたところ、気が付くと天井に巨大なモヤモヤしたものが蠢いているのを見つけた。乱歩の目にはまるで別世界の入口のように見えた。18歳になると乱歩は学者になる夢を抱き早稲田大学に入学。しかし実はその年父親の事業が失敗し一家は朝鮮半島に移住していた。一人で学費を稼ぎ孤独な日々の中、エドガー・アラン・ポーの本と出会う。探偵と謎解きのスリルに魅せられていく乱歩…。卒業後、何をすればよいかわからないまま就職し、6年で14回も職を変えた。
しかし1920年(大正9年)、雑誌「新青年」が創刊され、乱歩の運命が変わる。そこには、毎月翻訳された海外探偵推理小説が掲載されていた。乱歩は、自分がポーで魅せられた世界を、今度は自分が創ろうと決意、一心不乱に筆を走らせた処女作が、「二銭銅貨」という探偵小説だった。ペンネームはエドガー・アラン・ポーをもじり、江戸川乱歩と名付けた。

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(写真提供:平井憲太郎)
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乱歩世界の源、魔都・東京

二銭銅貨発表の年、ある出来事が日本を震撼させる。1923年9月1日、関東大震災。壊滅的被害を受けた東京は近代化を掲げ、銀座など急速に発展していく。しかし大都会の裏で、一歩路地に入ると昔から変わらない日本の暗闇が残っている。さらに、震災復興は労働力として地方出身者を多く受け入れ、人口が急激に膨れ上がった。そんな大量流入により個別に鍵がかかる集団住宅の建設が急増、もはや壁一枚隔てた向こう側にどんな人がすんでいるのかわからない状態となっていった。そんな変貌を遂げる東京の中では、隣人も一革むけば業や欲望が渦巻いている。そんな人間誰しもが隠し持っている異常性を乱歩は次々と作品に描き、「屋根裏の散歩者」「人間椅子」「鏡地獄」等の名作が生まれた。

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「虚名」という人気作家の苦悩

1928年(昭和3年)発表の本格推理と艶めかしいSMの世界を融合させた小説「陰獣」は空前の大ヒットとなる。その後も大衆雑誌等からの依頼は増え続け、まるでそれに比例するかのように、大衆はより猟奇的でよりエロティックなものを求めるようになる。そんな中、乱歩はそれに応えつつも、心の内では自身の書くものを「愚作」だと葛藤するようになる。乱歩が書きたいと思っていたもの、それは憧れていたエドガー・アラン・ポーのような本格推理小説だった。乱歩は、自己嫌悪に陥っていく。
さらに猟奇的な作品のイメージは、乱歩自身にも降りかかる。1932年(昭和7年)に起こった実際の事件「玉ノ井バラバラ殺人事件」では、「犯人は江戸川乱歩である」との投書があったのである。江戸川乱歩はもはや「虚名」だと、乱歩は苦悩を感じていた。

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そして傑作が生まれた

そんな自己嫌悪に苛まれる中、1935年(昭和10年)、乱歩は少年向け雑誌「少年倶楽部」の編集長から探偵小説の連載の依頼を受ける。エロ・グロを書いていた自分に少年向けの連載がつとまるのか…。そんな不安を抱えつつも、子供達に探偵小説の面白さを伝えたいという強い想いから、執筆を承諾する。そして1936年(昭和11年)、「少年探偵」シリーズ 『怪人二十面相』が誕生。過去の乱歩作品に度々登場していた名探偵・明智小五郎を起用し、その対立軸として、決して人を殺さず、犯行予告を欠かさない怪人二十面相、そして子供達が熱狂する仕掛けとして少年探偵団の活劇を描いた。
作家・江戸川乱歩最後の作品も少年探偵シリーズだった。晩年はパーキンソン病に苦しみながらも、26年に渡りこのシリーズを書き続けたのである。1965年(昭和40年)、70年の生涯を閉じた乱歩は、全34作品を世に送り出した。現在も子供達によって読み継がれ、乱歩は後世まで探偵推理小説に多大な影響を与えたのである。

六平のひとり言

いわゆるエロ・グロな作品の印象も強いと思うけど、
立派な文学者だったと思う。
表現者として一流で、猟奇的なもの、エロティックなものから
晩年の少年向けのものまで、自由自在に書けた人なんだと思う。
その豊かな才能に感服!